第八節 神々の墓⑤...中二病?
「......」
俺、今どんな表情をしているのだろう?
神様...神様か...
この世界における「神」の定義に基づいたら、「神様から力を授けられる」ってのはあり得ない事で、口にするだけでも「痛い人」認定される。
大体の人が笑い飛ばすのも納得だな。実際、彼の言葉を真摯に受け止めようとした俺でも、今は少し彼を憐れんでしまった。
「なに、その表情?」
「私、今どういう表情をしてるん?」
「無表情。バカにされていないが、気を使われている感じでもない。
ちょっと不気味ッ!いっそ笑い飛ばしてくれ。」
「真面目に話を聞く私と、『あんたバカか?』と思う私が熾烈な戦いを繰り広げている。
どういう表情をすればいいのか、マジで分からない。」
「そうか...ちゃんと考えて、すぐに笑い飛ばしはしないんだな。
普通、バカにされるような話なのに、考えてくれる。やっぱ、ななちゃんは...
聞きたい事があるなら、遠慮なく訊いてくれ。答えられる分は全部答えるから。」
答えられない分があるって事か...「残念だが、ソレは答えられないぜ。神と契約したからな。口にした瞬間、君に神罰が落とされてしまう。君を守るためだ、許してくれ」ってな感じ?
万能感に包まれたいが為に作られた設定に、穴が見つけらかれた時の言い訳をもきちんと用意しているのか。凝ってるな~。
じゃ!ま~聞いていこっか。
「あき君、神とは何?」
「それはこっ...私達の世界の神々の事だよな?」
「あぁ。小説の中の神ではなく、私達が住むこの世界における『神様』の定義。」
「えっと...一言でいうと、太古の時代にて私達人間を作り出した、この世界の元住人。」
「信者にとって大不敬な言葉だが、概ねその通りね。
ただ、実際神が人を創った『記録』も、大魔法じゃない方の記録も何も見つかっていないから、断言はまだできない。
そんな神様達に関しての身体的特徴、現段階ではっきりと分かった分だけでいい、述べてみなさい。」
「身体能力が弱く、平均寿命はたったの百年、魔力もなく、病に患う。一人ではとても生きられない弱い生き物。
それが現在分かった分の神々に関する特徴。そして、誰も俺の話を信じなかった根本の理由だな。」
「分かっている尚、あき君は『神様から授けられた』と言ったのか?」
「信じがたい話だと自分でも分かっている。だから、敢えて口にするような事をしないできた。
だが、本当の事だから、信じてくれなくても、俺は臆せずに言う。」
妄想...って感じでもないみたい。胡散臭いけど、カッコつけをしないでそれを言われると、俺は逆に信じたくなる。
「まだ神々に関する考察が殆ど進んでいない、ダンジョンと塔の探検が進めば進む程、新しい発見も沢山出てくる。なので、あき君が言う神様がいない!と断言する事はできない。考古学部部長としては特に、ね。
ねぇ、あき君が見た神様はどういう姿をしていたの?どういう言葉をあき君に掛けたの?」
「女性の姿をしていたな。
とても綺麗な女性で、はっきりと人間と違うのを分かるくらい、神々しさもあった。」
「星よりも綺麗?」
「あー...ベクトルが違うっていうか、外見で比べられないっていうか。一目見て、触れられない存在って感がして...あー、うまく言えないけど...」
「美しいけど、下心が湧かない感?」
「そう、それ!そんな感じ!
って、別にヒカリさんに下心なんて...」
「はいはい、そうですね。
でも、星レベルになると、確かに綺麗すぎて、逆に下心が湧かないかもね。
...私レベルなら?」
「.........それ、どう答えても俺にデメリットしかなくない?」
「私があき君に気があるなら、メリットになる答えあるじゃない?」
「...ノーコメント。」
「あ、結局『逃げ』を選択したね。
でも、それは『答えた』と同然だと思わない?」
「うるさいな。
じゃ、欲情するって言えばいいのか!?」
「逆切れだ!二人きりになると、あき君の態度がちょっと雑になるね。」
「その言葉、そのままお前に返す。ななちゃんだって、普段は『君』なのに、時々『あんた』になるじゃん!
