003
一軒家である自宅のリビング。
四人掛けのテーブルは満席だが、そこに親は存在しなかった。
悲しい話ではない。
単純に、単身赴任がきまった父親に母親が付いていったという構図だ。
住人は、まず俺。
そして目の前に座るのは二人の中学生。
双子の妹であり、名前は姉が右京、妹が左京。
あまりにも適当すぎる名前だと思っているが、本人たちは意外と気に入っているらしい。
なお今日の妹の髪型は、左サイドテールが右京ちゃんで、右サイドテールが左京ちゃんらしい。くそややこしいが、さすがに兄なので、見間違えることはない。たぶん。
「ぜったいに詐欺じゃん」
「ぜったいに詐欺だね」
そんな可愛い妹たちが、辛辣な言葉を吐いてくる。
夕飯のてんぷらソバをおいしそうにすすっていれば可愛いだけで終わるものを、口を開けば罵倒ばかりだ。
「詐欺じゃないだろ……」
言い返しつつも、完全に言い返せない自分がいる。
なにがって、つまり『デート』の話である。
話の流れから、休日の予定のこととなり、妹たちにどうしても断りを入れる必要がでたので言い訳をしていたら、いつの間にかすべてを聞き出されていたのである。
俺ってば、なんてチョロいんだろう……。
「兄ちゃんみたいな雑魚にギャルが食いつくわけないじゃん! ね? さーたん(左京のあだ名だ)」
「うんうん。うーたん(右京のあだ名である)の言う通りだよねー。おにいには現実が見えてなーい」
言いたいことはわかるよ。
思い返したって、あんな美少女ギャルから「デートしよう」なんて誘われたことが現実だとは思えない。
でも、本当なんだから仕方がない……。
「こらこら、ちがうでしょぉ」
やんややんやと言い合っていると、俺の隣に座っていた従妹の姉「ミホねーちゃん」がかばってくれた。
ミホねーちゃんは、俺たちの母の姉の娘である。今年で二十いくつ。数えると殴られそうになるが、基本的にはおっとりしていて、やさしく、昔から交流もあるので気心も知れている。
波打った栗色のセミロング。垂れ目。胸は大きいのに四肢も腰も細い、抜群のスタイル――いや、これ、俺からの評価じゃないからな? 妹たちがいつもミホねーちゃんに「そういうパーツを売りにしろ! 芸能の世界を舐めるな!」と説教かつ応援しているのだ。
なんの応援かといえば、ミホねーちゃんは舞台俳優なのである。
去年、都心を拠点とする有名な劇団に合格したものの、東北住まいだったため色々と困っていたらしいが、このたび父の転勤に伴い住まいや食事などの利害が一致し、俺たちの保護者代わりに一緒に住んでくれているというわけだ。
本当にありがたい。そばをすする。めっちゃうまい。東北生まれだからかちょっとしょっぱいけど、若者にとっちゃそっちのほうがうまい。
ミホさんがお茶を飲んでから妹たちに言った。
「そういうのは、詐欺じゃなくて、美人局っていうんだからねぇ」
俺は箸を置く。
「ミホねーちゃん? ちがうからね? たぶん」
「え? ちがうのぉ?」
「ちがうよ、たぶん」
「じゃあ、たぶん、それは詐欺ねえ?」
「「だよねー!」」と妹たち。
ちくしょう。言い返せない。
けど、やっぱりこれは夢でもなければ、詐欺でもなく、当然、美人局でもないようだった。
なにせ、灰瀬と交換した連絡先――チャットアプリのLIMEに連絡が入ったから。
『秋葉原、案内してくれる?』
秋葉原?
いや、俺もそんなに詳しくないんだけど……。
なんていうか、ステレオタイプでオタク=ゲーム好き=秋葉原とか思ってるのか?
なんてこった。
俺は即答した。
『はい』
これが俺の限界だった。
休日はすぐにやってきた。




