白雪ちゃんとパソコン
PC室には顧問の先生しかおらず、PC部員はまだ誰も来てません。今日も活動日のはずなので、私が一番乗りということなのでしょう。
「パソコン使わせていただきます」
私は、どういうわけか頭が上下にこくりこくり動いている顧問の中里先生に軽く会釈をしました。
すると、中里先生がビクッとしました。
「――あっ、ああ。はい、どうぞ」
中里先生が微笑みます。
えっと……、今寝てませんでしたか? 別にいいですが。
ちなみにPC部の部員で無くとも、軽く許可をとればPCは使えます。遊ぶのも……、まあ多少は許容してくれます。
では早速、パソコンの電源を入れます。ちなみにこの教室にあるのは、デスクトップパソコンですね。デスクトップパソコンがずらーっと並んでいます。まさに――ハウマッチ!?――です。
ボタンを押してしばらく待つと起動しました。
色々なゲームが搭載されていますが、今回はソリティアをします。ルールはフリーセルでいいでしょう。
解がないこともあるんですよね……。頑張って徒労に終わったときは、ショックが大きかったです……。
そんなことを考えながら、マウスを動かしました。カチカチカチと、色違いのカードを重ねて、フリーセルに置くカードを見極めていきます。それと同時に、ホームセルにカードがAから順々に重なっていきます。いい感じです。そのまま私はフリーセルに没頭しました――。
黙々とプレイしていると、4つのホームセルに全ての札が揃いクリアできました。さすが私です。自惚れちゃっても良いですか。
白雪ちゃんがうっすら笑みを浮かべていると、アプリコットオレンジのふわふわとしたツインテールに若葉色のリボンを付けた美少女がすっとパソコン室に立ち入り、「白雪様の気配と芳香がこの部屋からぷんぷんします!」などと鼻をひくひくさせながら、パソコン室内を見回します。
「あっ、いました! 白雪様ー!」
やがて白雪ちゃんに目星をつけると、目にハートを浮かべて、歓声をあげ、目にも止まらぬ速さで移動し、シュタッとその背後に立ちました。
しかしまだ、白雪ちゃんは気づきません。白雪ちゃんはフリーセルを達成した喜びに浸っていたのです。
「白雪様、アイス買ってきましたよ! 外にいる恵美さんに持たせてます。一緒に作って食べましょう!」
彼女は、実際は見えないはずだけど何となく見えるような尻尾を振りながら、言いました。
「白雪様? ――あれれ? 自分の世界に入っちゃってます?」
反応のない白雪ちゃんに、首をかしげた彼女は、ふとパソコンの画面を覗き見て、「おおっ!」とちいさく声を漏らします。
白雪ちゃん、ようやく背後の気配に気づいてハッとしました。
白雪ちゃんは振り返ろうとしましたが――、
それは叶いませんでした。
なぜなら、彼女が白雪ちゃんの両肩に手を添え、
「流石は白雪様、凄いのです! フリーセルを造作もなくクリアするなんて!」
叫び、
「しかも、下校時間から換算して30分も経ってないじゃないですか! 天才ですか! それ、地味に難しいのですよ!」
捲し立て、
「一花、感激しちゃいました! 抱きついちゃいます!」
抱きついたからです。
白雪です。後ろから急に声がして、驚いて振り返ろうとしたら、肩に手が添えられ、称賛の言葉を捲し立てられて、抱きつかれました。
「一花!? 急に抱きつかないでくださいよ」
一花――舞坂一花。クラスは違いますが(一花は残念がってました)昼食をほぼ確実に一緒する私のルームメイトです。なぜか私を敬愛しているアプリコットオレンジでふわふわな髪をツインテールにしてリボンをつけた美少女です。私のことを様付けで呼ぶ彼女には、私の匂いを嗅ぎ分ける能力が備わっており、私に懐いている彼女はまさに忠犬のようです。ちなみに、一花は結構なお洒落さんでその上、愛嬌があります。しかも、調理部の部長補佐で調理部で運営しているカフェでメイドをしています。おまけに、私のファンクラブを立ち上げ、そこの会長をしているとか。そんな一花の事を私も憎からず妹のように思っていますが……、今の私には朝日ちゃんが!
