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Chap.9

 そっと腕を掴まれて揺すられる感覚に、由はびくりとして目を覚ました。

「もうすぐ着くって」

 結花が囁く。

「ね、見て」

 結花が指差す方をまだ半分閉じた目でのろのろと見やって、一気に眠気が吹き飛んだ。

 美しいブルー。

「…わあ……」

 窓の下半分にいっぱいに広がる青い青い海。思わず窓に張り付く。

「すっごい…綺麗」

 海辺に住んでいない者にとって、これは日常にはない特別な色だ。心の底から見惚れる。

「ああなんか夏休み!って感じ」

 隣で結花もうっとりと目を細めている。

 ピカピカの上天気だ。青い海、青い空、白い雲。まるで暑中見舞いの絵葉書のようだと、由は一年生の夏休みに莉乃がくれた葉書を思い出した。

「暑中お見舞い申し上げます。一学期中はお世話になりました。一緒に学級委員をやれてよかったなと思ってます。前期が終わるまでよろしく(もしかして後期もやる?なーんてね)」 

 水彩タッチのビーチの絵。ターコイズブルーの上に並んだ細くてくっきりした黒い文字。なーんてね、の後にスマイルが書いてあったっけ…。

 雅代が後ろから顔を出す。

「あと五分くらいで駅に着くわ。港に行くバスに乗り換えるから、早足で行くわよ」

「了解」

 答えてから、由はうーんと伸びをした。ほんのちょっとだけ、と思って目を閉じたのに、こんなに眠ってしまった。

「よく寝てた」

 結花がくすっと笑う。

「うん、すっごい気持ちよく眠れた。まさに快眠」

 由は改めて自分の座っているソファを眺めた。一体何でできてるんだ、これ。

 向こうで車の中だの新幹線の中だので眠って起きると、Tシャツが汗で背中に張り付いていたり、首が痛くなっていたりして、気持ちのいい目覚めとはあまり言えない。

「やっぱり静かなのが鍵なのかな。あと明るさ、っていうか、感じられる光の量っていうの?」

 言いながら結花が天井のガラスに目をやる。

「これだけガラス張りで明るいのに、眩しくないと思わない?」

「…そういえば。こういうのもさ、魔法で何か加工がしてあるのかな。外からはガラスに見えなかったし」

「でしょうね」

 魔法か…。

 今まで薬作りにしか興味がなかったけれど、もっと色々な分野の魔法について知りたいな、と由は思った。


 汽車は洒落た——としか形容しようがない——プラットフォームにすうーっと滑り込んでいった。ここも高い天井はガラス張りで、床や壁は艶々した白とライトグレイで統一されている。

「…なんだか美術館みたい」

 リュックを持って立ち上がりながら結花が言った。

「さっ、急いで行くわよ」

 雅代がきりりと言って、ロバートが苦笑する。

「大丈夫だよ、雅代。時間は十分ある」

 雅代が眉を上げた。

「あのバスは信用できないのよ。発車時間前にさっさと行っちゃったりするんだもの。昔あれをやられて船を逃しちゃって、カッサでの大事な待ち合わせに遅れたことがあったんだから」

 かくて四人は、せかせかと早足でウェリス中央駅構内を抜けていった。

 中央駅というだけあって大きい。そして人がたくさん歩いている。

 由はちらりと腕時計を見た。八時四十分。平日だから、これってラッシュアワーなのかな、東京のラッシュアワーに比べたら人は少ないな、などと思っていると、結花が「見て見て、綺麗」と上を指さす。

 見上げると、三階分くらいある高い吹き抜けのガラスの天井あたりに、色とりどりの大きなシャボン玉のように見える球形の風船がいっぱい浮かんでいて、その真ん中に、こちらを誘うようにキラキラ光る字で「おひとついかが?」と書いた大きな看板が浮かんでいる。

