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第十一話 新たな緋色の刀の誕生

「待たせたわね」


美稀に腕を組まれた状態であれから30分ぐらい経過した頃…姐さんがやって来た。


到着早々にも関わらず、こちらの様子を見て…あからさまに笑みを浮かべている。

ツッコミたいのを、あえて私はしませんよ…だって大人ですから…って目が訴えている。


美稀の好きにさせている…他人から見たら、きっとそういう風に…要するに美稀に陥落した様に思えるのだろう。


だが、実際…陥落するに至ってない。

誘惑に負けなければ…晴れて自由の身になれる。

颯は…今もそう考えている。


最初の出会いから比べ、明らかに美稀を意識する機会が増えている。

颯としては認めたくないのだろうが、今以上に美稀が積極的にアピールしてくる事を思えば…陥落するのは時間の問題であろう…


「で、何があったの⁉︎狙われたんでしょ⁉︎」


姐さんの顔が引き締まる。頭を切り替えた様だ。


「そこに倒れてる男が襲ってきた。そいつは雨宮。太陽ソレイユの蒼の有力者と言われてる男だ。」


「今回は太陽ソレイユの犯行っていうのは前回の襲撃で既にわかってるわ。他に何か分かった事はないの…?」


「それなんだけど、雨宮…使用した武器が…刀だったんだよ」


姐さんの目が見開かれる。流石に驚いたのだろう…自分の目で見た俺ですら未だに信じたくないのだから。


「う、嘘よね…?到着が遅くなった事に対する仕返しかしら…私に嘘の報告するとか、いい度胸じゃない」


驚いたのも束の間…姐さんが怒気を纏い始める。


「嘘じゃないよ…美稀も見てるんだよ。だいたい俺が姐さんに嘘を報告するメリットとかないし。そんなに馬鹿じゃないって俺」


「・・・・・・・」


「話を続けるけど、雨宮が気になる事を言ってた。先日の銃の女を『うちの者』って言ってたんだ。勝手な想像は身を滅ぼすのは分かった上で言うけど…太陽ソレイユとかルーンがもしかして一つになってるのかも。それか…謀反を起こした者が集まって新しい組織を作ったか。もし後者なら…組織が裏切り者を始末しないのはおかしい。どちらも面子だけは気にするはずだから…両方の組織の主力が、全員寝返って人手不足に陥り追えない可能性も考えられなくはないけど…とにかく何かおかしな事になっている」


「可能性はあるわね。でも、あまり深く考えないで。情報収集は専門の人達に任せておけばいいわ。凪野さんには私から話しておくから。で、本題は何?私を呼びつけた訳は?」


本来、雨宮はN特に引き渡せば良い…身柄の受け渡しが出来ない何かが起きたから…姐さんにわざわざきてもらったのだ。

その何かを颯は説明しなければならない。


「実はさ…2つ報告したいことが…あってさ…。まず一つ目が、白群を使った事で…雨宮の刀を破壊しちゃってさ…」


「は?あんた何言ってるのよ!アレはもしもの時にしか使うなって言ったわよね私。雨宮そんなに強かったの?」


姐さんが、一息に捲し立てる。


「雨宮…そんなには強くなかった。でも…」


「じゃあ、どうしてそんな事になってるの」


言い終わる前に、姐さんが被せてきた…

そりゃ、確かに口ごもってはいたが、そんなにポンポン進めようとしないで欲しい。声を荒げる訳にもいかず…颯は思わず嘆息する。


「美稀、ちょっと離れろ。そんで、アレを出せるか試してみろ。目を閉じて…アレを出したいって願え。多分それで…言葉と動作が浮かんでくるはず。あとは、それを口に出して詠んでみてくれ…」


