第二十二話 天音の告白
「天音も刀を収めてくれ」
俺が天音にそう言うと、黙って指示に従ってくれた。
それを見て話を続ける。
「それで天音。お前が提示した条件はこれでクリアでいいんだな?」
「ええ…問題ないわ」
賭けには勝ったようだ。色々知りたい事がある。さて、まずは何から聞こう。
その前に一言断っておくか。
「美緋、天音に聞きたいことがあるので、少しの間、静かにしていて欲しいがいいか?」
「構わぬぞ」
美緋から了承の返事ももらったので、本題に入る。
「それで…まずはお前はなんで『あの男』に恨みがあるんだ?ちゃんとした理由を聞かせてくれ」
「あの男はね…。私の兄の仇なのよ。あなたは白鷺の家を覚えてないと言ったけど、ウチも代々担い手を多く輩出してきた家だったのよ。あなたや緋莉さん、そして真君には一度だけ会った事があったわ」
「そうだったのか…すまない、覚えてなくて」
「別に構わないわよ。それで…話を戻すけど、太陽と月はね?だんだん衰退していったでしょ?そこに焦りが生じて、争う事を止めたの。でも、いつ裏切りが起こるか分からないから…それぞれのトップをとある兄妹にしたの。暫くでも争いが起きない様にね。そうなる様に仕向けた人物がいるのよ」
知らなかった。完全に敵のいがみ合う関係だという認識だった。
しかし、何故この事実を誰も知らなかったのだろう…?
「続けるわね。そのトップの役目を受けたのが、私達だった。颯君は…太陽と月はどんな組織だと思ってるかしら?犯罪組織ってイメージかしら?」
「そりゃ、それ以外に考えられないだろ」
当たり前すぎる事を言われ、呆気に取られて、気のない返事をしてしまう。
「それが、特定の人物が私腹を肥やす為だけの事だと…思った事はないのね」
どういう事だ?天音の言う意味が理解出来ない。
「察しが悪いわね。今回の黒幕は私達白鷺家の主よ。N特の凪野さんは知ってるわよね?その上司にあたる人物。白鷺の家は衰退していて、表の方の仕事がうまくいってなくて。それをその人が支援する代わりに私達が組織に入ったの。ここまでの所で理解出来ない事はあった?まだ続くから、話してない事に対する質問はしないでね」
「とりあえず、今までで理解出来ない事はないよ」
「そう…。それで、その私の主が太陽と月が消える事は望んでないのよ。太陽と月が衰退したからこそ、主が支援する事で、やっと手に入れたの。そんな玩具を取り上げられたくないの。でも、二つの組織の殲滅がN特の目標でしょ?功績は順調。だから、勢いを削がないといけない。N特を支援されるのはマズイの。だから、葉山一族に圧力をかけてるわけ。因みに葉山社長を狙わないのは、葉山に潰れてもらうと困るのよ。私の主の家は、違う方面の仕事で葉山と懇意にしているの。それで得た利益で組織を維持しているの。今は組織を潰させない方向でいっぱいなのよ。今後どうするかは分からないわ」
「あんたの置かれてる立場は理解したよ」
「それじゃ、ここからが本題ね…。単刀直入に言うと、私達は主に既に見捨てられるわ。理由は先日のショッピングモールの件よ。あれは私か兄が実行するはずだった。葉山を引かせる意味で出来るだけ派手に…一般人を多く巻き込んで…。少し前から活動が派手だったでしょ?あれは全部主が絡んでから、そうなったの。私と兄はずっと仕事を拒んだ。家の為とは言っても、一般人を巻き込む事なんて本意ではない。でも、私達がやらなくても、組織の誰かがやる。そういう組織だもん、当然よね。私達は自分達の手が汚れるのを恐れて逃げただけ…」
意外だった。血も涙もない奴らの集まりだと思っていたから…。
「それに憤慨した主は…『あの男』の存在を知り引き込んだの。強過ぎたのよ…太陽と月の体制を表向きはそのまま維持しようとしていた主の考え方はすぐに変わったわ。組織を一つにして、管理出来るだけの強さがあの男にはあるってね…。私と兄ね?私の方が強かったの。だから、兄が見せしめに始末された。私に後がないって事を示す為にね。駒として私を残す事を選んだ」
息を呑んだ。あの男の話が出てきたのもあるが、天音の表情が…兄が始末された件を話した瞬間、激しい怒りを浮かび上がらせたからだ。
身内を殺られる痛みは俺には理解出来るから…。
「あの男の武器の特質は知ってるのよね?」
「ああ…知ってる」
聞かれたので短く答える。
