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ゲームを理由にスルんじゃない。 ~なんでゲーム嫌いのギャルがゲーム部を作るのか~  作者: 斎藤ニコ・天道源


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 高校一年になった俺は、ガキの頃にくらべたら、ずいぶんと成長したように思う。が、それでも苦手なものがいくつかある。


 まず、ニンジン。

 嫌いな理由が必要か?

 とにかくアイツは、色こそ素晴らしいと思うが、味がいやだ。あと煮たときの触感がいやだ。納豆はなぜか食べられるようになったのだが、ニンジンだけはだめだ。普通は逆でしょ、と妹にバカにされているが、ダメなものはダメ。


 つぎに、自分の名前。

 姓は近藤、名は……遥(はるか)。

 小学生のころに『女みたいな名前』と茶化されてから、自己紹介をするときに緊張するようになった。トラウマってやつだ。今でもフルネームで呼ばれると体が強張ってしまう。

 いとこの姉は「とっても素敵な名前だとおもうけどぉ~」などと褒めてくれるが、苦手なものは苦手なのだ。

 

 そして、ギャルだ。

 理由なんてわからない。とにかく『なんか自分とは違う目的をもって生きている生命体』って感じがきつい。緊張する。近くに寄りたくない。

 やつらは肌を焼いて黒くなったり、突然変異のように白くなったりと、わかりやすいスタイルを貫いてきたらしいが、令和のギャルというのは多種多様に自分を貫くスタイルらしい――いや、今はそんなことは、どうでもいいのだ。


 他にも苦手なものはあるが、今はこの3つをあげさせてもらう。

 それはなぜか? 理由を説明しよう。

 目の前の異様な光景が答えだ。


「あの、これ。チラシ……なんだけど、もらってくれない?」


 いらない。でも言えない。緊張してるので口はまわらない。なぜ緊張してるかって? さっき答えは言った。

 つまり……目のまえにギャルが居るってことだ。苦手なものの一つ。緊張の原因。


 高校生活一か月目。

 母校と呼ぶにはまだまだ日が浅く、クラスメイトの顔と名前がようやく一致し始めた時期の、放課後。


 モンスター高校と呼ばれるくらいに生徒数の多い校内で、数多の生徒がいるというのに、ピンポイントでA4サイズのチラシが眼前に突き付けられていた。

 これがFPSゲームならばヘッドショットで一撃死……、などと思い出したくもないような比喩が頭をよぎっていたが、それ以上にイヤなものが目に映っていた。


 人参だ。

 それはニンジンだった。

 チラシにニンジンが書いてあるのである。

 八百屋か?

 ギャルの八百屋っているのか?

 状況を把握するためにも、今一度、目の前のギャルを観察した。


 紙を持っている。それを俺につきつけている。

 同級生の女子、らしい。一年の青いリボンをつけてるから。

 白い肌、長くまっすぐな髪、その色はなんと銀色だった。

 不思議なことに、まつ毛も眉毛も同じ色に見えるのだが、まさか地毛なのだろうか。いやそういえば、そんな生徒がいるとかいないとか、クラスメイトが話をしていた気もする。

 ピンクの唇はてかっていて、短いスカートは中が見えそうだ。そのくせどこか真面目そうな表情でこちらを見る、このアンバランスな自由さ。これぞギャルだ。でも、なんだか少し、落ち着ているようにも見える。俺の中のギャルってのはもっとぐいぐいくる。


「これ、見て」


 訂正。ぐいぐいきた。ぐいっと突き付けられているチラシに、圧を感じる。ほんわかとした絵が描いてあるというのに、ぐいぐいくる感じが、俺の歩調を狂わせる。

 しかもその絵は、ニンジンなのだ。

 文字も書いてあるが、ニンジンが目立っている。

 見たくない。

 心の壁をつくろう……。


「ひとつ聞いていい?」

「あ、はい」


 壁が壊された音がした。


「キミ、近藤くん、だよね?」

「え? ああ、たぶん……」


 近藤なんて、結構いるけどな。

 それにしても、なんで名前を知っているんだ?

 まさかピンポイントで俺に近づいてきたのか?


「たぶん、ってなに? キミがコンドウハルカくんなんだよね?」

「っ、……そうだけど……」


 フルネームで呼んできた。緊張が走る。

 視界の中に、ニンジンのチラシがひらりと翻る。げんなりとした。

 なんで『この内容』のチラシにニンジンを書く必要があるのか――じっと見ていると、意外と賢そうなギャルは恥ずかしそうに言った。


「馬、好きだから……ニンジン書いてみた」

「ああ、そうなの……」


 馬が好きなギャルって新しい。

 競馬でもしてるんだろうか。

 ギャンブルは成人してからだぞ。


「それで、これ。チラシもらってくれたら嬉しいんだけど」

「もらうのは、いいけど……」


 素直にチラシを受け取った。

 本当は……本当は、ニンジンよりも見るべきではない文字が書いてあったから、見ないふりをして話を終わらせたかった。で、家に帰って、ハマっているRPGゲームの続きをしようと思った。毒は毒で制すものだから。