俺の態度が悪くなるのはななちゃんの所為だ。」
「大勢の前ではちょっと猫を被るのは仕方ないでしょう?
...今も猫を被っているけど。」
女の子のフリをしているから。
「星にも下心?」
「答えなきゃいけないのか!?」
「こっちはホンの好奇心。普通の男子なら、私やタマ...あ、あの猫メイドの話ね、少しくらいの下心を持っても珍しくないと思う。紅葉先生も含めて、ね。
でも、星の美人度合いは流石に高すぎて、男子としての本音が知りたい。」
女の体に馴染んで、毎日見ていた所為か、前世ほどに女性の裸体に興味がなぃ...薄くなっている。
だから、現役の男の意見が聞きたい。
「俺達、今俺の独占スキルの話をしてる筈じゃ?」
「少し話を逸れても良いじゃないか。解説キャラは人気ないんだよ。」
「...やっぱまだ慣れてないようだな、ななちゃんに振り回されるのを。」
「それで、どう?星を見て、見惚れたりするの?」
「なぜそんな話を女子としなきゃいけないのか、未だに分かんないんだけど?男の感性がそんなに女子にとってそそられるような話?」
「なら、私にとってそそるような話でいい。教えてください、お願いします。」
ようやく観念したのか、あき君が肩を落とした。
「ヒカリさんは美人だ。男女共に人気が高いし、もちろん俺も彼女を美しいと思う。」
「でしょうね。でも、私が知りたいのはそんな浅い部分の思いではないね。星を見て、触れたいと思うか?」
「そこが正直、自分でもよく分からない。触れたいという思いもあるが、触れたくないという思いもある。」
「あんなに美人なのに?」
「美人だけど、美人過ぎるっていうか...何だろう?上手い例えが思いつかない。」
「芸術品のような?」
「あー、それに近いかもしれん。
遠くから眺めるのはいいが、触れたら汚れてしまうような気がして...これはどういう感情なんだろう?」
それは「崇拝」というのだよ、あき君。
あるいは、「推し」?「奈苗」になる前に偶々ネットで見かけた言葉だけど、意味はあっているのかな?
「普通の男の子なら、星は手の届かない高嶺の花、だね。良かった。」
俺と大して変わらなくて安心した。俺はやっぱ「男」だ。
「でも、女の子は星と手を繋げたり、抱き合ったりできるよ。羨ましい?」
しかも、指と指が交互しての恋人繋ぎ。
「ななちゃんは隙あらば挑発してくるな。別に羨ましくないぞ。」
「強がっちゃって、まあまあまあ。」
「ヒカリさんとそこまでの触れ合いができたのは、俺の知ってる限りではななちゃんだけだよ。家族を別として。」
「あれ、そうなの?」
「ななちゃんが彼女に付けた『ぼっち』というレッテル、あながち間違いじゃない。クラスの中では皆の注目の的なのに、孤高に浮いていた。
常に『近づくな』オーラを出している。本人はそれに気づいているかどうかは分からん。」
「同じ部活仲間にしてクラスメイトなのに、気を使ってあげなかった?」
「ななちゃん、ななちゃん、ななちゃん...」
「ぅ...何だよ?人の事を連呼して。」
「はっきり言うが、ななちゃんが近くにいるといないとで、ヒカリさんが出した雰囲気が全く違う。百八十度違う!
普段の彼女、結構圧が凄いぞ!」
「本当に!?うわ、それちょっと見たい!