いきなり颯に話しかけられた美稀に、渚は疑惑の目を向ける。


「やってみろ…って。一応やってみるけど、何も起きなくても知らないからね」


美稀は困惑しているが、颯の指示に渋々従う。

目を閉じて、刀を出したいと願う。言葉は…何も浮かんでこない。

しかしながら、右手に微かな熱を感じる。


光の粒が集まり、それが一瞬眩い光を放つ。

美稀のその右手には…緋色の刀が握られていた。


渚は…目を丸くしていた。そんな渚の姿に、颯は苦笑してしまう。そして静かな口調で喋り始める…


「見ての通りなんだよ…言い難い…じゃないな、自分でもまだ信じられなかったんだ。今のを見て、やっと理解できたよ。姐さん、俺さ…刀に見放されちゃったんだよ」


颯は情けない気持ちを抑え、何とか言い終えた。


「嘘でしょ…刀が所有者を変えるなんて聞いた事ないわよ!颯…あんた…何をしでかしたのよ?」


「何かをしでかしたのは、俺じゃなくて美稀だ。雨宮との戦闘中に…俺さ、刀を落としたんだよ…美稀には拾えないから触らずに逃げろって言ったんだ。なのに、こいつ…無視して刀に手を伸ばしたんだ。そしたら拾えないはずの刀を美稀は拾ったんだ。俺もかなり動揺したけど、すぐに取り返して雨宮と闘おうとしたら…刀に拒否された。刀は俺を所有者とはもう思ってないらしい。でも、美稀に闘えっていうのは無理だし…俺が闘おうにも素手じゃ流石にね…白群色の刀を出すしか手がなかった訳…」


悲壮な表情の颯に渚は声をかけれずにいる。


そんな重い雰囲気の中、黙って話を聞いていた美稀が口を開く。


「さっき刀を出す時に頭の中に刀の意思?みたいなのが流れてきたんだけど…この刀ね?颯を見捨てたんじゃないって。颯…あんた…私が刀を拾おうとした時…どんな事考えてた?自分で言える?嘘や誤魔化しは通用しないわよ?その意思みたいなものが教えてくれたから…」


「・・・・・・・」


颯は言葉を発せないでいる。見かねた美稀が話を続ける。


「なんでもいいから…私を守ってくれ、そんな事を考えたでしょ?刀を手放してしまって、あんたかなり焦ってたんだね。その願いにあんたの刀が応えたんだよ。だから、私が刀を拾い上げる事が出来た。あ、あとあと見捨てたのは…刀じゃなくあんたの方だってさ。刀も怒ってるよ…所有権を捨てでも守りたい程の強い意志…どんだけこの女の事が大切なんだって…キャッ‼︎‼︎‼︎」


美稀は最後の部分を…左手を頬に添えて、モジモジしながら顔を真っ赤にして言い放った。

(右手は刀を持っている、手が空いていれば間違いなく両手を添えてモジモジしていたであろう)


絶句する颯。呆然とする渚。モジる美稀。

三者三様…である。


「えっと………。………はい?ちょ、ちょと待て。お前何言ってるの?大切って…俺がお前を?」


「そうよ。本当に素直じゃないんだから。そんなに大切に思われてるなんて…気づいてなかったわ」


俺は多分…美稀を大切に思ってるのは間違いない。それは認める。

でも…そんなに俺の美稀に対する気持ちは大きいのか?自分の事なのだが分からない…


「刀の所有者に私がなったのはそういう事よ。ちなみにこれ…颯が緋色の刀以外の刀を所有していたから、起きた事らしいわよ。流石に本来の所有者を丸腰になんて出来ないでしょ?あと、聞かれると面倒だから…先に言っておくわね。だからもう少し喋ってもいい?」


