13、衝撃的な鑑定結果
「ジュキエーレ・アルジェント、ギフト<歌声魅了>―― レベル99!?」
姉アンジェリカの声が跳ね上がった。高く澄んだ音色が、ギルドのざわめきを突き抜ける。
「レベル99ってすごいのか?」
カウンターに身を乗り出した俺の問いに答えたのはサムエレだった。
「すごいも何も、レベルは99が最高なんですよ。何も知らないんだな、君は」
声をひそめて馬鹿にする後半の言葉はおそらく、すぐ近くにいる俺にしか聞こえなかっただろう。言い返そうと口を開きかけたとき、
「ギャハハハ!」
うしろから馬鹿笑いが襲って来た。
「どこのチビかと思ったら、やっぱりお前じゃねえか、ジュキ!」
ギルドに併設された酒場の方から歩いて来たのは、燃えるような赤髪を頂いた大柄な男と、
「イーヴォさん、シロヘビの化け物っスよ。退治しましょう」
彼の子分ニコだった。
「ジュキちゃんは化け物じゃなくて天使よ。あんたの舌、引っこ抜いていい?」
姉がにらむとニコはその場に凍りついた。
「ねえちゃん相変わらず強ぇな」
苦笑する俺に、アンジェリカはぺろりと舌を出した。
「鑑定したら私、<威嚇>っていう精神操作系ギフトを持ってたの」
姉弟そろって精神操作系ギフトか。ま、母さんの遺伝だろうな。
「おいおいジュキ、お前まさか冒険者になるつもりじゃねえよな?」
イーヴォがあざ笑いながら見下ろして来やがる。
「悪いか?」
俺はまっすぐ見上げた。
「ギャハハハ! だってお前、歌って女を落とすギフト授かったんだろ?」
「その言い方やめてくれよ」
「バトルに使えねぇギフトを授かるたぁ、ひ弱なジュキちゃんにぴったりじゃねえか!」
イーヴォはわざとらしく腹を抱えて笑った。
そのあいだにサムエレは鑑定を終え、「サムエレ・ドーロ、ギフト<記憶>レベル60、推定平均魔力値28,500」と記された用紙を受け取っていた。
すらりと長身のサムエレが手にした綿紙を背伸びしてのぞきこんだ俺は、
「ねえちゃん、俺も推定平均魔力値っての知りたい」
「はいはい、そうね。すっかりレベル99にびっくりしちゃったわ。もう一度手をかざして――」
俺が先ほどと同じように水晶玉に手のひらをかざすと、姉の顔がみるみるうちに蒼白になっていった。
「どうしたの?」
俺の問いに、ねえちゃんは消え入りそうな声で答えた。
「推定平均魔力値、ゼロ」
一瞬の間をおいて、イーヴォとニコが大爆笑を披露した。
「マジでゼロかよ!? ガキの頃から魔法が使えねえとは聞いてたがなぁ!?」
「そりゃ魔法も発動しないって!」
俺は何も言い返さなかった。覚悟していた結果が突き付けられたのだ。やっぱり俺はどんなに努力しても無駄なのか―― 決して開けられない重い扉が、目の前でゆっくりと閉まっていくような気がした。
「ちょっと待ってください!」
声をあげたのはサムエレだった。
「魔力量の少ない人族でさえ、ゼロはあり得ません。生まれたての赤ん坊ですら、なんらかの数値は検出されるはずです」
「そうなのよ」
アンジェリカは綿紙に視線を落としながら、
「値の大小はあっても生きている者はみな、魔力を帯びているわ」
サムエレがしっかりとうなずいた。
「だからジュキエーレくんの場合、魔力自体は持っていても、何らかの理由で発動しないとしか考えられない」
「そうね。魔力値ゼロで生きられないっていうのは、空気がなければ生きられないみたいなものだもの」
「じゃ、この青白いのはもう死んでるってことか」
イーヴォがニヤリと笑うとすかさずニコが、
「道理で顔色が悪いわけだ!」
イーヴォの言葉を肯定する。
「死人になるのはあんたたちかもよ?」
姉が鋭い視線を向けたので、二人は口をつぐんだ。
「ていうかそもそも、なんであんたらは依頼も受けずにギルドでたむろしてるんだよ?」
俺の問いにも固まったままのイーヴォとニコ。代わりに姉が、
「二人とも五日前だったかしら? ここヴァーリエに着いたんだけど、回復役がいないからモンスター討伐依頼を受けられないのよ」
「どういうこと?」
「ヴァーリエ冒険者ギルドでは新人冒険者の命を守るため、いくつか制限事項があるの」
姉はマニュアルを丸暗記したかのような口調で説明を始めた。
「そのうちの一つが、一定期間のクエスト受注制限。回復役のいないパーティは、ダンジョンにもぐったり、瘴気の濃い魔物峠に行ったりできないのよ」
サムエレがうなずき、
「ベテランになれば、その限りではないということですか」
「自己責任ね。ギルド側も管理しきれないし」
姉の呪縛から解けたイーヴォが、
「ったくよ~」
と、ぼやいた。
「俺様のギフト<火魔法>レベル55と魔力量二万五千いくらってんなら、回復役がいなくたってモンスター討伐くらい受けられるのによぉ」
「イーヴォさんとおいらが、逃げた家畜を牧場に戻すクエスト受注してるなんて、あり得ないっスよね」
ニコも口をそろえる。それでこいつら二人は昼間から酒場でたむろして、仲間探しをしてるってわけか。
「でもこの二人、態度だけはでかいでしょ?」
姉が思いっきりイーヴォたちを指差す。
「新人には怖がられて、先輩冒険者には煙たがられて、人が寄り付かないの」
まあ、そうだろうな。納得してうなずいていたらサムエレが、
「すると僕らが<記憶>と歌声魅了でパーティを組んでも、やっぱり大した依頼は受けられませんよね?」
「そうね。薬草採取のお仕事とか――」
「モンスターに遭遇しないやつか」
がっくり肩を落とした俺をなぐさめるように、姉は手を振った。
「そうでもないわ。『青の沼地』は貴重な薬草の群生地だけど、ミニスライムが出るし」
なんか地味……。
「宝地図片手にダンジョン探索したり、マジックソード構えて巨大なオーガに立ち向かっていく、とかじゃないのか」
無表情になる俺を見て、姉は眉尻を下げた。
「ダンジョンの魔物もオーガも、体内に核となる魔石を持つモンスターでしょ? 彼らは魔力を動力とする存在だから、その流れを乱し断ち切る魔法での攻撃が一番効果的なの」
ギルド職員らしく解説してくれる。魔法剣に魔力を流せない俺に勝ち目はないってことか?
「モンスターって物理攻撃、効かないの?」
腰に吊るした親父の剣に手を添える。
「低級モンスターなら何とか倒せる程度ね。でもジュキちゃんはギフト<剣技>を持っているわけじゃないから難しいと思うわ」
クソッ、歌ばっか歌ってねぇでもっと剣の修行に集中するんだった。
「現実が分かったところで帰りましょうか?」
驚愕すべき発言に顔を上げると、サムエレが満面の笑みを浮かべていた。
「仕方ないじゃないですか」
わざとらしく肩をすくめ、
「僕たちがパーティを組んでも、薬草採取くらいしかできないんですよ?」
魔法が使えないって分かった以上、十年近くあたためてきた夢をあきらめて故郷に帰るか?
いや、そんなことできない。俺はどうしても広い世界を見てみたい。
それなら方法は一つしかない。
俺は意を決して口を開いた。
ジュキエーレの決意とは?
次回『冒険者パーティ結成!』