こっそりXクラスに行ったら、見れるのかな?」
「無理じゃない?ヒカリさん、人の視線に敏感だから、隠れてもすぐに見つかると思うぜ。」
「え、『注目の的』が人の視線に敏感?」
「適当に言ってる訳じゃないぞ、本当の事だ。
その事を一番よく知っているのはななちゃんじゃなかったっけ?」
女子トイレでも、不意打ちが通じない回避力MAXキャラだもんな。
「意図的に無視しているだけだと思う。
でも、ななちゃんの視線に気づいたら、きっと一瞬で緩い空気を出す。」
「表情とか、変わるの?」
「いや、アハハ...変わんない。変わんないのに、なんか『ふわ~』になるんだ。」
あき君も俺と同様、星との付き合いが長いから、それで分かるかもしれない。
たかが半年、されど半年。興味を持った相手だと、星のような分かりにくい人間でも、丸裸にされるのかな?
「私がXクラスに行った事、一度もないのに?」
「何となくイメージができる。
ななちゃんは部室にいる時の彼女しか知らないから、難しいかもしれないか。」
「あき君、ちょっとストーカーっぽいね。」
「...お前はどうしてこうも意地悪いなんだ。
もういい、俺の独占スキルについての話を続けるぞ。」
「毎日星を見つめるあき君。それは、恋の始まり。甘酸っぱい青春の香り。」
「『本番』するぞ!!!」
「...ごめんなさい。」
脅しに屈した俺であった。イジリ過ぎた。
「はぁ...えっと、どこまで話してた、か?」
「むーん、星レベル美人な女神に会った、まで話してたね。それで力を授けられたのか?」
「『会った』というか、夢の中だから、『会う』という表現が正しくないかも。」
「それは何歳頃の夢?」
「何歳と来たかー...
えっと、生まれた時に見た夢?」
「おー、あき君も赤ん坊の頃の事を憶えられる人?なかなかいないぞ、そういう人。」
「えっ!?ななちゃんも憶えられる人?」
「あー...」
赤ん坊の頃の記憶を思い出せるのは前世の俺であって、「奈苗」じゃないんだよな。
「あき君。私は『記憶喪失』だって、覚えてる?」
「あっ...でも『赤ん坊の頃の記憶』って言うから。」
「そういう人は少ないが、いる!という話であって、私自身の話ではないわ。『記憶喪失』は私のキャラ設定じゃないのよ。」
「ごめん、無神経だった。生まれた時に見た夢と言ったら、必ず失笑されて来た人生だったので、ななちゃんの反応につい嬉しくなって...」
「謝る程の事ではないわ。
私は『赤ん坊の頃の記憶』を保持できるという事を知っている。その知識を持ているから、あき君の話についていけた。
あき君の話を聞いて失笑した今までの人達がこの知識を持っていなかった。そして、無知から『そんな人いる訳ない』という先入観が彼らにああいう反応させたんだ。
それだけの事よ。」
「それでも、嬉しい事は嬉しいんだよ。ななちゃんの博識に救われた気分。」
「大袈裟ね。」
しかし、覚えられるとしても、赤ん坊の頃の記憶だから、余程衝撃的な出来事じゃなければ、やっぱり覚えられないのが普通だ。
確かに、「神様にあった」という夢はインパクト十分だが、ただの妄想という可能性も否定できない。
...これ、どう頑張って話し合っても「正解」が出ないんじゃない?あき君の「正解を知る力」に話を進めよう。
「なぜ...ねぇ、あき君。なぜ『正解を知る力』なの?」
「『なぜ』?何が『なぜ』なんだろう?
あっ!一応他にも色んなスキルが選べるよ。」
「選べる?」
「様々なスキルの中から自分が望むスキルを選び、それ以外のスキルに関する記憶が消される。
なぜこの、『正解を知る力』を俺は選んだのか、『俺がこのスキルが一番欲しいから』と答えるしかできない。
このスキルより優れた力もあるかもしれないが、覚えてないので、答えられない。」
「答えられない分、ね。分かった。」
言い訳、乙!
「それじゃ、力の証明をしてもらうか、あき君。」
「そうしたいけど、どうやって?」
「あき君の力が実際どんなものかは分からないが、『正解を知る』というのなら、何か質問を用意すればいいでしょう?
