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第八話 襲撃。そして…

あれから数日が流れた。学園での警護も特に何も起きていない。襲撃は1度もなかったのである。


強いて問題を挙げるならば、一緒に寝ている時の美稀のスキンシップが徐々にエスカレートしている点でだけである。


ベビードールでの視覚的誘惑は変わらず…それに加え、抱きつく際に足を絡めてくる様になっていた。

これは…恐らく俺の下半身の反応を確認して楽しんでいるのであろう。

好奇心が旺盛なのも考えものである。


胸の先端の固い感触も、あれから毎日感じている。

もうすっかり見慣れてしまったが故か…電気を消しても美稀の慎ましやかながらも存在感のある胸が脳内イメージとして再生されてしまう。己の意思とは関係なくだ…


こんな状態で元気にならない男なんて居ないだろう。少なくとも俺には無理だ。

自画自賛ではないが、よくここまで何もせずに耐えている…と思う。


きっと最近の美稀には羞恥心よりも大事な何かがあるのだろうと冷静に分析をする事で気を紛らわしている。

クライアントに手を出したら姐さんの逆鱗に触れてしまうし、美稀は遊び半分で手を出すには危険過ぎる。

どちらかというと、後述の方に畏怖しているのが本音である。


美稀の両親も、襲撃は受けていないとの事だ。

ここ数日は、葬儀等の人の多い場に出向いていたので安全だったのかもしれない。

そう考えるならば、落ち着いてからの方が危険なのかもしれない。

ちなみに、美稀は葬儀には参加していない。一度狙われているので、もしもを考えて新山氏が連れて行かなかったのである。


このまま様子を見て問題ない様だったら、早い段階でお役御免となるかもしれないな…と淡い期待を抱く颯。

これがこの数日の出来事である。


美稀と出会い、初めての休日が訪れた。

何処かに出かけるらしく、美稀は朝から準備に大忙しである。

清楚な水色のワンピース、薄っすら化粧もしている…

かなり気合いが入っているのだろう。先程から何度も鏡で確認している。


平日は家にまっすぐ帰宅していたから、休日ぐらいは遊びに行きたいのだろう。


警護の都合上、颯は同行しないといけないのだが、この時点で何も聞かされていない。

痺れを切らした颯が口を開く。


「どこに行くんだ⁉︎」


素っ気なく尋ねると…


「買い物…」


と同じく素っ気なく返ってくる。


「誰と会うのかは知らないが、一応同行させてもらうからな」


美稀も流石に分かっているとは思うのだが、改めてそう告げる。


何故か怪訝そうな顔をする美稀。まさか分かってなかったのかと嘆息しようとして…思いもよらぬ返事がきた。


「何を言ってるの⁉︎元々颯と2人で行くつもりだし。出会って初めてのお休みなんだからデートするに決まってるじゃない」


「それに…私…一緒に出かける様な仲の良い友達なんて居ないし。」


後の部分は消え入りそうな声だ。聞いてないのだからわざわざ言わないでもいいのに…やっぱりこいつ友達居ないんだ…学園でも一目置かれてる雰囲気だったからなんとなく予想はしていたが…


気の毒に思えたので、デートするなんて決まっていないと、いちいち文句は言わない事にした。先に言っておくが、別に美稀にビビったのではなく、泣かれたら面倒だからが理由である。


家を出るとすぐに…


「手を繋ぎなさい。命令よ‼︎命令されないと分からないなんて、本当に気が利かないんだから…」


そんな事を言ってくる。

命令と言いながらも頬を微かに染めて上目遣いで手を差し出してくる美稀。

突然の攻撃にたじろいでしまいそうになるが、それを悟られるのはマズイ。

頭を掻く仕草で面倒臭いという素振りを演出しながら、颯は差し出された手を繋ぐ。


美稀は恥じらいつつも幸せそうな表情を浮かべている。

こうして恥じらいを見せてれば、この子は可愛いのに。

実にもったいない、隣の美稀を見ながらそんな事を思う颯であった。


手を繋いだまま駅に向かって歩いていると…突然、背後から嫌な気配を感じる。

振り返ると黒服の男が颯達を見ている。

男は30ぐらいの黒髪短髪、目つきは鋭い。堂々としているところから察するに、最初から全く隠れる気はなかったのであろう。


「どうも初めまして、神谷颯さん。先日はうちの者がお世話になりました。まさかあなたが出てくるとは思ってませんでした」


俺を知っている?どうやら先日の奴よりは多少は出来るらしいな。


太陽ソレイユは使い捨ての駒には必要な情報しか与えない事は周知の事実である。

特に他の能力者の力については末端には絶対に伝えないのだ。普通に考えれば対策とかの観点から伝える事にメリットがあると思うだろう。


だが実際はそうではない。思わぬ強敵に遭遇し闘わずして逃げるのを組織は嫌うからである。だから余計な情報は徹底して与えないのである。

前回の女は明らかに末端の人間である。

颯を知らなかった事がその証拠となる。

また、特質を備えてないのも末端である事の証明に他ならない。


末端の人間が仮に負けて、拿捕された所で大した情報を与えていなければ、組織に火の粉はかからない。

また、組織にとって必要な人間であれば、そんな使い捨ての様な扱いは受けないのである。


そういう経緯から、目の前の男は少なくとも組織から情報を与えられる程の信頼と力を持っている人物という事が分かる。


「そうか、考えが足りなくて残念だったな。それで目的はなんだ⁉︎」


声を低くして、颯は男に問いかける。この時点で既に美稀を背に隠しているのは語るまでもない。


「出来れば平和に解決したいのですが…。葉山会長だけでは屈していただけなくて。見せしめに一族の人間を殺していこうと思っておりましてね。未来ある若者を先に…です。一族皆殺しの前に葉山社長が白旗あげていただけると良いのですが」


