フツーのパパってヤツ
何故、俺の顔を見て泣く。
確かに、ここのところ忙しかった。
帰宅は遅かったし、2週連続で休日出勤もした。
だからといって、父の顔を忘れるのか。
暁と名付けたその子供は、寝返りも打てるようになった五ヶ月。
日に日に顔が変わり、知恵もつきはじめているのが嬉しいやら感慨深いやらである。
風呂に入れるのは慧太の大切な仕事で、会社帰りに酒も飲まずにまっすぐ帰る。
手足をパタパタと動かす暁の仕草のあまりの可愛さに、かまい過ぎて泣かす。
親バカ、誕生。
否定しないもーん。母ちゃんはしっかり者で息子は可愛くて、俺、幸せだもーん。
にもかかわらず、人見知りをはじめた途端に仕事が立て込んだ。
暁は慧太が寄ると不審げな顔でじっと見つめた後、瑞穂の胸にしがみついて泣く。
泣きやんでは慧太の顔を確認して、また泣く。
ヒドイ・・・大体、おまえがしがみついてるのは、結構大変な思いをして手に入れた俺の女だ。
毎日風呂に一緒に入って、休みの日は一緒に散歩してたじゃないか。
「・・・恩知らず」
暁を抱いたまま、瑞穂が爆笑した。
「忘れちゃったんだから、覚えなおしてもらうしかないでしょ」
クールに言う瑞穂の顔を恨めしげに眺めながら、暁の視界に入っていることばかりを気にする土曜日の午前中。
顔が和らいだなと思って近づいては泣かせ、今度こそと頬をつついては泣かせである。
「暁くん、パパに抱っこさせてよ。散歩に行こうよ」
赤ん坊相手に懇願して、どうする。
眠ってしまった暁をベビーベッドにこっそり寝かせてから、瑞穂はティーバッグをマグカップに投げ込んだ。
「あんなに泣かせたんじゃ家事もできやしない。暁くん、思いの外手強いね。慧太の子なのに」
俺は手強くないわけだ。
「瑞穂、腕太くなったな」
「余計なお世話っ!右手に子供、左手に買い物籠で歩かなきゃならないことだってあるのっ!」
昼寝から起きて果汁を飲ませてもらった暁は、機嫌が良くなったところでやっと慧太の顔を見て泣かなくなった。
おそるおそる頬に手を伸ばす。
「暁くん、ちゃんと覚えててね、パパなんだから」
きょとんとして悪びれない顔のままの暁をやっと夕方の散歩に連れ出した後、残った瑞穂がぐったりとソファに斃れこんだことを、慧太は知らない。
fin.
急に2話も割り込ませてしまい、失礼しました。
短編として考えたのですが、一連の流れですので、こちらが適当かと思われました。
よろしければ、感想などいただけると嬉しいです。