 おひとついかが、って…。どうやって買うんだろう。あんな高いところに浮かんでるものを。

 そう思っていると、深く透き通ったコバルトブルーの風船が一つ、まるで呼ばれたようにすうーっと群れから離れ、下へ降りていった。

 風船が向かう先には、お父さんらしき男の人と、明るい向日葵色のふんわりしたワンピースを着た女の子がいて、笑顔で風船を見上げている。

 やがて風船は二人の間でそっと止まり、風船から下がっているキラキラ光る紐をを手にした女の子が嬉しくてたまらないというように大きな声で「ありがとうパパ!」と叫んで、辺りの人たちがみんなニコニコした。

「あれ、どうやって買うの?」

 やはりうふふと微笑んでいた雅代に訊ねる。

「あちこちに販売機が立ってるわ…ほら、そこにあるのがそう」

 数歩離れたところにある、真っ白なポールを示す。背の高いポールのてっぺんが、なるほど風船のような球形をしている。

「買ってあげましょうか?」

 からかうように言われて、

「いらないよ」

 と苦笑しながらも、由はちょっぴりいいなあと思った。

 陽の光に透ける色とりどりの風船たちは、小さい頃読んだ絵本の挿絵のようだった。あれは確か悲しいお話だったっけな…。友達の風船が死んでしまうのじゃなかったっけ。…縁起でもない。


 港へ行くバスには余裕で間に合った。真っ白な大きなバス。所々に複数の細いブルーのストライプが描かれていて爽やかだ。

 中には海のような深いブルーの濃淡の絨毯が敷き詰められ、背もたれのある真っ白な長いベンチがずらりと並んでいる。ウェリス中央駅とウェリス港を往復するだけのバスで、誰も途中下車はしないから、どこに座ろうと構わない。後ろの方のベンチに四人並んで腰を下ろす。座ってみると、艶のあるプラスティックのように見えたベンチが心地よく柔らかいのに驚く。

「これならお父さんも文句なしだね」

 結花がくすくす笑って言う。

 お父さんは駅だとか空港だとかにある固いプラスティックの椅子が嫌いなのだ。早くSFに出てくるような柔らかいプラスティックが発明されればいいのに、とか、こんな座り心地の悪いものをわざわざ置く人間の気が知れない、とか、ぶつぶつ言う。

「高野君は昔から気難しかったわねえ、そういえば」

 雅代も笑う。

「大学でも、高い授業料払ってるのにこんな固い椅子に座らせるなんて、とかまるでおじいさんみたいに随分文句言ってたわ」

 大学か…。由は隣に座ったロバートを見上げた。

「ロバートはカッサの魔法高等学校に行ったんでしょ?」

「そうだよ」

「なのに大学はドゥマにしたのはどうして?」

 ロバートは軽く肩をすくめて笑った。

「なんとなくかな」

「…なんとなく?」

 ロバートらしくないなとちょっと思う。

「僕はマレナロのオルセーンで中学校までの教育を受けたんだ。で、ルビナスのカッサにいた祖父母に勧められてカッサ魔法高等学校に行った。だからなんとなく大学はまた違う国に行きたくなったんだね。ドゥマはカッサに勝るとも劣らないいい魔法大学だし、アレンサには一度も行ったことがなかったから、それでドゥマに決めたんだ」

「へえ…。雅代伯母さんは?どうしてドゥマ?」

「エレインの勧めね。それに地理的なこと。エレインに会ったのが、私がイギリスのB市に住んでた時だっだし…」

「エレインがB市に来てたんだっけ?」

「そう。買い物に来てたエレインの落とし物を私が拾ってあげたのがそもそもの始まり。で、B市の『扉』を使ってドゥマに遊びにいくようになった。だからドゥマに愛着があったのよ。あの頃はエレインもドゥマに住んでたしね」