とりあえず、適当に聞くね。明日の朝食は何?」
「そんな便利な力ではないよ、ななちゃん。」
顔が見えないが、あき君が苦笑いをしている気がする。
「『力』の使い方が分かったのも、3年くらい掛かったよ。」
3年って、まだ全然子供じゃないか。設定がボロボロだぞ。
「簡単にこのスキルが使えたら、俺だって満点を取れるぜ。微妙な条件が課せられていたんだよ。」
「そして、言い訳をさらに追加する。」
「言い訳じゃない、本当の事だ。」
「あ、ごめん。口に出してた?」
「棒読みだぞ、ななちゃん。
今すぐ証明できないが、すぐ少し前に使った事がある。それを伝える。」
独り言なのか、あき君が小さな声で「できるだけ分かりやすい例の方がいいな」と言った。
そして、考え事したのか、少し時間が空いた後、口を開く。
「昨日の夜、俺がここを指定したんだろう?」
「違うよ。」
「ち、違う?」
「正しくは昨晩、あき君が提案し、私が承認した。」
「...俺が提案して、ななちゃんが承認した最初に探索するダンジョンがここ、神々の墓。俺がここに『正解』があると知って、ここを提案したんだ。」
「へー、そうなのか。つまり、あき君はカンニングしたって事だね。」
「言葉悪いな。でも、その通りだ。
そして、俺が『正解』を知ったきっかけは、ななちゃんが持ち出した地図だ。」
「地図?」
まさか、関連性のあるキーアイテムによって、ようやく力が発揮するとか、言わないよな?
「俺が誘拐された子供達を見つけたいと願い、そしてあの地図を見た時に『福本区』辺りが光っているのが見えた。
その頃、実のところ、俺はこの区にダンジョンがある事も知らなかった。それが攻略済みダンジョンだって事も、ダンジョンの名前が『神々の墓』も、もちろん何も知らなかったんだ。」
「それでよく提案する勇気が出せたね。ヘタレなのに。」
「いや、俺ヘタレじゃねぇし。
つまり、俺が言いたいのは、俺の独占スキルが発揮する条件は『正解に関連を持つ何かを見つけて、それを視認する事』だ。
昨日の夜、ななちゃんが体を無理して見せた地図、それが俺の独占スキルが発動する引き金だったんだ。」
「昨晩、私が見せた地図ね。」
あの地図、昨晩の内にもう千草さんに返していて、手元にない。もし昨日、俺が休みを取る決断をしていたら、地図をみんなに見せる事もなく、色んな事が変わったかもしれない。
「もし、私が昨晩みんなにあの地図を見せなかったら、あき君はそれでも『正解』に辿り着けるのか?」
「どうだろう?『正解』を見つける『トリガー』が一つとは限らないから、別のルートで『正解』に辿り着けるかも。
そもそも、『正解』自体も一つとは限らないし。」
「『正解』が一つではない...それについて同意、不正解の方が少ないと思えるくらいだ。」
しかし、本当に「キーアイテム発動」タイプか。
「試験用紙がトリガーになれなかった?問題を解く時の筆記用具も?」
「また意地悪な事を言う。
ならないよ。筆記用具が光を放ってもしょうがないじゃん?試験用紙も、選択問題でもどこも光らなかった。『正解』がイコール『答え』ではない事に、もう気づいているだろっ?」
「いいえ。私はまだ懐疑的な態度を見せている筈よ。
まぁ、『アホか』から、『なんかそれっぽい』レベルまで上げてるね。神様云々に関して、まったく信じられないが、あき君に特殊な力を持っている事は信じられる。」
「...この辺りが落としどころか。
確かに、この世界の人間にとって、神様から力を与えられるなんて、信じられるような話じゃないな。」
この世界の人間とか、またそういう人を見下すような発言を...
......
