説明求ム 【ライリー】
姉さんとマークスが出て行ってから時間が経った。
夜はもうずいぶん深くなりベッドでスヤスヤと眠るミアを、ソファから眺めていると、つられて僕も眠気に襲われそうになる。
「二人とも…大丈夫かな…」
なかなか仲の進展しない、まどろこっしい二人の事を考えていると、ふいに玄関辺りから音が聞こえた。同じ部屋で控えていたジェナがすぐにそれに気付き、坊ちゃんは部屋に居てください、と言って出て行った。
「フレリア様?!どうされたのです?!」
いつもは冷静なジェナの慌てた声が聞こえて、思わず玄関へと向かう。
「姉さん!」
玄関では血だらけのシーツを巻いた姉が泣き崩れている。
「マークスが…マークス…が…」
姉さんはそう言って泣くばかりで少しも話の要領を得ない。ジェナがすぐに姉さんを風呂場へと連れて行く。その途中にチラリと見えた姉さんの肌には、至る所に打たれたような跡が見えた。
「何だよ…あれ…」
一体何があったんだ。追いかけたマークスは?
浴室からは「お嬢様も怪我をされているんですよ!」とジェナが何かを嗜める声が聞こえるけれど「すぐに行かなきゃ」と姉さんが大きな声で言っている。どうやらまたどこかへ行こうとしているみたいだ。
湯浴みをして出て来た姉さんは顔が腫れて唇に血を滲ませ、見えない部分もあちこち怪我をしているようだ。ジェナが言うには肩口に刃物による切り傷があると。とんでもない事だ。
それなのに夜着に着替えていないところを見ると、姉さんは本当に出かけるつもりらしい。
「お願い、ちゃんと馬車で行くから行かせて…」
姉さんはジェナに懇願する。ジェナは姉さんを説得するつもりはあまりないらしく、自分も一緒に行くなら、という条件で了承しようか迷っている様子だ。
「どうしたんだい?こんな夜遅くに」
「お父様…!」
さすがに騒ぎを聞いて父さんがやってきた。姉さんは意を決した様子で父さんに駆け寄る。
「…お父様!私が病院に行く事を許可して下さい。マークスが私を庇って大きな怪我を…そのまま運ばれてしまって…」
言いながら姉さんの目にみるみる涙が溜まる。姉さんのあまりにも真剣な様子に、父さんはすぐに馬車の手配を許可してくれた。
「しかし一体何故…?タギー男爵のご様子はどうだったんだい?」
父さんが訊くと、姉さんはキッと目を顰めて叫ぶ。
「男爵がマークスを刺したのですわ!恐ろしい人です、あの人は」
そして僕たちは数年前のタギー男爵の蛮行を初めて知る事になる。今までずっと姉さんは隠していたし、今日がなければ誰にも言うつもりは無かったらしい。
「…そ、そんな…」
大きなショックを受けているのは父さんだ。事業を共にしている仕事仲間が娘を毒牙にかけていた。しかも自分はそれを知らずにその相手へ娘を呑気に向かわせたのだ。そのショックも重なって青い顔をしている。
「…だけど、マークスは男爵を剥製で殴ってしまったし、屋敷も少し壊してしまったから…ちゃんと私が無実を訴えないと…。マークスが捕まってしまう…」
幼い頃に受けた酷い暴行と今回の事を一気に喋って姉さんはまたボロボロと涙を溢した。
確かに一般市民のマークスと爵位のあるタギー男爵では、そもそも取り調べの精度が違う。妙な話だけど爵位が上にある方が刑が軽くなったり、逆に市民というだけで科刑が増えてしまったりする事がある。
姉さんはマークスと男爵が差し違えた後、近くの民家へ行って救護を頼んだらしい。二人ともすぐに手当てが必要との事で病院へ運ばれて行ったけれど、こんな時間の乱闘による受診だ。すぐに警官隊が調べに来るだろう。男爵はマークスが大きく不利になる証言をするに決まっていて、それを憂いて姉さんは急いで病院に行きたいらしい。
僕達はマークスとタギー男爵がいる病院へと急いで向かった。




