第十九話 真夜中の決闘の始まり
約束の時間の10分前…指定された廃工場の前に到着した。
敷地に入る為の金網状の扉の鍵が外されている。
向こうはもう着いているのだろう…。
周囲を伺いながら、廃工場にまっすぐ進んでいく。
「廃工場って、ドキドキするね‼︎」
「何をワクワクした顔してんだよ。遊びじゃないんだぜ」
美稀の緊張感のなさに辟易してしまう。
「こういうのは、リラックスしてる方がいいんだから…。颯が生真面目なだけよ。あ、別に褒めてないから」
口の減らない奴だな…。人の神経を逆撫でして、冷静さを失わせたいのだろうか…?
美稀って、実は敵なんじゃないだろうか…。
敵が身内に居る…なんて事は良くある事だ。
実際経験してるしな。
冗談はさておき、工場が目の前に見えてきたので、そろそろ集中しようと思い美稀に声をかける。
「美稀、お喋りはお終いだ。見えてきたぞ、ここからは集中しよう」
「は〜い」
少し間延びした返事、もうつっこむのは諦めよう。
工場の扉まで残り10mぐらいの所まで近づいた。ここまでが何もなかったが、入ってすぐに罠がある可能性も否定出来ない。
工場の扉は、金属で出来ており完全に閉められている。その為、中の様子は窺う事は出来ない。
中が見れる窓はないだろうか…?少し周りを確認した方が良いかもしれない。
だが、あまり時間がない。約束の23時が迫っている
。もう少し早めに到着する様にしておけば良かった…と自責の念にかられる。
約束より遅れたら、すぐに美稀の両親にターゲットが切り替わる可能性もあり得る。悩んでる暇はない…深呼吸をして中に突入しよう。
その旨を隣にいる美稀に伝えようとして…美稀を見る。
いない…⁉︎
考え事をしていて、美稀を気にしてなかった。こんな近くにいたのに、連れ去られたのか…?
まさかの事態に気が動転する。
「颯…早く来なさいよ〜。置いてくわよ?時間ギリギリなんだからね、まったく…」
美稀の声が響いた。
声のした方…扉の方を見ると…いた‼︎
急いで美稀に駆け寄る。
「お前、何で不用心に近づいているんだよ?」
「そっちが途中で立ち止まったんじゃん。途中で振り返って呼んだのに気づかないんだもん。何か考え事をしてるみたいだし、邪魔しちゃ悪いからそっとしてたんだよ‼︎」
俺、考え事に集中して周りを見てなかったのか…反省しないといけない。改めて気を引き締め…
突然、『キィキィ』甲高い錆びた扉の音が聞こえてきた。
「錆びてて、滑りが悪いね。人が通れるぐらい隙間があればいいよね」
美稀はそう言って、スライド式の金属扉を開けている。錆びてて、開けるのが大変らしい。
って、勝手に行動し過ぎだろう‼︎
「美稀、勝手に行動しないで少しは慎重になれって」
そう言って美稀の隣に立つ。中には俺から入らないと…。
「気高き白群の刃よ…我に降りかかる災厄を打ち滅ぼせ」
刀を具現化して準備を整える。
「行くぞ、美稀‼︎お前の方も準備しろ‼︎」
そう言って、一気に中に飛び込んで行く。
薄暗い工場の奥…人影が2つ。
「ほぼ、定刻通りのご到着ね。待ってわよ」
天音が話しかけてくる。
「遅刻するわけにはいかないからな。約束通り来たぞ」
「それで…ちょっと聞きたいんだけど…その握っている刀は何なの?」
天音が早速気づいたか…。さて、何て答えるかな。
「言う必要はないな。お前が知った所で意味はない」
「命、どうする…?一緒に仕掛けるか、私が単独で行くか」
天音が命に尋ねている。力関係は、命の方が上なんだろうか?
「さっさと終わらせたいから2人で始末する」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ‼︎私を無視しないでよ」
命の言葉に、美稀が慌てて口を挟む。
「引っ込んでろ。お前はこの男の後、直ぐに始末してやる。順番をおとなしく待ってろ」
「おいで緋莉…この生意気な女の人を一緒に懲らしめるよ‼︎」
そう言うと、両手を握り締め、胸の前でクロスする。
一瞬で二振りの緋色の刀が具現化する。
「あらあら、あんたも緋色の刀を具現化出来るのね…。同じ属性なんて仲が良いみたいで羨ましいわ」
天音が小馬鹿にした様に言う。
途切れたかの様に思えたが、天音は言葉を続ける。
「少しは出来るみたいね。でも、相手が悪かったわね…。新山美稀さん、逸材みたいだけど…自分の不運を呪うのね。あなたへの抹殺命令は覆らないのよ」
「私は別に不運なんかじゃないわ。それにこんな所で終わらないから…」
そう呟く美稀の瞳には闘志が宿っている。身体が竦んだりしてない、強がりなんかじゃない。
それが分かって、安堵する。
「命…どうする?相手も2人みたいだけど」
「あの調子に乗った女は、目障りだ。私が瞬殺してやる」
どうやら、命が美稀とやるらしい。
俺が天音か…。月のトップの実力、お手並み拝見とするか。
「りょ〜かいっと‼︎じゃ、こちらも準備しましょうか」
次の瞬間…我が目を疑う光景が起こる。
天音が…刀を具現化したのだ。言葉を発しなかった。
右手に握っているのは、深海を連想させる様な黒味がかかった藍色…濃縹の刀。
見るからにただならぬ雰囲気を連想させる。
「どう?なかなか綺麗な色でしょ?気に入ってるの…」
天音が刃の部分を左の人差し指でなぞりながら、そう呟く。
その隣で…命も無言で具現化をする。見た目は、全長20cm程の自動拳銃タイプ。全体は紫がかった青…瑠璃色が美しい。
二人とも、おそらく水属性だろう。俺が火属性だった事を考慮しての事だろう。しかも…無詠唱、二人とも適合率はかなり高いのだろう。俺は白群の刀だから…問題ない。木属性を備えてるから、刀は優勢の関係だ。だが、美稀は…。
マズイ…速攻で天音を撃破しないと、美稀が危ない。
「そうか…残念だが、俺の好みではない…」
暗い色を見るのは美稀の下着だけで十分だ。そんな場違いな事を考えて心を落ち着ける。
「明日も学園があるんで、早く寝たいんでな」
そう言って、天音に向けて刀を振るう。周りに気を使う必要がないのが幸いだ。
刀身に光を纏わせるイメージ。刀身が光り輝き、その刀身が伸びる。その場から動かず、天音に刀が届く…
天音は身動き一つしない。今から回避では遅い。
『これは決まる…』
そう確信した俺の渾身の一撃は…天音に軽々と受け止められた…