「あき君は『前世』とか、『転生』とか、信じてるタイプ?」
「えっ、いきなりどうした?」
「ちょっと興味が湧いて、ね。」
「...信じたくない系、と言うべきだろうか。『転生』はともかく、『前世持ち』の人間は多からずいたし。
だけど、そういうのって、今までの自分の人生が全部間違いだと、言ってるようなもんだと思う。
俺は...『転生』が好きじゃない。」
「しかし、実際は自称『転生者』は何人もいたでしょう?かの日の国の『平民英雄』だって、自伝で『何度も同じ時間を繰り返してきた』と書いてあったらしい。
なのに、『転生』は信じないのか?」
「『平民英雄伝説』の話は俺も読んだ事がある。でも、それは五王戦争時の話だろ?その自伝も著者名がない、『後世の創作』だと疑われている、謂わば御伽噺に近い話。
それに、あれは『過去転生』、『やり直し』のお話だ。『転生』とはまた違うもの、過去の自分を否定してはいない。」
「意外と強い自我を持ってるね、あき君は。」
俺と同じ前世の記憶を持つ「転生者」、または「憑依者」と期待したが、外れだったのか。
だけど、「自分には神様から直接に与えられた力がある」と言う。自分の設定を大事にする、ちょっとナルシストっぽいな。
「あき君の力、その『独占スキル』はどこまで効果があるの?」
「発動条件は厳しいが、頻度が結構高いぞ。俺の身に付けた剣術の一つ一つ、このスキルのお陰で最短時間で覚える事が出来た。
蝶水さんに暗い過去があるのも、このスキルで気づけた。」
「不便で便利、便利だけど不便、そういう力ね。
力の発動条件は『あき君の思い』と、『トリガー』となるモノ。この二つで合ってるか?」
「そうだな...実際はもうちょっと色々と分からない部分もあるが、発動条件に関してはその二つで合ってる。」
「そして、あっさりと事件にあった子供達の監禁場所に辿り着けた、と...」
「それには悪いと思っている。色々飛ばして、いきなり『正解』に辿り着けたのが逆に良くなかった。そうだろう?
俺が願うべき事は『犯人の逮捕』にすべきだった。」
「そう簡単に変えられるもんなの?
私は納得してはいないけど、どうやら人の脳で、自分が思う程、簡単に制御できる訳ではないらしい。」
「あぁ、そうだった。このスキルが使いにくいの、今ななちゃんが言った事にも関係あるな。
自分の考えが、自分の望みと必ず同じとは限らない。それ故に使いにくい。」
「あき君が『強くなりたーい!』と願っても、それで強くなれる訳ではない。
そんな感じ?違う?」
「...ななちゃん。俺が三年掛かってようやく気付けた事、何でななちゃんはこんな短時間で気付ける訳?ショックなんだけど。」
「赤ん坊の頭脳と高校生の頭脳を一緒にしないでくれる?単純に人生経験の差だよ。」
「いや、俺は赤ん坊の頃からはもう...はぁ、もういいや。」
設定に穴があるのに気付いたのか、あき君は口を噤んだ。
「好きな人とどうやって一緒になれるか、にも使えるね、あき君の力って。『正解』が分かるでしょう?好感度アップアイテムも簡単に見つけられそう。」
「そんな便利なスキルではないし、そんな事の為に力使わないよ。ななちゃんの中で、俺は一体どんなクズキャラなんだよ。」
「好きな人の好みをリサーチする手間が省けていいじゃない。便利過ぎないけれど、使い方によっては、結構エグい能力だと思うわ。
探し物が見つけやすいだけじゃなく、世渡り上手にもなれるし、強くなる方法も見つけやすいでしょう?あき君の剣の腕がいい例じゃん。」
「...否定はしない。っていうか、できないな。
このスキルのお陰で、ななちゃんの体に良い薬草も早く見つけられてきたからな。」
「へ~。
前は小難しい事を色々言ったのに、結局のところ、あき君の特殊な力のお陰じゃない。知識人ぶってて、恥ずかしい奴。」
「いや、あの知識がないと、何を探せばいいのかが分からず、スキルが発動しないんだぞ!知識人ぶってもいないし!」
ん?
俺の体の為の薬草...?
...好感度アップアイテム!?
「あき君、私を落とそうとしてない?」
「いきなり何の話!?」
「だってね、私の為に薬草を探してくれたり、私の頼みをよく聞いてくれたり、わがままに結構前向きに付き合ってくれたり。
そういえば、私が考古学部の部室に初めて入った日に、偶然あき君と出会ったり、二人目の部員の星を勧誘してくれたり...