 それなのに、俺は今、『名前とニンジンとギャル』という苦手なものを三つも突き付けられて、足止めをくらっている。

 これが俺の高校生活である。


 まあいい。

 チラシを受け取れば終わるイベントなんだから、受け取ったのだ。

 簡単な話――ではなかった。

 しかし、ギャルは立ち去らない。

 黙って立っている。


「……」

「……?」


 チラシを配るのが目的なら、もう達成したはずだろう。

 それにしても、周囲の人間の視線が痛くなってきた。

 ギャルは、結構かわいい。いや、かなり可愛い。すごく可愛い。銀色の髪、白い肌、清楚な白いワンピースでも着られたらアイドルみたいだ。それくらい素晴らしい造形だった。


 そんなギャルは、自分だけが世界に存在しているかのような傲慢さで、俺にだけ聞こえるような声で話し続けた。

 自分の名前を告げる前に、目的だけを。


「わたし、ゲーム部を作るんだ」

「そうみたい、だな」


 よりにもよってゲーム部か……。

 手元のチラシにはこう書いてある。

『ゲーム部員募集! みんなで学生大会を目指そう(ニンジン)』。

 やっぱりニンジンいらん。

 

 なんの因果なんだろう。捨てたものを拾わされるというか。いやなことを思い出させられるというか。いや、違うか。

 俺にわざわざ話しかけているということは、俺のゲーム好きをどこから知ったってことか? たしかにクラスで一人でスマホゲームをしてりゃ、そう思われてもしかたがないか。


「近藤くんって、部活決まってるの?」

「いや、入る気もないけど……」

「家帰ってゲームするの?」

「まあ……するけど」

「なら、学校でゲームするのでもよくない?」


 合っているようで、決定的にずれたことを言うギャルである。

 家でだらだらしながらやるゲームと、部活のゲームが同じわけもなく。

 それでもゲーム好きからしたら、学校でやるゲームはまた一味違った興奮があるのかもしれない。

 少しだけ、俺の気持ちが揺らいだ。

 それはダメなのに――ごまかすように、俺は言った。最大限の愛想だった。


「えっと、キミは……つまり、そのー、ちなみに名前は……?」

「あ、名前か、ごめんごめん。わたし、灰瀬夏鈴(はいせかりん)っていうの。よろしくね」


 ハイセ。

 どこかで聞いたことのある名前である。やはり学校内のアイドル的生徒なのかもしれない。残念ながら友達が少ない俺では、一か月では知り得ない情報だ。


 なぜギャルがゲーム部をつくるのか? なんてことを知ることはないだろう。知りたくもない。学校にきてまでみんなとゲームがしたいなんて、ある意味ではうらやましいくらいだ。

 望んだってもう手に入らない。

 うらやましいくらい純粋な気持ち――きっと彼女もそうなのだろう。


 一人で頷いているギャル――いや、灰瀬さんに向かって、俺は言う。


「灰瀬さんは、ゲーム好きなんだ?」


 憧れさえ感じる俺の言葉に、灰瀬さんはニコリと笑う。

 それから大きく首を振った――真横に二回。


「ぜんぜん、好きじゃないよ。むしろ嫌いかも」

「……、……」


 な、なるほど。

 これは予想外だ。

 普通はここで「うん! そうなの!」みたいな感じになるのがセオリーじゃないのか。

 部活って普通、好きなものに属すんじゃないだろうか。

 仮に両親などから強要されるパターンだとしても、ゲーム部はないだろう。

 じゃあ、なぜ?

 いや、その理由は知らない方がいい。そんな直観。

 俺の中での答えはでてるわけだし……。

 潔いほどの言葉を受けて、俺もしっかりと答えることができた。

 訂正。

 ちょっと噛みました。


「ぶ、部活は間に合ってるんで……では……」

「え、あ、ちょっと、近藤くん、もうちょっと話を――」


 アイドル生徒なのだとしたら、周囲からはうらやましがられるシチュエーションなんだろうが、この状況は俺には不要だ。


 引き留めようとする言葉を背に、俺は足早に学校を去った。

 とんでもない一日の最後だった。


 いや、ちがうか。


 後から考えてみればこれは、とんでもない高校生活の始めの一歩だったのだ。

 この日から、俺の周囲はふたたび騒がしくなった。

 ゲームで。

 フレンドで。

 俺の青春は形成されようとしていた。


     *


 これはゲームを理由にした俺と。

 ゲームを理由にしたくない彼女の。

 似ているようで、似ておらず、でもやっぱり同じ道を歩くことになった、未熟な高校生二名の物語である――。


 

 さて。

 話は数日後に進む。


先が気になる場合には、ブクマやいいねをいただけましたら!

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