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翠緑の獅子と薄桃の兎  作者: あまがえる


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20/25

むしろ控えめな位です 【マークス】

 窓はめちゃくちゃな音を立てて壊れた。窓枠は木で造られていたから、壊すのはとても簡単だった。むしろ自分が突っ込んで行くだけで壊せたかもしれない。


 割れたガラス窓の隙間から見えるベッドの上に、殆ど裸にされたフレリアと汚ぇ豚が乗っている。幼い日に見た地獄のような光景と重なって、自分の理性が千切れそうになる。

 男が窓際に近付いてきた時、考えるよりも先に体が動いていた。俺は持って来ていた別の剥製をもう一体放り投げる。


 豚が喚くのも無視して彼女の側へ行こうとすると、フレリアは俺に気付いてこちらに走って来ようとする。

 相変わらず自分の事より他人の事ばかり。足元はガラスだらけだというのに。


 急いで彼女の元へ近寄り、怖がらせないように優しく抱き上げた。肩から血を流し、顔は腫れて唇の端にも血が滲んでいる。どうすればこんな酷い事が出来るんだ。重なったシーツから汚れの少ない一枚を取って彼女を包む。


 安心からか、フレリアは肩を震わせて涙を落とす。俺を巻き込んで申し訳ないと謝るフレリアは、こんな時でさえ綺麗だ。彼女が謝る必要なんて一つもないのに、フレリアは謝罪を止めない。


 落ち着かせる為に声を掛けて目を合わせると、美しい彼女の瞳が俺の目を見つけ、また涙を零す。彼女の瞳はまるで宝石のようだ。


 いつも俺の瞳を美しいと言うフレリア。けど俺は彼女より美しくて澄んだ瞳を知らない。

 もし、彼女が急に俺への興味が失せてしまったらどうしよう。今も昔も、ずっとずっとそう思っていた。"見守る"なんて格好つけていたけれど、本当は拒絶されるのが怖い。俺は臆病者だ。


 フレリアはやっと「怖かった」と言ってくれた。それを聞いた瞬間に、俺が強くて大きな体に成長した意味が宿った気がした。



 その時、後ろからゴミ野郎が喚く。それを聞いて、ナイフを持っているからすぐに引くようにフレリアが叫んだ。


 大丈夫。殺しはしない。

 こんな糞野郎でも万が一死んでしまったらフレリアは悲しむだろう。本当はくびり殺してやりたいが、ちゃんと生きて償わせる。

 俺は自分達のトラウマに向かって突撃した。


 思っていた以上に男爵は弱かった。それとも俺が強くなったのか。そんなのはどちらでもいい。赤子の手をひねるよりも簡単に男爵は吹っ飛んだ。

 フレリアがもう止めろと言うが、それは出来ない。ちゃんと生きてる間に二度とアリアストリ家にちょっかいを出せないようにしないと。


 そう言おうとした時に、腰に痛みが走る。豚野郎は懲りもせずにナイフでこちらを刺してきた。確かに多少痛いし血も出ている。


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 考えた瞬間に最後の理性が千切れ、転がっていた剥製を目の前の悪魔に思い切り振り下ろした。


 ゴリ、と鈍い音がしてタギー男爵は直立したまま仰向けに倒れた。白目をむいているが指先がピクピクと動いているので死んではいないだろう。むしろ死んでしまえ、と思って殴ったのに運がいい奴だな…と見下ろしていると、フレリアが大声で叫ぶ。


「マークス!!血が…!!」


 泣きながらこちらへフレリアが駆け寄る。あ、そこはガラスがあって危ねぇ…と思ったら、彼女はちゃんと靴を履いていた。

 良かった、と思った瞬間、目が霞む。ポトリポトリと音がして、その音の方へ目をやると血溜まりが出来ていた。血溜まりの元を辿ると、どうやら俺らしい。


「マークス!!しっかりして!!」


  

 愛おしい人の声を聞きながら、俺はゆっくりと倒れた。

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