「ごめんなさい。白雪様の明晰な頭脳に感銘を受けて、うっかり興奮しちゃいました。ご活躍を撮ってグループに送るのです!」
私を解放した一花がそんなことを言いながら、瞬く間にスマホを取り出していました。達人の居合いのような速度でスマホを抜きましたね! 速すぎて見えませんでした。恐るべき速度です。って、それどころではありません――
「ちょっ、やめてください!」
言っても、スマホを構える一花は止めたりしないでしょう。
一花の私に対する愛は、私にすら止められないのです。
慌てて、モニターの電源ボタンに触れ、画面をブラックアウトさせます。
一拍遅れて、シャッター音。
「ああ……」
スマホを確認した一花が、項垂れます。
ですが、一花は即座に気を取り直しました。
「でも代わりに写った慌てる白雪様もチャーミング。ばっちり保存しておくのです。白雪様ファンクラブの皆さんには悪いですが、これは独占しちゃいます。ふふ」
「まったく……。フリーセルをクリアしたくらいで大袈裟ですよ」
流石にフリーセルクリアを大々的に広められるのは恥ずかしいですが、私の写真を保存するくらいなら咎めません。私はかわいいですからね。
私の画像を夜な夜な眺めてくれるのでしょうか。ふふ。
「大袈裟じゃないのです! そりゃあ他の子がクリアしたとしてもここまでは褒めないかもしれませんが、白雪様の場合は何しても功績なのです!」
「……一花、落ち着いてください。いつの間にか来てたPC部の皆さんが若干引いてるではありませんか」
「そんなことありませんよね?」
一花が視線をPC部員に向けます。PC部員たちは首を縦に振りました。そりゃあ、そんな風に聞かれたら、振るしかないでしょうに。
「ほら、白雪様の偉業にPC部の皆さんも納得しているのです」
一花が満足しました。
「……そうですかね」
疑惑の判定に、首をかしげざるを得ません。というか、めっちゃ首振ってた人いましたよね。サクラですか? ――と疑惑の目を向けたら、
「――そうですよ!」
そのPC部員がガタッっと立ち上がりました。
彼女が胸に手を当て、叫びます。
「偉大なる白雪様はもっと崇め奉られるべきですよ!」
やっぱりサクラでした。そして私のことを白雪ちゃんではなく、白雪様と呼ぶのは白雪様ファンクラブ会員の特徴です。
「おお、白雪様ファンクラブの方がこんなところにもいましたか!」
一花が跳び跳ねました、めっちゃ喜んでます。
「貴女がファンクラブの舞坂一花会長ですよね!」
「はい! 私がその舞坂一花なのです!」
「すぐにわかりましたですよ! 白雪様への愛が違うのですよ!」
私への愛が重いのも白雪様ファンクラブ会員の特徴です。
「あなたも中々見所があるようなのです!」
なにやら一花と彼女の中では纏まったようです。にっこり笑顔で握手してます。
『共に白雪様のよさを広めていきましょう(いくですよ)!』
これ以上突っ込むのはやめておきます。面倒くさそうです。
「というより、一花、外の誰かにアイスを持たせてるんですか?」
「はい! 持って待っててくださっているのは恵美さんなのです。PC室へは、飲食物の持ち込み禁止なので」
「『はい!』……じゃないですよ! すぐに受け取りに行きましょう」
「あっ、電源は切っておくのですよ」
例の白雪様ファンクラブのPC部員がそう言ってくれたので、お礼を言います。
「ありがとうございます」
「いえ、滅相もありませんですよ!」
「ご苦労なのです! 褒めてつかわすのです!」
「一花、それではちょっと偉そうですよ……」
なんだか偉そうに振る舞っている一花にデコピンしました。
「あいた! これはとんだ失態を見せたのです!」
額を押さえた一花は、すぐに自分の失敗を省みました。
偉いので撫でます。一花の髪はしっかりと手入れされているのか、なかなか手触りがいいですね。
「白雪様……」
ポッと頬を染めた一花は、なされるがまま目を細めて受け入れています。ナデポってこういうののことを言うんでしょう。かわいいですね。