私を落として、自分のモノにして、その力を使ってない?」
「ち、違っ!あっ、いや...と、途中からやめてます!下心捨ててます!」
「おかしいと思ったんだよ!何で他に組める女の子が4人もいるのに、1人のあき君とペアになったのか。
力を使って、私とベアに成れるくじを引いたね?違う?」
「いや、力使ったけど、目的が違うっつか...」
「あき君、恐ろしい!じわじわと私を落としに来てる!怖い!」
「いや、違うって!」
明らかに慌てているあき君、振り向いて焦った顔を俺に見せる。
「俺は『正解』に通じるくじを引いただけで、ななちゃんとペアになるくじを引くつもりで引いてない!」
本当かな?
...いや、男の子って、無意識のうちにタイプの女の子と一緒になりたいと願う生き物だ。油断してはならん。
「言っとくけど、あり得んからな、あき君!私は絶対、男と付き合わないよ!
いや、同性とも付き合わない!ありえないから!
期待をするな!希望を持つな!夢を見るな!他の娘にしな!
今のところ、雛枝は結構脈ありって感じよ!ツンデレっぽくて、私と同じ顔だし、幼い頃の記憶を持つ幼馴染だし!」
「だから違う!
っていうか、生贄?しかも、自分の妹を代わりに捧げようとするのはどうかと思うぞ!」
「なら、星?なんだかんだ言って、一番仲のいい家族じゃない異性はあき君だし、独走レベル!いけるいける!」
「今度は『親友』?本当に生贄捧げる感覚だな。
あのさ、完全に勘違いした上に、最低な事を言ってる自覚はある?」
「本当に勘違いかね?怪しい。
でも、『最低な事』を言ったつもりはないよ。あき君なら、親友の星も妹の雛枝も託せられると思ったから。」
「託す?あははっ...ななちゃん、ほぼ同い年の女の子達を自分の娘のように語るね。
いや、だからさ、俺はただ『正解』に辿り着けるくじを引いただけだ。誰かと組むより、『行き先』を強く願ってたんだ。」
三つの道を目の前にした時、どの道が「正解」なのか、分からなかったのか。
確かに、使いにくい力かもしれんな。
「私と組む事を願ってなかった?」
「あの時、下りても下りても、何も...特別な事は何も起こらなかったまま、最終層に着いてしまった。『正解』なのに、期待していた事は一向に起こらなかった。
ななちゃんと同じだよ。俺もあの頃、心が大分削られていたよ。ようやく光ったそのくじに、縋る思いで引いたんだ。」
「そうなんだ。
私と違って、あき君は結構真剣だったのね。」
「あの時、先にくじを引いてから行き先を決めたじゃない。しかも、行き先を決めるのは部長のななちゃん。
どれが『正解』なのも分からないのに、『誰かと』まで願う余裕がなかった。それで相手がななちゃんなんて、予想していなかったよ。」
「言い訳ではないよね。」
「あぁ。
でも、今考えてみると、賢いななちゃんなら、余裕で正しい道を見つけられたんだろう。くじ引きが後だったら、他のメンバーと組む事を願い、ななちゃんと行き先の交換を相談する事もできた。
...すべてが『後の祭り』だけどな。」
言っている事に一理あるな。
けど...
「あき君。結局君がみんなの中で一番組みたい相手は誰だ?」
「えーっ、とーーー...」
「雛枝を避けていて、星とも話が弾まないだろうし。そして、私から蝶水さんとの仲を疑われている状態。
消去法で、私とヒスイちゃんだけになるよね。」
「そー...なるな~。」
「『女の子相手だと吃る』、子供のヒスイちゃんなら異性だと認識せず普通に話ができるかもしれない。けど、私がいないと、退屈だよね?」
「うぅ...」
「私以外と組みたいと、あの時のあき君はそう考えられたのか?