「そっか。エレインもドゥマを卒業したんでしょ?」

「そう」

「結花は…」

 言いかけて由はニヤリと笑った。

「どうしてなんて訊くまでもないか。カイルがいるからだよね、もちろん」

 結花は少し赤くなって口を尖らせた。

「そういうわけでもないよ。だって、私が入学する前にカイルは卒業しちゃうもの。ちょうど入れ違い」

「えっ。…ああ、そうか…。でも、ドゥマだったら簡単に会える…あ、もしかして一緒に暮らすとか?」

「それはちょっと賛成しかねるわね」

 雅代が気難しい顔をしてみせて、ロバートがくすくす笑う。結花はつんと顎を上げた。

「そんなことしません。ルキになるのが目標なんだから、勉強に集中できるようにちゃんと寮に入ります」

「おお〜」

 冷やかしたらじろりと睨まれた。

「日本の大学みたいなのとは違うんだからね。入ったからって皆が皆ルキになれるわけじゃないんだから。がっちり勉強しなきゃ」

「皆がなれるわけじゃないの?」

 ロバートを見上げる。

「そうだね、落第もあるし、脱落する学生も結構いるから、入学した学生のうち、まあ三分の二弱くらいかな、ルキの称号を貰えるのは」

「カッサだと二分の一くらいっていうわね」

 雅代がロバートを見る。

「うん、あそこはやっぱりかなり厳しいからね。実験やプロジェクトもドゥマに比べるとかなり多くて、学生たちはものすごく忙しいんだよ。見ていて大変そうだなあと思ったりもしたけど、でもやっぱりレベルの高い学生たちはね、そんな中でも生き生きと精力的に実験や制作をしていて、実に楽しそうだった」

 にこりと由を見て説明する。

「僕はドゥマを卒業した後、またカッサに戻って二年間研究をしてたんだ。学生達のアドバイザーなんかもしててね。確かにハイレベルだしやらされることが多くて大変だけど、でもカッサもね、とてもいい大学だよ。お薦めだ」

「私もカッサいいなあって思ったんだけど…。でもカッサだと、日本に帰るのがちょっと大変なんだよね」

 結花がため息をついた。

「ドゥマなら、大学からアルバー村まで汽車で一時間弱、で、絵を使って雅代伯母さんのとこに帰れるでしょ。カッサだと、大学からルソの港までバスで一時間弱、そこからウェリスの港まで高速船で三時間半、で、このバス使って、その後ウェリス中央駅からアルバー村まで汽車で三時間弱だもん」

「ああ、そうか…うわ」

 バスが動き出した。汽車よりは少し車体の動きが感じられるけれど、静かなことは同じなので、急に周りの景色が動いてびくっとする。

 座席の半分くらいが埋まっている。平日とはいえ、こちらも夏休みなわけだから、旅行に行くらしい家族連れもいる。

「港は近いの?」

「十五分くらいね」

 海が見えるかとわくわくしていたら、なんだかいつまでもトンネルのようなものが続く。

「地下道?」

 と結花。

「空港のターミナル間を結ぶシャトルトレインとかシャトルバスみたいなものだからね。普通の道を通って事故だのなんだのの影響を受けると困るからでしょ、きっと。だったら発車時刻も厳守してくれればいいのに」

 雅代は昔のことをかなり根に持っているようである。

「ねえ、カッサ魔法高等学校って大学の近くにあるの?」

 ロバートが頷く。

「大学の構内にあるよ。…というか、まああそこは大学が町なのか、町が大学なのか、って感じなんだけどね」

「大きいんだ」

「大きいよ。時間があったら帰りに高等学校にも寄ってみるかい?」

「ほんと!」

「行きたい!」

 由と結花が同時に声を上げる。

「じゃ、そうしようか。アポイントメントなしに学校内に入れるかはちょっとわからないけどね」

「ああ、それに今夏休み中だよね。閉まってるんじゃない?」

「いや、あそこは夏のコースもあるからね。開いてると思うよ」

「…夏休みないの?」

「今はどうか知らないけど、僕たちの時は各自の自由だったね。夏のコースは取っても取らなくてもいい。早く卒業したいならもちろん取るほうがいいけどね」

「…へえ、単位制みたいな感じ?」

「そうだね。科目にもよるけど」

「なんだか大学みたいなのね」結花がふむふむと頷く。「クラスごとに授業、とかそういうんじゃないんだ」

「一応クラスというものはあるし、クラスごとに取る科目もあったけど、今はどうかな。…遠い昔だからなあ」

 ロバートがそれこそ遠い目をして、雅代も頷いた。

「ほんと。高校時代なんて、ついこの間のことのような気がするのに、もううんと昔なのよね」

「人生なんてあっという間だね…」

「ほんとね…」

 しみじみとため息をつく二人。結花と由は顔を見合わせて苦笑した。

 お父さんとお母さんもよく同じようなことを言う。そしてお母さんに至ってはなんと、まだ学生のような気がするのにねえ、なんてびっくりするようなことを真面目な顔をして言ったりするのだ。四十代なのに二十代のような気がするなんてそんな馬鹿なと由と結花が笑うと、お母さんが決まってこう言う。

