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自転車泥棒

「へぇ〜。こんな場所に自転車を放置していったとは」

 駅前の駐輪場に放置された自転車を見ながら、狩谷警部補は嘆息した。

 設置された防犯カメラが放置した人物を捉えているはずだ。管理者に依頼して、録画された映像を確認しなければ。

 管理者の連絡先が分からない。まずは駅前交番に行き、訊いてみることにしよう。

 駐輪場から交番へと歩いている途中に振り返ると、女が1人、自転車の前籠に荷物を載せようとしていた。

 先程から辺りをふらつきながら、自転車に視線を向けていた女だった。

 狩谷警部補は慌てて駆け寄ると、警察手帳を示してから「これは盗難された自転車なんですが、貴女のものですか?」と声を掛けた。

「そうです。私のものです」

 突然の声掛けに驚いたか少し震えた声ながら、しっかりとした口調で答える。

「こんな場所で見つける事が出来るだなんて、偶然とはいえラッキーです」

「どこで何日前に盗まれたのですか?」

「3日前にスーパーの駐輪場で盗まれたんです」

 狩谷警部補は頷きながら、女の話に耳を傾けた。

「盗難届は出されましたか?」

「いえ。もう戻って来ないと思って、諦めましたから」

「そうですか。届け出てくだされば、貴女の元に戻りやすくなりますよ」

 事情を詳しく訊くために、交番へと同行を求めた。

 女が鍵を開けて自転車に跨ろうとするのを、狩谷はハンドルを握り制して、「私が押して行きますから」と交番を指し示した。

 女を先に入らせると、立ち上がった巡査部長にも警察手帳を示しながら、「刑事生活安全課の狩谷です」と名乗り、盗難自転車の件で使わせてほしいと伝えた。

 椅子に座らせた女の前に立つと、「貴女、嘘をついているでしょう?」狩谷は言い放った。

「あ?」突然の言葉に女の目つきは鋭くなり、口調が粗くなる。

「おっさん、警察官だからって何言ってもいいわけじゃねーから」

「君は嘘をついている。防犯カメラの映像を確認すれば分かる事だぞ。今、自分の口で本当の事を言いなさい」

 諭す口調の狩谷に向かって、女が口を開こうとした瞬間、「あの自転車は私のものだ」

 強い口調で狩谷警部補は言った。

「3日前にスーパー駐輪場で、盗まれた私の自転車だ」

 ちゃんと防犯登録番号込みで盗難届を提出してある。届けを受理した警察官の「警察官なのに盗まれるなよ」と言いたいであろう目を思い出す。

 巡査部長が帳面のページをめくり何かを確認すると、外に出て防犯登録シールを確認しながら無線機で話始めた。


 「犯人を捕まえたし、自転車も無傷で戻ったけどさ。あれは恥ずかしかったね」

 狩谷警部補は苦笑いを浮かべた。

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