私が女の子と組みたい事があき君に伝える前の、あの時に?」
「ど、どうだろうナー?」
でもまぁ、その場合でも、きっと下心はなかったんだろうな。ただ居心地の良さで、俺と組む事を願う筈だ。
俺の方も、俺の勝手で迎え入れた新しい義妹のヒスイちゃんが、元々の妹の雛枝と仲良くなって欲しいから、少なくともヒスイちゃんと雛枝とのペアに文句はない。
「あき君の『下心』に関して、一旦置いといて。」
「もうそれでいいよ。好きにすればいいよ。」
「あき君に、『正解を知る力』がある。その力を使うには、何かのアイテムが必要。」
「物とは限らない、植物も動物も、人間もあり得る。」
「でも、気になるね。あき君が見た光るモノはいつも一つだけか?」
「いや、そうじゃない事もある。
昨日の夜...」
「昨晩!」
「...そんなに重要?あまり意味が違わなくない?」
「『昨日の夜』だとちょっといかがわしい響きがするから。
でも、もういいよ。確かに重要じゃない話だし。研究者でもないのに、言葉一つに拘り過ぎるのは良くない。普通に『嫌な奴』になる。」
「じゃ、続けていいよな。」
「うん。」
「...昨晩。」
あ、言葉変えた。
変えさせてしまった。反省ポイントだ。
「昨晩に見た地図では、複数の光る点が見えた。」
「幾つ?」
「あーっ、ごめん。よく覚えてない。一番強く光った点にばかり目を向けていた。」
「つっかえねーぇ!
雛枝が一緒にいないと借りれない貴重品なのに。」
「あれはななちゃんの持ち物じゃなかったんか?」
「喰鮫組の機密だって。」
「マジかよ。他のところもチェックしたかったのに。」
「そう思うよね。
私も、誘拐された全員がここにいるとは甘く考えていない。だから、一応あの地図を描いてみた。」
一度あき君に下ろしてもらって、俺は13番を床に置いて、中から27番を取り出す。
「これ、手書きの地図。」
「そう言ったでしょう?何で繰り返す?」
「いや...っていうか、いつ作った?」
「今朝、みんなが揃うの、待っている間に。
そういえぁ、あき君また最後だったね。昨夜になんかいかがわしい事を...本当にいかがわしい事をしたの!?」
「してねぇよ!普通に寝坊だよ!ごめんなさい!」
「本当か?」
「疑うな、こんなくだらない事に。
それより、写して大丈夫だった?喰鮫組の『機密』だろう?喰鮫組のビルの中でその『機密』を別の紙に写して大丈夫だった?」
「心配しないで。あの地図を暗記して、記憶で書いたものだから。下っ端の組員達には何を描いていたなんて、分かんないって。」
「暗記...あの地図を丸暗記したの!?」
「言ってなかったっけ?私、『完全記憶能力』を持っているよ。」
「あっ、聞いたような気がする。しかも、つい最近に...
アレ、本当だったの!?」
「流石に嘘だよ。
私が持っているのは『瞬間記憶能力』、しかも後天的の方、訓練して身に付けたモノ。神様とかに与えられたスキルなんかじゃない。」
前世でも一応身に付けようと努力したが、途中で飽きてしまい、あと少しのところで辞めてしまった。
だから、今世で自分を思い出してから最初に努力したのが「瞬間記憶能力」。そして、見事に身に付ける事が出来た。
「でも、結局今は文字が認識できなくなったので、役に立たなくなったけどね。」
「いや、それでも凄いよ!『瞬間記憶能力』?魔法無しで!?
ななちゃんが賢いのはもう分かってるのに、どんどん俺の想像の範疇を超えていく。
どんな頭してんの、ななちゃん?」
「人を頭のおかしな奴扱いするのをやめてくれ。勉強法さえ知れば、誰でも...めっちゃ努力すればできるようになるよ。
あき君もやってみる?」
「いや、いい!俺はそこまで賢くなりたくない!」
「いいえいいえ、結構楽しいものだよ...身に付けてから。」
「結構です!勘弁してください!」
「無理強いしてはいないけど...なら、話を戻すけど。
この手書きの地図、あき君は『光る点』とか、見える?」
「ごめん、見えない。」
「そっか、残念。」
オリジナルじゃないと発動しないのかよ。トリガーの範囲が狭すぎない?