颯も渚も、コクコクと首肯する。

それを確認した美稀は満足そうな顔で話を続ける。


「先ずは…気づいてるかもしれないけど…私がさっき刀を出した時に何も唱えなかったでしょ?あれね…刀が私の考えた具現の言葉を拒否したからなの。颯も具現化する時、唱えるでしょ?アレ…言葉が最初から決まってるって思ってる?決まってるとも言えるけど厳密にはそれは違うの。最初にイメージする際に、本当は所有者が言葉を決められるの。刀を具現させるイメージをするだけじゃダメなんだけど。どんな言葉を唱えて具現化したいか願わないと、あらかじめ決められた言葉になるの。大体の人がこれらしいわ…だって武器を具現化する最初の時って無我夢中で、そんな言葉を考えたりねがったりする余裕ないわよね?あと…これ颯も知らなかったぐらいだから知らない人多いんじゃないかな…タイムオーバーで勝手に決まってるってわけよ。これ嘘じゃないわよ。刀の意思に触れた時、頭に流れてきたんだから…」


知らなかった事実を美稀の口から聞く事になるとは思いもしなかった。颯は動揺を隠しきれず口を開く。


「マジかよ⁉︎それじゃ…あの恥ずかしい言葉を唱えず、刀を具現化出来たのかよ…そんな…嘘だ…。もしかして決められた言葉で具現化するとメリットがあるとか?」


「………もう…っ。先ずって言ったんだから、まだ続きがあるとは思わないのかしら?」


「す、すまん」


「まー、いいわ。別にメリットないわよ。アレは刀が自分を具現化する際に唱えて欲しい言葉なだけよ。恥ずかしいとか言うと刀に対して失礼よ?アレを本気でかっこいいとか思ってるんだから…」


失礼と言いながら、美稀よ…

お前の口調にも馬鹿にした雰囲気が窺えるのだが…。

ってか、刀が唱えて欲しい言葉かよ…なんかショックだな。あんまり聞きたくなかったかも。


「あと、すまん。もう一つだけ…教えてくれ。お前さ…何て唱えるつもりだったんだ?拒否されたって言ってたけど…」


「え?それは…アレよ。アレ…で分かりなさいよ。アレったらアレ。この話はもうお終い」

(私と颯の愛の結晶、あかちゃん。一緒にパパを守ろうね♪ でした…とか颯に言える訳がない。これを唱えてるのを他人に聞かれたら…それは私でも流石に恥ずかしい。拒否されてある意味良かったと実は安堵しているのである)



聞かれたくなかったんだろうな…どういう方向か分からないけど、イタイ要素は含まれていたんだろうな。

颯は雰囲気でそれとなく悟って、追求はしない事にする。


「それと…もう一つ。こっちが重要…かな…。颯…ちゃんと刀を目に焼き付けてね。この刀ね?私には長過ぎるの…こんなの振り回せる訳ないわ。刀が言うには、颯に合った形ではなく、私に合った形にした方がいいんだって。だから…この刀がこの形なのはこれが最後。今から、一旦消してから具現化して再構築する。そうして、完全に私の刀となるんだって。それをちゃんと颯に見ていて欲しい…これがこの刀の願いなの。だから…ちゃんと見守っていてあげて」


「そっか…見納めなのか…。でも、形は変わってもこれからは美稀を守ってくれるんだろ…寂しい気持ちよりも誇らしく思える。教えてくれてありがとう、美稀。うん、しっかり心に刻んだよ。だから…新しいお前の力…俺に見せてくれ」


俺の言葉に頷くと、美稀は刀を消す。

そして…両手を握り締め、胸の前でクロスする。

光の粒が両手を中心に集まり、視界を眩い光が包む。

光が消え、視界が回復する。


目の前に立つ美稀は…二振りの緋色の刀をクロスした両手に握り締めていた。

右手の刀より左手の刀が20cmほど短い。

分かりやすく表現するならば、太刀と小太刀である。


「颯、あなたがくれた刀よ。あなたの分まで私が大切にするから…」


二刀流…かっこいいな。美稀の姿を見て、颯が一番最初に思ったのは…そんな事であった。

気持ちは分かるが、今までやり取りが台無しである。


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