男は気味の悪い笑みを浮かべる。最初と同じく直立不動、何かをしてくる気配は感じられない。


「そうでした、自己紹介を忘れてました。私は雨宮と申します。私の名を聞いた事ありませんか?もし身を引くのなら、あなたの事は見逃して差し上げますよ神谷さん。悪い話ではないでしょう」


確か、太陽ソレイユの蒼の有力者が雨宮だったはずだ…過去の戦闘記録を見た事はないが蒼といわれてる事からも恐らく水属性であろう。

もしそうであれば、颯の火属性の緋の刀では属性の対抗関係で劣る事になる。


「黄昏よりもあかき刃よ…全ての闇を燃やし尽くせ」


流麗な動作で緋き刀を具現化する颯。今回は同じ特質持ちである為、相手の出方を窺う事なく即座に斬りかかる。


今いる場所は住宅街。被害を出すのはマズイ。

颯は刀身に焔を纏わせるだけの攻撃にとどめている。

勝負を急ぐなら…直接斬りかかるのでなく、刀から作られる焔の塊を雨宮にぶつけるべきであるのだが、周りを気遣うとその攻撃を選択は出来ない。


そうして出来た一瞬の隙を、何もしないで待つだけの雨宮ではない。


「空の蒼を宿す刃よ…忌々しき太陽を滅したまえ」


颯同様、雨宮も刀を具現化する。その刀身は、やはり蒼である…水の力を宿すのは一目瞭然である。


しかしながら、どういう事なのだろうか?

雨宮は先程「うちの者」と言っていたが、具現化したのは刀である。

刀であれば、ルーンの所属のはずである。

それが何故、太陽ソレイユの雨宮として情報が流れているのだろう。

先日の敵は銃を使っていた。雨宮と同じ組織であるはずがないのだ。色々と辻褄が合わない。


その事には颯も既に気づいている。

だが、今優先すべきは敵の殲滅。疑問をはっきりさせる事ではないのである。優先事項を見誤る程、颯は愚かではない。



斬りかかってきた颯の刀を雨宮が余裕を持った仕草で受ける。ところが、雨宮の上体が大きく揺れる。

雨宮の顔に驚きが浮かぶ。


それぞれの属性は火と水。本来であれば、水の力を宿す刀を持つ雨宮が断然有利なのである。

能力者の優劣は属性の単純な対抗関係に能力者と刀の適合率・身体能力が加算されて決するのだが、属性の優劣はその中でも最重要なのである。


優位にある雨宮が颯の斬撃に態勢が崩されただけでも、実に驚くべきなのである。

本来は絶対に起きない事なのだ。

先程の一撃だけでも、颯の資質がどれだけ素晴らしいかを窺い知ることができる。


「素晴らしい一撃ですね。これは長引かせるのは、得策ではないですね」


言葉が途切れるや、雨宮が地面に刀を突き刺す。すると、雨宮から美稀の足下まで地面に亀裂が走る。一瞬遅れて雨宮の足下の亀裂から出現した高さ3m程の鋭利な刃の様な水柱が亀裂に沿って美稀に一直線に向かっていく。


雨宮の一連の動作と同じくして颯は美稀の眼前に立ち、鋭利なその水柱を刀で受け止める。

その攻撃に暫く耐えはしたものの、結局威力を殺しきれず颯は吹き飛ばされてしまう。


颯の真後ろに居たはずの美稀も当然巻き込まれるかに思えたが、美稀は危険を察知して颯が耐えている間のドサクサに少し離れた位置に回避していた。

この女…どうやら出来るらしい…


吹き飛ばされた颯に目立った傷はないが…刀は美稀の足下に転がっている。

吹き飛ばされた際に、手放してしまった様だ。

気づいた美稀が足下の刀を拾おうと手を伸ばそうとするのだが、そこに颯の怒声が飛ぶ。


「美稀、逃げろ‼︎刀は出した奴以外は持ち上げる事すら出来ないんだ」


一瞬の躊躇。

だが…美稀は忠告を無視して刀に手を伸ばす。黙って言う事を聞く程、美稀の性格は可愛らしくないのである。

美稀が刀に手をかけた瞬間、眩い光と共に焔の柱が天に向かって上がる。


突然の出来事に目が眩む颯、雨宮も同じ様に目が眩んでいる事だろう。



暫くして視界が回復した颯が最初に見た光景は…

さっきまで自身が振るっていた刀を持ち、颯に向かってぎこちない笑みを浮かべる一人の少女の姿であった。

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