それをPC部員かつ白雪様ファンクラブの彼女が羨ましそうに見てましたが、彼女はすぐに気を取り直しました。
「いってらっしゃいませ、白雪様!」
ピシッと敬礼をした彼女に、にっこり笑顔をプレゼントし、一花を連れPC室を出ました。
すると外では敬虔な白雪様ファンクラブの会員がレジ袋持って直立不動で待ってました。
白雪様ファンクラブ会員にして調理部の彼女は小宮恵美ちゃんです。ピンキーベージュなふわふわの髪をした人形のようにかわいい美少女です。ちなみに髪型はミディアムですね。うん万のハートのネックレスを首から下げ、リボンカチューシャをしています。小柄で少女趣味な彼女も実はとても人気があります。お菓子をもらっているところをよく見ますね。うちの学校の母体である宗教の敬虔な信者でもある彼女は、お菓子、特にマカロンが好物です。
「白雪様、おつかれさまです! アイスです!」
目がキラキラしている彼女がレジ袋を差し出しました。
「ありがとです」
素直に受けとります。微笑ましいですね。
恵美ちゃんから手渡されたレジ袋に入っていたのは――、サーレップでした。
「なんですか、これは?」
「えっとですね……。サーレップです!」
満面の笑みで恵美ちゃんが答えました。
「それは見ればわかります!」
……まったく、部長を馬鹿にしないでください。
と、腕を組んでそっぽを向きます。
「あっ、白雪様が少し拗ねてるのです」
一花がクスッと笑い、
「サーレップくらいわかりますよねー」
私の顔を覗き込み、にこっと宣いました。
「なんだか小馬鹿にされてる気分です」
「まあまあまあ」
ペタペタペタと触ってきます。不快ではないのでなされるがままな私です。
そして一花は、恵美ちゃんを見て、心得顔で言いました。
「サーレップは白雪様の好物の一つなのですよ。恵美さん。部屋にストックもあるのです」
「えっ、そうなんですか。メモしておくです」
薄ピンクのメモ帳を取り出し、ささっと書いてます。
そうやってメモされるのは、なんだか恥ずかしいですが、もしかしたら、サーレップをプレゼントしてくれるかもしれませんね。
とはいえ、サーレップを大量に贈られ、ルームメイトに飲ませるにしても限度があります、私たちのお腹がたぷたぷになるのは由々しき事態です。
一応、注意しておきます。
「ストックあるので献上されても困りますよ。あと、あまり多言しないでください」
(主に白雪様ファンクラブへの)情報共有についても、釘を指しておきます。
「わかりましたです」
恵美ちゃんは理解してくれたようです。
「よろしいです」
事態を未然に防げて満足した私は、
「……というより、買ってきたのはアイスではないのですか?」
脱線した話を戻します。アイスと言っていたから、エッ○ルスーパーカップかチョコモナカジャ○ボとかを期待したのですが……。
「サーレップは飲み物ではないですか……」
とか思って呟いてしまうと、一花が胸を張って答えます。
「今日の調理部の活動なのです! それでトルコアイスを作って食べましょう!」
一花が意気揚々と宣言します。
「なるほど、トルコアイスですか、面白そうですね」
私が納得すると、
「白雪様のトルコアイスが振る舞われると聞いた一般生徒さん、白雪様ファンクラブの皆様、そしていつもの食いしん坊ガールズが家庭科室に詰めかけているようです!」
恵美ちゃんが報告してきました。ちなみに食いしん坊ガールズは調理部の運営しているカフェの超お得意様です。いつも一杯食べてくれるので、調理部一同作りがいがあると喜んでいます。試作品の評価どころか、作りすぎた品の処理もしてくれて、いつも本当にありがとうございます。……などと、心のなかで食いしん坊ガールズにお礼を言いつつ、腕をならします。
「ならば急がねばなりませんね。お待たせしては悪いです」
部長補佐と部員を引き連れ、調理部部長白雪の出陣です!
