12、冒険者ギルドにて意外過ぎる出会い
精霊教会の鐘楼を隠す朝もやが、山全体を覆っている。
俺の両親と、サムエレの叔父である神父様が、村の出口まで見送ってくれた。
半年前、領都に働きに出たねえちゃんはいない。冬至の精霊祭には帰ってきたけれど、新年早々また仕事に戻っていった。
「きれいな嫁さん連れて帰ってこいよ!」
酔ってもないのに親父が冗談を言って、俺の背中をバシバシと叩く。
「まあジュリアーナほどの美人なんて、レジェンダリア帝国じゅう探してもいねぇだろうがな」
セイレーン族出身の母さんは確かに美人だし、声も綺麗だ。親父が自慢するのもうなずける。だが母さんは盛大にため息をついた。
「あなたその話はもういいから。ジュキちゃんにわたすものがあるんじゃないの?」
「おお、忘れるとこだった!」
母さんにうながされた親父が、
「旅立つお前に餞別の品だ」
と手渡したのは亜空間収納。
「腰に巻いて使うのよ。背中側につけて上からマントを垂らしておけば防犯にもなるし、邪魔にもならないでしょ」
母さんは俺の白いマントの下に亜空間収納を付けてくれた。
「ジュキちゃんの竪琴を入れてあるから」
母さんのこのお節介がのちのち役に立つなんて、このときは思いもしなかった。
神父様も穏やかな微笑を浮かべ、
「二人ともさまざまな種族の人に出会って、色んな経験を積んでくるのですよ。そして常に感謝の心を忘れないようにしなさい」
「うん、神父様!」
「はい、叔父様」
俺たちは同時に返事をした。
だがサムエレの顔に張り付いていた素直そうな笑顔は、木立の向こうに三人の姿が見えなくなると同時に消え失せた。
「いいかい、ジュキエーレくん」
サファイアみてぇな瞳が眼鏡の奥で、底冷えするような光を放つ。
「気が済んだらすぐに帰るんだぞ?」
「なんでだよ? あんた『水の大陸』中を冒険したくねぇの?」
歩き慣れた山道を下りながら、俺はまじまじとサムエレの顔を見つめた。
「冒険なんてとんでもない! 僕は汗をかくのが嫌いなんだ」
ああ、だから教会の中庭を掃除するときいつも、不服そうな顔をしていたのか。聖歌の練習を終えた俺が声をかけても舌打ちしてきやがったのは、俺が涼しい教会の中にいたからかな?
「じゃあサムエレ、なんで俺の旅についてくるなんて了承したんだ?」
「叔父さんが、君のお守りをして村の外を見てくることが、僕を正式な聖職者に任命するための試練だって言うからさ」
「神父様はお守りなんて言わなかっただろ?」
嫌な言い方にカチンときて問いつめる。あの優しい神父様が、そんな言葉を使うはずはない。
「ククク、どうだろうね?」
サムエレは意地の悪い笑みを浮かべた。
ああ嫌だ、こいつと領都まで四刻余り、顔を突き合わせていなきゃならないなんて。冒険者ギルドで早々にほかの聖魔法使いを探さなくちゃ。
俺たち竜人族の村がある低い山を下りると、セイレーン族の漁村が広がっている。パステルカラーに塗り分けられた家々の壁が、朝日にまぶしい。
波音を聞きながら、潮風に強い低木や松が立ち並ぶ海沿いの街道を歩き続ける。時おり荷馬車が土ぼこりを上げて、俺たちの横をすり抜けていった。
午後の日が傾き始めたころ、俺たちは商店が軒を連ねるにぎやかな領都ヴァーリエの冒険者ギルドに着いた。
「ヴァーリエへようこそ。人が多くてびっくりしたでしょ?」
カウンターごしに笑顔を向けたのは、プロポーション抜群の受付嬢。紫がかった銀髪を高い位置で一つにまとめ、母さんゆずりの美貌が輝く――って、
「ねえちゃん!? 領都で働くって言って家を出たのに――」
「だから言った通り領都で働いてるじゃない」
そう、ギルドの受付に立っていたのは姉アンジェリカだった。
登録料を支払って一通り手続きを済ますと、姉はカウンターの下から水晶を取り出した。
「それじゃあギフト鑑定と魔力値の測定をしましょう。手をかざして」
言われた通り水晶に片手をかざす。かすかな熱を感じるだけで、何も変わったところはない。
「ジュキエーレ・アルジェント、ギフト<歌声魅了>――」
姉はブツブツとつぶやきながら、水晶に浮かんだ古代文字を羽ペンで綿紙に書き写していく。
「レベル―― えっ、すごいわ!」
姉が水晶に浮かんだ文字を二度見した。
「レベル99!?」
姉アンジェリカの声が跳ね上がった。
ギフト<歌声魅了>でジュキは無双できるのか、それとも?
次回は魔力も鑑定します。
いまだ魔法が使えないジュキの魔力値はどうなっているのか?
次回『衝撃的な鑑定結果』よろしくお願いします!