「なら、明日からは私が丸付けた海底ダンジョンを一つずつ、みんなと巡っていてくれ。」
言いながら、俺は6番の化粧道具を使って、地図の上に円を付け始めた。
...書きにくいな。戻ったら、お父様に高級ペンでもねだっておこう。
「『みんなと巡っていてくれ』?」
「必ず『正解』とは限らないから、何も見つからなったとしても、凹まないようにして。」
「ちょっと待て、ななちゃん。ななちゃんは参加しないの?」
「あっ、順番間違えた!そう、私はちょっと抜ける。
雛枝に続いてのは悪いが、会いたい人が数人できた。だから、明日の探検は雛枝と私、後私の護衛の蝶水さんが一時的に団体を抜ける。」
「そうなると、ヒカリさんと翡翠ちゃんだけが残る。三人じゃ人数が足りなくなるぞ。」
「足りない事はないでしょう、一部のダンジョンが入れなくなるだけだし。そういうダンジョンは元来『未成年禁止』の攻略中ダンジョンだ、大人が付いていても入れない厳しいところもある。」
「だけど、何でななちゃんも急に抜けようと思った?」
「それは...」
本当の事を言うと、ややこしくなりそうなので、適当に誤魔化そう。
「今日ではっきりと分かったのよ。私の体力では、ダンジョン探検に向いていない。
だけど、あき君は『全員を救いたい』でしょう?『正解』も分からないし、時間の余裕もない。お荷物を抱えていては、あっという間にタイムリミットよ。」
「この国の内乱...の話?」
「そう。どうしても道案内役以外の大人が必要な時、タマに変身してもらえばいい。
守澄奈苗が特別ボーナスを出すとても言っておけば、喜んで人の姿になるよ、あの娘は。」
「それでも、ななちゃん抜きでは...」
「余裕ないでしょう?なのに全員救いたいでしょう?なら、やるしかないでしょう。
私は別にそこまでの思い入れはないので、私抜きだとしたくないなら、しなくていい。元々他人だし、国籍だって違う相手だよ。」
「...それなら、ななちゃんはその間は何をする予定だ?」
「会いたい人が数人できたって言ったでしょう?
まぁ、都合が悪くて会えなかったら、適当に蝶水さんと氷の国見学でもしておくよ。心配しないで。」
「むぅぅぅ」
納得していない顔だ。
いや、何で?俺がいなくても、普通に生きていけるでしょう?
それとも、実はあき君がダンジョン嫌いだった?無理矢理俺に付き合うのは良いが、俺抜きだとダンジョン探検が嫌とか?
...あっ、思い出した。
「あき君も『ぼっち』治せよ。私のように、みんなを引っ張って行ってくれ。
最悪、ヒスイちゃんもいる事だし、テレパシーのみの会話でもオーケーだから、私抜きでも楽しくダンジョン探検をしてくれ。」
「いや、そういう心配ではなく...」
「相手は星とヒスイちゃんだよ。まず身内から『女慣れ』しておけ。彼女とか、作りたくない訳?」
そう話しているうちに、俺は地図に丸付けるのを終わらせた。
あき君が見た「正解」とどこまで重ねられたかは分からないが、私が思うありそうな場所に全部丸を付けた。
「はい、地図。
この地図を見て、考古学部の部活動を続けてくれ。」
「ななちゃんは、ホント、もう...」
あれ、今ため息を吐かされた?
「ななちゃんが何を画策しているのか、分からないか。俺も俺で、全力で自分の望みを叶えていくよ。」
「よろしくね。望様とももう喧嘩しないでね。」
こうして、俺は再びあき君に背負ってもらって、みんなと合流し、今後の予定を伝えてから、今日が終わった。
「ななちゃん。あまり危険な事に首を突っ込むなよ。」
「男の心配、うぜぇー。」