「ところで一般生徒まで呼び込んだのは誰ですか……?」
家庭科室に向かう道すがら訊きます。
「私なのです」
一花が胸に手をあて、どや顔で答えました。
「白雪様の料理を食べて、白雪様の素晴らしさを知ってもらうためなのです」
「なるほど、胃袋を掴んでファンクラブの人数を増やそうという魂胆ですね。ですが、勧誘もほどほどにしてくださいよ」
白雪様ファンクラブが拡大するのは、正直、姫みたいな気分が味わえて嬉しくはありますが、あんまり増えても困るので、ほどほどにしてほしいところです。
「それに、拡大しすぎて制御できないってのもありそうです。風紀委員の目もありますし、あまり目立つのはよくないかと」
風紀委員のことに触れると、一花が苦い顔をします。
「ふむ、風紀委員ですか……たしかに厄介な存在なのです。せっかくファンになりかけた子を矯正とかいって、心変わりさせてしまうので困るのです。まあ、風紀委員なんぞに敗北するというのは、愛が軽かったのでしょう」
「むしろ風紀委員の矯正のおかげで拡大しすぎず、助かっている面もあるのかもしれませんね。それに矯正が効かなかった、白雪様ファンクラブとして活動する面々は猛者揃いですし」
すると一花が、声を荒げました。
「いいえ、決してそんなことはありません! 風紀委員は白雪様ファンクラブを不純同性交遊クラブとかいって、潰そうとする悪魔の集団なのです! たとえ、そうであろうとあのような連中、私は認めまないのです!」
「そうですよ。むしろ風紀委員を潰すのがいいと思うのです」
恵美ちゃんまで同調し、過激なことを言いだしました。
「それいいのです!」
一花が名案だとばかりに、指を鳴らしました。
行動に移されたらまずいので、諌めます。
「駄目ですよ。風紀委員を潰したら、一気に学内の風紀が乱れてしまうやもしれません。口うるさく言われなくなった解放感で、皆がこれみよがしにはしたない仕草を取ったりしたら?」
「一花はそこまで緩まないと思うのです。大半の生徒はお嬢様なので」
「たしかに、お嬢様学校なので、そこまで酷いことにはならなそうですが……」
言葉が途切れてしまいました。風紀委員を擁護する理由を他に探します――。
「喧嘩はいけません。風紀委員と喧嘩しては駄目です」
私がそう意見すると、
「潰すというのは冗談です。ちょっと言い過ぎました。流石にそこまではしないです。過剰な制裁に抗議するだけです」
恵美ちゃんが言い直しました。
どうやら、恵美ちゃんは本気ではなかったようです。ホッとしました。
「それならいいですが……」
言ってみて、いいのでしょうか? と心のなかで思い、首をかしげます。
「私は潰すつもりでいるのです。白雪様への信仰の自由を剥奪しようとする風紀委員会など、無くなるべきなのです」
鬱憤が詰まったような声を発し、憤慨する一花に、私は苦笑しました。
このままだと風紀委員に目をつけられそうなので、話題を変えます。万が一耳に入るやも知れませんし。
「にしても一花、また私を匂いで嗅ぎ付けて、一花は私のストーカーですか?」
パソコン室に向かうなんて一花に連絡してないですが、私を見つけた種は割れています。私の痕跡を辿るときに発揮される、犬のように鋭敏な嗅覚です。一花曰く、白雪様をサーチする力だけは、誰にも負けません! とのこと。
「ストーカーじゃないのです。一花は、あなたの介添人なのです」
「介添人など、私は頼んでないです!」
「迷惑、でしたか……」
一花がショックを受けたような顔をします。
「そんな捨てられた子犬のような目をしないでくださいよ……。多少の随伴くらい許しますから……。ね?」
「ハッ、ありがたき幸せなのです! 白雪様に連れ添うことこそ私の幸福! そして――」
上手いこと一花を宥めました。ついてくるのが、嫌なわけではありませんし。
「白雪様を慕うことこそが、最大多数の最大幸福を導きだすのです!」
なにか洗脳……もとい魅了でもされたような雰囲気で言っていますが、それも仕方のないかもしれません。私の魅力にいち早く気付いたのは何を隠そう、一花です。私をここまで信奉するのも納得がいきます。私、かわいいですしね。
白雪ちゃんはそうやって自分かわいい認識を強固にしていきましたとさ。めでたしめでたし。
「私も一花会長目指して、頑張らなくてはです!」
恵美ちゃんが意気込みました。
「その意気なのです」
一花が恵美ちゃんにハッパをかけました。
「あんまり、慕われても困っちゃいますね……」
「満更でもないって態度に思えるのです、どうですか会長?」
「大当たりなのです! さすが白雪様ファンクラブ会員一号といったところなのです!」
