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8 四つ葉製薬


「四つ葉製薬、ねぇ」


 自分の声に、消極的な感情がにじんでいるのはわかっていた。

 四つ葉製薬は一部上場の大企業だ。その闇をあばく。この依頼は、たった二人の探偵事務所で請け負うには、少しばかり荷が勝ちすぎてるようにも思えた。


「うちみたいな零細(れいさい)事務所には、ちょっとでかすぎる依頼じゃないか?」


 と素直に言う。「もちろん、やるけどさ」

 そう付け足したのは、弱気の虫が気に入らないから。ちょっとした虚勢(きょせい)だったかもしれない。まあ、できないと判断してたならユウキは依頼を断っただろう、という判断もあった。


「そうだね。……うちにはちょっと大きすぎる依頼かもしれない。でも、大手や公的機関の力を借りるわけにはいかない理由があって」


 と、ユウキの顔に気づかわしげな表情が浮かんだ。


「この依頼、内部告発なんだ。依頼人の情報がもれるのだけは、絶対にだめだ」

「あ~、なるほどね。四つ葉って、こっちの業界と関係があるんだったか」


 厄介だな。おれは内心舌打ちした。


 何かにつけて閉鎖的な霊能業界だけど、閉じたままでは稼げないからと、営利活動にかんしてだけはオープンな一面もある。まさに現金な話だけど、お金は重要なのだ。


 四つ葉製薬と霊能業界とのつきあいは長い。それだけに、四つ葉とつながりがある霊能力者もいるはずだ。大手や公的機関の内部には、そうした人物がごろごろいるだろう。そんなところに依頼を持ちこむのは、たしかに危険だった。そいつから四つ葉側に、情報が流出してしまう可能性がある。


 個人情報の保護が声高にさけばれる昨今、情報の流出は依頼人だけでなく、おれたちにとっても命取りになりかねない。吹けば飛びそうな零細探偵事務所なんて、信用を失ったら廃業まっしぐらだ。


「実験が行われているのは地下だそうだよ。そこで証拠を押さえたい」

「地下。ああ、あそこか」


 おれの脳裏に、ある場所が浮かびあがった。霊能力者への依頼、地下で行われる実験。こうなるともう、考えられる場所は一つといってもよかった。


「そう。四つ葉製薬の霊力化学研究所は、裏新宿駅にある」


 ユウキが口にしたのは、おれが予想したとおりの場所だった。


 裏新宿駅。そこは霊能力者なら誰でも知ってる場所であり、その危険性ゆえに、一般人の立ち入りが禁止されている場所でもある。警察だって立ち入ることのできない無法地帯だ。あそこを調べようとするなら、とれる手段はかぎられる。


「よくもまあ、うちを引き当てたな、その依頼人。よほどこの業界に精通しているのか、それとも相当に引きが強いのか」


 おれは依頼人に感心していた。

 裏新宿駅を調査するなら、霊能力者に依頼するしかない。そのうえ、四つ葉製薬という大企業を相手どるとなれば、この依頼をこなせるやつは、かぞえるほどしかいないだろう。つまり、


 コーヒーをすすってから、おれはニヤリと笑った。


「うちにおあつらえ向きの仕事、ってことだ」


 いい依頼だ。相手にとって不足はない。




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