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吟遊詩人にでもなれよと馬鹿にされた俺、実は歌声でモンスターを魅了して弱体化していた。ギフト【歌声魅了】と先祖の水竜から受け継いだ力で世界を自由に駆け巡る!魔力無しから最強へ至る冒険譚~  作者: 綾森れん
第七章:火大陸編/Ⅰ、大型木造船、嵐の夜に沈没する

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08、海賊船の正体

 女船長は盛大な溜め息をついた。


年端(としは)もいかない少女を泣かせるつもりじゃなかったんだがな」


「な、泣いてないもん」


 俺は恥ずかしくなってうつむいた。ツインテールがさらりと頬にかかって、今の自分が女の子だってことを思い知らされる。


 女船長はふっと笑うと人差し指で俺の頬をぬぐい、


「銀色の長いまつ毛が涙にぬれているぞ」


 と優しい声を出した。くそっ、態度がイケメンだな! 俺が船長さんの役やりたいよっ


「それにしても帝国はひどいな。いくら先祖返りした亜人族で戦力になるとはいえ、君のような幼い少女を武器がわりに使うとは」


 先祖返りって火大陸の人も知ってるんだな。でも俺は幼い少女じゃないし、武器がわりに派遣されているわけでもない。帝国ではアルジェント子爵ってかっこいい呼ばれ方して、皇帝陛下から直々(じきじき)に依頼を受ける強ぉい竜人なのにっ!


 どこから訂正しようか迷っていると、


「君の婚約者とお姉さんに関する捜索と救助についてだが」


 女船長が重要な話を始めた。


「船が事故に遭った正確な場所は分かるのか?」


「えっ、さっき俺がいたあたりとしか――」


 曖昧な俺の言葉に女船長は難しい顔で腕を組んだ。


「あのあたりの海域には君たちしかいなかった。昨夜は風が強かったから潮の流れが速く、流されてしまったのかも知れないな」


「そんなあ」


 俺はますます不安になる。


「潮の流れていきそうな方角を望遠鏡で見ても無理ですか!?」


 だが彼女は苦しげに首を振った。


「舵の壊れた船でさまよっているのなら、我々が航海しながら見つけられる可能性もあるが、船を失って洋上を漂っていては望遠鏡で探すことは難しい。多くの船を出して人海戦術で探すしかない」


 そういうものなのか――


「君がレジェンダリア帝国の皇帝や騎士団長と面識があるなら、帝国に帰って権力者に捜索を頼んだ方が良いだろう。この船は水の大陸へ向かっている。港に着いたら――」


「ええーっ!?」


 俺は驚愕の声を上げた。俺たち、水の大陸に戻ってたのか!?


「だってこの船」


 口をはさんだのはユリアだった。


「わたしたちの進行方向から来たじゃん」


 言われてみればその通りだ。火大陸から水の大陸へ向かっていたのだ。


「水の大陸に何しに行くんですか!? まさか漁村を襲うんじゃあ――」


 今度は俺が疑心暗鬼にかられる番だった。


「安心しなさい。港へ入るときは砲門のふたは全部閉じるし、海賊船の旗も降ろすから」


「この船って本当に海賊行為をしているんですか?」


 俺がまっすぐ疑問をぶつけると、女船長はいたずらっぽく首をかしげた。


「勝てそうな海賊がいたら戦ってみるかもな」


「商船を襲ったりは――」


「そこまで我々は困っていない。遠洋で獲った魚を帝国の港に運べば、野菜や保存用のパン、葡萄酒なんかと交換してもらえるからな」


 やっぱり偽物の海賊船だった。現在、水の大陸へ向かっているのも食糧を調達するためなのか。


「なぜ海賊船のふりを?」


 俺の問いに、女船長は少し厳しい表情になった。


「君も気づいているだろうが、この船に乗っているのは女子供と年配の男ばかりだ。だが船自体は大きな戦艦なのだから、海賊船を装っていた方が本物の海賊よけになるだろう?」


 なぜ若い男がいないのかと問おうとして、俺は火大陸の状況を思い出した。ある部族が不死鳥(フェニックス)の生き血を飲んで不死身となり、ほかの火大陸民を圧倒したのだ。


「あなたたちは不死身になった部族に負けて海へ逃げている――」


「その通りだ」


 彼女の声が低く響き、船の揺れに合わせて古びたベッドがきしんだ。それまで気にならなかった低い天井も、そこからロープで吊るされた消えたままのランプも、全てが重苦しくのしかかってくる。


「私の婚約者は鳥人族と戦って死に、兄は今も彼らの捕虜となってほかの部族と戦わされている」


 想像を絶する告白に俺は息を呑んだ。同時に、何も知らなかったとはいえ自分の婚約者や姉を探して欲しいと頼んだことを後悔した。


 ごきゅごきゅとハーブティーを飲んでいたユリアがカップをテーブルに置き、


「超人ってすんごい人のこと?」


 と、とぼけた質問をした。


「鳥人族とは火の精霊王<不死鳥(フェニックス)>と人が交わって生まれた種族だと言われている」


 女船長が淡々と説明する。つまり俺たち竜人族みたいなもんか。水の精霊王であるホワイトドラゴンのドラゴネッサばーちゃんは、俺のご先祖様だもんな。


「鳥人族はシャーマンの力に恵まれた種族で、昔から不死鳥(フェニックス)に仕え火の山を守ってきた。それが――」


 彼女はギリリと歯噛みした。


「今の族長ゲレグが不死鳥(フェニックス)を裏切り、他部族を攻め、自ら王と名乗ったんだ」


 ゲレグとかいう奴が、俺たちが倒すべき敵の親玉ってことだな。


「鳥人族はみんな不死の肉体を手に入れているのか?」


 俺の問いに彼女は氷のように冷たい声で、さあな、とつぶやいた。


「少なくとも私たちの集落に攻めてきた兵士たちは皆、ついても刺しても死ななかったぞ」


 死なない兵士と戦って、彼女の恋人は命を落としたのだ。


 不死鳥(フェニックス)が住む火の山を守り、精霊王に祈りを捧げるシャーマンである鳥人族は、レジェンダリア帝国の感覚なら部族全員が聖職者といったところか。それがある日不死身となり、戦闘一族へと変貌を遂げて攻め込んできたのだから、彼女が簡単に俺を信じられなくても当然なのかも知れない。


 女船長はハーブティーを一気に飲み干すと、勢いよく立ち上がった。


「君たちの部屋を用意させよう。今夜寝る場所が必要だからな」


「今夜?」


 俺は思わず問い返した。水の大陸へ戻るなら三日くらいかかるはずだ。というのも俺たちの船が帝都を出て三日目の夜に沈没したのだから。


「ああ、今夜だけだな。帝国の一番近い港へは、明日には着く予定だからな」


 そうか、帝都へ帰るわけじゃないもんな。潮の流れの関係で時間を短縮できるのだろうか――いやそれでも、


「明日着くって早くないですか!?」


「この船は魔導船なんだよ」

次回は軽く魔導船の説明をしたあと、ジュキが船長のために歌います。

ようやく歌声魅了(シンギングチャーム)をかけるチャンス!?

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