「いえいえです。白雪様の心を言いあてることにかけては百発百中の一花会長には到底敵いませんです」
「いえ、百発百中は言い過ぎなのです。私とて読み違えることはあるのです」
「そんな謙遜なさらず、もっと誇っていいのです」
「実際、白雪様が誰に思いを寄せているかは――」
なにか雲行きが怪しくなってきましたので、一花と恵美ちゃんの会話を阻害するように身体で間に入り、恵美ちゃんに向けて、
「あの被服部部長さん。料理も頑張ってくださいね」
嫌みを交えつつ念を押します。実は彼女は被服部の部長さんでもあるのです。調理部と兼部ですね。二足のわらじさんです。
「もちろんです!」
恵美ちゃんはいい笑顔で頷きました。
「しかし会長、白雪様と同室の利権を独り占めしないでほしいです。私も白雪様のパジャマ姿とかみたいです。写真ありますよね?」
「えーっと……、しょうがないのです」
一花と恵美ちゃんは別の話を始めます。上手いこと話をそらせてホッとしました。胸を撫で下ろします。万が一、朝日ちゃんのことがばれてはかないません。
一花がスマホを取り出し操作を始めながら、言いました。
「特別ですよ。本邦初公開なのです」
耳に入った言葉の表現が引っ掛かったので、ぼそりと呟きます。
「本邦初公開って海外映画が日本で初めて公開されるときに使われる言葉じゃないですか……」
「ニュアンス的にはあってるのです」
とのこと。
私のかわいさは洋画ヒロイン級ということですね。納得しました。
「あ、」
スマホ画面を恵美ちゃんに見せようとした、一花はハッとし、私をみました。
「白雪様、見せちゃっていいのですか?」
一花が、恵美ちゃんに見せる前に、私に確認をとってきました。偉いですね。
「別に構いませんよ。ファンクラブに大々的に公開されるのは恥ずかしいので嫌ですが……」
「というわけで許可をいただいたので、お見せします。どうぞ、目に焼き付けてください。これが白雪様のパジャマ姿なのです」
一花が、恵美ちゃんに向けて、格さんが印籠を見せるみたいに、スマホの画面を見せました。
「おお、魅惑のパジャマ姿です!! ありがたやー、です」
恵美ちゃん、手を合わせて拝んじゃってます。そのまま地べたに膝をつきそうな勢いです。廊下なのでしないと思いますが。
そんなこんなで家庭科室に向け、歩みを進めます。そのまま二人は、私のパジャマ姿の魅力に関する談義を始めたので、語らせておきます。
すると――、
『警告です。脳内でまたしても白雪ちゃんたちの会話が繰り広げられそうです』
急にブレイン白雪ちゃんから警告が届きました。
というわけで――、
ところ変わって、白雪ちゃんの脳内では、
『白雪様ファンクラブなんて作られたって嬉しくなんてないんですからね!』
ツンデレ白雪様ちゃんがツンツンしてました。
『私のファンクラブくらいあって当然ですね。私超かわいいですし』
自信過剰白雪ちゃんが美意識過剰です。
『ファンクラブなんてあっても、めんどくさいだけです……』
怠け者白雪ちゃんがぽつりと呟きます。
『そうですよ。というより、ファンクラブなんて実際は実在しなくて、陰口言い合う白雪ちゃんのアンチの集いなのかもしれません……』
ダウナー白雪ちゃんが続きます。
『そんなことないですよ』
人気者白雪ちゃんがはっきり否定しますが、
『あります。私なんて嫌われものなんですよ』
ダウナー白雪ちゃんの根拠のない発言に、
『私なんかがそんなに人気があるわけがないじゃないですか……』
人気者白雪ちゃん折れてしまいました。ダウナー白雪ちゃんの醸し出すダウナー感は人気者白雪ちゃんすらも追い詰めてしまうようです。
『ハイテンション白雪ちゃん、熱血白雪ちゃん、空気を変えてください、シクヨロです!』
慌ててチャラい白雪ちゃんがお願いします。前回みたいに、ダウナーに巻き込まれないように、必死ということなのでしょう。
『私は白雪様ファンクラブに所属します!』
『時がきました! 私たちも会員になりましょうよ!』
ハイテンション白雪ちゃんが宣言し、熱血白雪ちゃんが合わせます。
『却下です』
冷徹白雪ちゃんがばっさりと一刀両断しました。そんな冷徹白雪ちゃん、熱血白雪ちゃんが何か言うのを待ってたようでしたが、果たして……。
『なぜ自分自身のファンクラブに所属しなくてはいけないんですか』
ローテンション白雪ちゃんが言いました。
『よくぞ聞いてくれましたね! ローテンション白雪ちゃん! そういう定めだからですよ! 運命の導きです!』
なぜか眼帯をしている白雪ちゃん――厨二病白雪ちゃんが急に現れて、答えます。