「それじゃ、あの属性の発動条件は…?」
そう尋ねてくる天音の表情には寂しさが滲んでいた。
「それも…知ってる」
「でしょうね。知ってるとは思ったけど、一応確認しただけだから。あなたの家の件も私達は知っていたから。兄は属性の発動条件を推測したの。条件はおそらく、身内殺しだろう…ってね。あの力は普通の力では太刀打ち出来ないわ。同じか、もしくは相反する属性しか対抗出来ない。それが兄の導きだした答えだった」
おそらく歴代の担い手の中にこういう罪人はいたのだろう。
外法が故に伝わらなかったのか、どうにか始末してきたのだろう。
言葉を終えた、天音が顔を顰める。そしてさらに、冷たく言い放つ。
「だから…私は兄を殺したの」
天音の話が一段落した。知りたかった事は聞いた。天音があの男に敵対する理由も理解した。
天音は信用しても問題ないだろう。
「それで、俺達に目をつけたんだな」
「本当は計画通り消すつもりだった。あなた達を夜中に訪問したでしょ?あれはあなたを…あの男の息子がどの程度か判断する目的もあったの。あなた…すぐ頭に血がのぼるし使えないって正直思ったわ」
「・・・・・・・・・・・」
返す言葉が…ない。
酷かったもんな、あの日の俺。
「考えが変わったのは、あなたの刀と美稀さんの刀を見てから。何故だかピンときたわ。あなたの刀はあの男の脅威になる。美稀さんの方はまだ潜在能力があるって…。だから、賭けてみる事にしたのよ。それまでは…この決闘の前までは、あの男に従った振りをして、一人で虎視眈々と狙うつもりだったんだから。これが私の思ってた事よ、全部正直に話したわよ」
「ああ…ちゃんと理解したよ。それでこれからどうするんだ?」
「組織には戻れないわ。だけど、一つだけやれる事をするわ。あなたもその身体で闘うのは無理でしょ?時間を稼げるはずよ」
そう言って、天音は携帯を取り出す。
短いコールで繋がった様だ。
「要件だけ言うわね。私、組織を抜けるから。あなたの息子に協力してもらって仇を取らせてもらうわ。ええ、そうよ。家の方も、主とは手を切る事にするわ。まだ伝えてないけど、私が言えばすぐにそういう方向に話がいくはずよ。兄を殺られた恨みは、私だけじゃない。あなたと主は絶対に許さない。それと、あなたの息子、怪我してるのよ。万全な状態で闘いたくない?それとも負けるのを恐れてすぐにでも闘う?」
天音の…電話口の相手が分かってしまった。声は聞こえてこないが、今すぐにでも声を張り上げてしまいそうだ。
我慢だ…耐えろ…熱くなるな…。
似たような事を何度も心の中で復唱する。
「そういうと思ったわ。それじゃ、だいたい2週間後で構わないかしら?場所と時間が決まったら連絡してきて、それじゃ」
天音が電話を終えた。
「そういう事で、2週間後に決まったわ。静かに待てたのね、感心感心」
茶化す様な言い方をしてくるが無視する。
「詳しい日時と場所が決まったら連絡してくれ」
そう言って、こちらの番号を天音に教える。
天音に確認する事はもうないな。
「美緋にも少し話を聞くつもりなんだが、天音も聞くか?」
「私はいいわ。興味はあるけど、おそらく私が聞く必要はないわ。どうせ…今回の件が終われば、もう会うこともないでしょうから」
「分かった。それならこれで解散しよう。連絡待ってる、それじゃな」
「はいはい、またね〜‼︎」
そう言って、天音は去っていった。
美緋も大人しくしてくれていたので、スムーズに進んだな。
とりあえず美緋の方を振り返る。
すると何故だか、ニタニタして、顔が緩んでる。
瞳を閉じて笑ってるのが…とてつもなく気持ち悪い。
関わりたくないが、いつまでもここにいるわけにもいかないので声をかける。
「美緋、こっちの話は終わったから家に帰るぞ。それから話を少し聞かせてくれ」
「よいぞ。では、此方を抱っこせい。もう疲れてしもうたのじゃ」
そう言って、こちらに両手を広げて抱っこをせがむ。せめて…おんぶにしてくれないだろうか…。ダメもとでお願いしたのだが、
「嫌じゃ。それじゃと、颯の頭しか見えないのだぞ、つまらん」
そういう事で、あえなく却下。お姫様抱っこする羽目になった。
この場を離れる前に、姐さんに後処理をお願いする事も忘れない。
せめてもの救いは、夜中だったのですれ違う人がほとんどいなかった事だった。




