04,王太子の理不尽な命令
「……?―――は??」
目を開けると視界に見えた違和感に驚いて飛び起きてしまう。
豪華な装飾、置物、高価な品々が沢山置かれた部屋をグルッと見渡して、気絶している間に連れて来られたのだと気付いた。
直ぐにこの場から逃げたい衝動に駆られてしまうけど、安易に逃げて捕まった時にどうなるか解らないので逃げるという選択は今の所しない方が無難だと思いつつ。
(・・・何で、懐かしいと思うのかな)
部屋に関して一度も懐かしいとは思わなかったのに、鼻で嗅いだ室内の御香や体感に触れる空気が懐かしいとまで感じる程、何故か私の五感が刺激されている。
その理由を探ろうと考えていたら、部屋の扉がギィと音を立てて開いた。
先程会った宰相と一緒に室内に入って来た女将が、いつもと違い正装で現れて私に近付いて来る。
侍女姿の女将がスススッと慣れた様子で一度私に頭を下げた後、頭を下げたまま壁際に移動すると、その場所に見たことも無い初対面の四十代位の男が髭を撫でながら不機嫌そうな表情で立っていた。
視線は無意識に相手の顔面を避け、威圧感を漂わせた男が着ている衣服に向かう。
赤色の袍に、腰に下がる翡翠の佩玉。着用している衣服、纏う雰囲気や威圧感、そして視界に掠った赤髪が男の正体が誰なのかを物語っていた。
「楊 紅雪、王太子殿下に拝謁致します」
誰に言われるまでもなく寝所から出ると、王太子の前で跪いて最高礼をとりながら目の前の人に挨拶をする。
頭上に降り注がれる殿下の視線には侮蔑の感情が滲んでいる様で、私の頬には冷や汗が流れていた。
「旬果に一通りの教育はされたようだが…まだまだだ。必ず半月以内に完璧に仕上げるんだ――宰相、旬果…わかったな?」
「御意」
「かしこまりました」
最高礼を取らされたまま頭上から交わされる会話を聞いていると、何となく自分が連れて来られた理由が予想出来てしまい脳が危険信号を発している。
私の予想が外れるように心の中で祈願していたけれど、王太子の「立て」の声が頭上から聞こえてくると、存在を思い出してくれたらしい殿下の視線を受けながらゆっくりと立ち上がった。
「お前は我が異母妹達の代わりに蒼鳴国に嫁いで貰う。拒否など認めない。我が国の為に身を捧げろ」
(やっぱり。でも、陛下には嫁がせられる娘がいた筈だよね…あー・・・向こうの皇帝ってお爺ちゃんだったわ…)
外れて欲しかった予想通りの言葉、どう考えても齢六十過ぎの蒼鳴国の枯れた皇帝に子煩悩と知られる陛下が愛娘たちを差し出す姿など想像出来なかった。
表情は変えずに赤髪でもない私に命令を与えた理由を探ろうと、
「私は王女ではありません。王族では無いと髪色で直ぐに気付かれてしまうのではないでしょうか…」
無礼を承知で問い掛けてみる。王族は、赤を主体とした髪色しか産まれない事は町中の誰でもが知っている。
それなのに何故、滅多に居ない白銀色で異質の私を指名したのか、その理由が知りたくなった。
「髪色など、どうとでもなる。お前は言われた通りに王女教育を受け、蒼鳴国に嫁げば良いのだ」
「……殿下の命に従います」
不敬だと罵られる事は無かったけど、指名した理由は教えてくれる気がないらしい。
これ以上の質問は許してくれない雰囲気だし、私の育ての親が人質同然に王太子と宰相に挟まれていたから、深々とお辞儀をして王太子の意思に従うしか私には出来なかった。