『『『厨二病白雪ちゃん!? 封印したはずでは?』』』
白雪ちゃんたちが悶え苦しみます。
『――今すぐ封印してください! 厳重に!』
白雪ちゃんらの元に、本体白雪ちゃんからの緊急メッセージが届きました。
『皆さん、かかってください!』
議長白雪ちゃんの号令で、パシリ白雪ちゃんが真っ先に動き、それに続いて白雪ちゃん一同がかかります。
『どうやらお別れのようですね。短い間でしたが、楽しかったです。私はいつでも私の傍らにいます』
厨二病白雪ちゃんが封印されました。
『やれやれです』
やれやれ系白雪ちゃんがやれやれしました。
『皆さん、なんであんなに暇そうなんですかね。正直、羨ましいです』
遠くから白雪ちゃんたちの戯れを見ていた、管理人白雪ちゃんが嘆きました。
白雪です。あともうちょっとで家庭科室というところで、厨二病白雪ちゃんのせいで気分が悪くなりました。
「頭のなかで不協和音が鳴り響きます……」
「白雪様! 大丈夫なのですか!」
即座に一花が私を支えます。
「白雪様!?」
恵美ちゃんも心配そうに見ています。
「大丈夫です。ちょっと頭のなかで小さな私が荒ぶっただけです」
「それ結構重傷なのでは!?」
「保健室いきますです?」
一花と恵美ちゃんが心配してくれますが、心配無用です。
「大丈夫ですよ。いつものことです」
『そう(なの)ですか……?』
「はい、ご心配お掛けしました」
怪訝そうな二人にお詫びして、気を取り直します。
あっ、そうこうしているうちに家庭科室前に着きました。
この話の登場人物の紹介
・冬野白雪ちゃん:主人公。雪のように白い髪(白髪言うな。)で、氷のような透き通ったアイスブルーの瞳の美少女。意外と有名人で『白雪ちゃん』と呼ばれることが多い。実は、調理部部長である。
・舞坂一花:白雪ちゃんのルームメイト。なぜか白雪ちゃんを敬愛している。アプリコットオレンジのふわふわとしたツインテールにリボンが特徴の美少女。白雪ちゃんのことを様付けで呼ぶ彼女には、白雪ちゃんの匂いを嗅ぎ分ける能力が備わっていて、白雪ちゃんに懐いている彼女はまさに忠犬のよう。結構なお洒落さんでその上、愛嬌がある。調理部の部長補佐であり、調理部で運営しているカフェでメイドをしている。白雪ちゃんを好きすぎて拗らせちゃった彼女は、白雪様ファンクラブを立ち上げ、そこの会長をしている。白雪ちゃんから妹のように思われている。
・小宮恵美ちゃん:調理部部員。白雪様ファンクラブ所属。ピンキーベージュなふわふわな髪をミディアムくらいの長さにした人形のようにかわいい美少女。うん万のハートのネックレスを首から下げ、リボンカチューシャをしている。小柄で少女趣味な彼女も実はとても人気があり、お菓子をもらっているところをよく見かける。学院の母体である宗教の敬虔な信者でもある彼女は、お菓子、特にマカロンが好物。実は、被服部部長であり、調理部と兼部している。
・中里先生(PC部の顧問):初老の男性。
・PC部員:モブたち。日向の存在の白雪ちゃんとは接点が薄い。
・PC部員タイプF(白雪様ファンクラブ会員):モブに毛が生えたような存在。一花と分かり合う。
・やれやれ系白雪ちゃん:『やれやれです』が口癖なミニマム白雪ちゃん。
・自信過剰白雪ちゃん:自信に満ち溢れているミニマム白雪ちゃん。
・ツンデレ白雪ちゃん:素直じゃないミニマム白雪ちゃん。
・議長白雪ちゃん:脳内会議の議長をやっているミニマム白雪ちゃん。なんか偉そう。
・熱血白雪ちゃん:常時熱血なミニマム白雪ちゃん。ハキハキした口調。暑苦しい。彼女から発される熱気で脳内会議場が暑くなるが、冷徹白雪ちゃんから発される冷たさが相殺している。
・冷徹白雪ちゃん:常時冷徹なミニマム白雪ちゃん。冷えきった目をしている。彼女をみたものは背後に吹雪が吹雪いているのを、幻視するであろう。実は、出された意見の一刀両断が大好き。
・怠け者白雪ちゃん:常時怠けていて『めんどくさいです』が口癖のミニマム白雪ちゃん。会議中、椅子にだらしなく寄りかかっているのが目につく。
・ダウナー白雪ちゃん:ダウナーなミニマム白雪ちゃん。場の雰囲気を暗くすることに長けており、周囲のミニマム白雪ちゃんに伝染してしまうことも。それが原因か脳内会議から、ハブられてしまう。
・ハイテンション白雪ちゃん:常時ハイテンションなミニマム白雪ちゃん。
・ローテンション白雪ちゃん:常時ローテンションなミニマム白雪ちゃん。
・人気者白雪ちゃん:皆のアイドルな白雪ちゃん。心なしか輝いている感じがする。
・チャラい白雪ちゃん:パリピなミニマム白雪ちゃん。会議の決定権を握っている?
・パシリ白雪ちゃん:皆にパシられる憐れなミニマム白雪ちゃん。パシられるためだけに生まれてきた存在で発言しない。
・SP白雪ちゃん:要ミニマム白雪ちゃんの警護担当。本体白雪ちゃんのシンパであり、本体の白雪ちゃんが、他の白雪ちゃんに乗っ取られないように活動してもいる。
・管理人白雪ちゃん:広大な脳内庭園とミニマム白雪ちゃんの住居を管理している。一人では管理が大変なので分裂して、何人もいて、本体の意識を分身体全てが共有している。忙しいからか脳内会議には参加できていない。
・ブレイン白雪ちゃん:もっとも有能なミニマム白雪ちゃん。本体白雪ちゃんから一番信頼されている。しかし、白雪ちゃん以上の知能は持ち合わせていない。実は、白雪ちゃんの脳味噌の化身だったりする。有能すぎるゆえか脳内会議からハブられている。脳内会議とは犬猿の仲。白雪ちゃんとの連絡を、度々、脳内会議に妨害されてしまっている。脳内会議の面々曰く、『私たちの出番がなくなる。白雪ちゃんに必要とされなくなったり忘れられるのは辛い』とのこと。
・厨二病白雪ちゃん:封印されていたのに急に復活した白雪ちゃん。白雪ちゃん由来のものなのでそんなに厨二度は高くない。なぜか眼帯を着けているが、白雪ちゃんに眼帯を着けていた過去はないので、他の白雪ちゃんとの差別化を図ったものと思われる。
用語
・白雪様ファンクラブ:白雪ちゃんのファンクラブ。白雪ちゃんを様付けで呼ぶ集団。会長は一花。
・食いしん坊ガールズ:食べることが大好きな集団。調理部の催しにほぼ確実に現れる。
・風紀委員:白雪様ファンクラブの宿敵。学内の風紀を正す。という信念の元に活動するものたち。白雪様ファンクラブを、不純であり風紀を乱す集団とし、潰すことを目標にしている。
・矯正:白雪様ファンクラブを潰すために風紀委員が行う処置。皮肉なことに白雪様ファンクラブのメンバー数を調整している面もある。選りすぐりの面子が揃うのは風紀委員の矯正のおかげといっても過言ではないかもしれない。
・(白雪ちゃんの)脳内空想庭園――白雪ちゃんの脳内に存在する庭園。広大。
・(白雪ちゃんの)脳内会議――度々、白雪ちゃんの脳内で行われている会議のこと。白雪ちゃんが困ったときに白雪ちゃんの意思のもと行われ、ミニマムな白雪ちゃんたちが話し合いをする。実は、参加しているミニマム白雪ちゃんは全員、本体白雪ちゃんの味方であり保護者のような存在でもある。
・ミニマム白雪ちゃん――白雪ちゃんの脳内に生息するミニマムな白雪ちゃん。白雪ちゃんの脳内庭園に住み着いていて、管理もしてくれている。白雪ちゃんの依頼で、度々、エリートなミニマム白雪ちゃんが脳内で会議を繰り広げる。実は、表面化できなかった白雪ちゃんの別人格。とはいうものの、一応白雪ちゃんの一部なので、滲み出ることも。
・エリート(ミニマム白雪ちゃん)――本体白雪ちゃんに忠誠を誓っている、ミニマム白雪ちゃんのことらしい。