「二人にも、今にわかる時が来るわよ」

 由は思い出してやれやれと首を振った。二十代と四十代の間には二十年という違いがあるのだ。二年じゃなくて二十年だ。二十歳の人が〇歳の赤ちゃんのような気がするとか、三十歳の人が十歳の小学生のような気がするとか、そんなことありえないじゃないか。まったく、トンチンカンなお母さんらしい。


 バスを降りて、ターミナルの外に出ると、ようやく青い青い海と再会できた。

 気持ちのいい風が髪をなぶる。

 海に向かって駆け出して「ひゃっほう!」と声を上げたいような気分だが、もうコドモじゃないのだ。ぐっと我慢する。同じバスに乗っていた何人かの小さい子たちが、歓声を上げて我先に真っ白な桟橋の方へ走って行くのを、羨ましいような、自分がちょっと大人になったようなくすぐったい気持ちで見送りながら、由は隣で眩しそうに目を細めて晴れた空を見上げているロバートに訊ねた。

「フエンテスさんとは、ここで待ち合わせなんでしょ?会ったことあるの?」

「いや、一度もないんだ。エレインから一応写真はもらってきたけど、でもかなり昔の写真だからね」

 手帳を取り出し、中に挟んであった写真を手渡してくれる。

 由も結花も、目が点になった。

 昔も昔、写っているのは中学生か高校生くらいの三人の子供たちだ。二人の女の子と一人の男の子。

「…こんな昔の写真しかなかったの?」

「そうらしい。これがアリッサで、こっちがジョアンナ、これがダン」

 アリッサはブロンドのロングヘアに、灰緑色の目。そばかすの浮いた人懐こそうな顔で笑っている。ジョアンナは肩までの栗色の髪に黒い瞳。唇の両端をちょっと上げて微笑んでいる。ダンはやはり栗色の髪に茶色の目。生真面目な顔で姉妹の間に立っている。

「ジョアンナがカッサに旅立つ前に撮った写真らしいよ。この一年後に今度はダンがオルセーンに向けて旅立ったわけだけど、その時は写真は撮らなかったのか、アルバムにはなかった。その後ダンは一度も家に帰らなかったそうだから、まあこれが一番新しい写真ということになるんで持ってきたんだけど」

「向こうもロバートの顔知らないんでしょ。紙に大きく名前を書いて持って立ってるほうがいいんじゃない?」

 結花が言う。

「いや、予約した個室の番号は伝えてあるからね。だから、ここで会えなかったとしても、部屋に行けばそこで会えるだろう」

 由は写真の中の三人をじっと眺めていた。

 思い描いていたのと随分違ったので、少し意外だったのだ。特にアリッサとジョアンナが。

 エレインに聞いていた話から、なんとなく、アリッサは優しげで甘えん坊そうな美少女で、ジョアンナは冷たくて意地悪そうな、ついでに言うとあまりかわいくない感じかと思っていた。昔の童話などによくあるように。かわいらしくてみんなに好かれる気立てのいい妹と、それを妬む不細工で意地の悪い姉。

 でも、この写真に写っているアリッサは——ジャンのお母さんにこんな言葉は使いたくはないのだけど——我儘そうな、その上小狡そうにすら見える女の子で、ジョアンナは理知的で誠実そうな美人だ。凛とした感じだけれど、冷たい感じはしない。二人の間に立っているダンは、ジョアンナのように理知的で生真面目そうで、女子にモテそう…というよりは密かに憧れられそうな男子だ。

「なんだか、アリッサだけ違う系統だよね。一人だけお母さん似、とかかな」

 結花ももう一度写真を覗き込んでそう言い、続けて小さい声でつぶやいた。

「女はメイクで変わるってこういうことか…」

 ん?と思って、どういう意味か訊こうとした時、由もああと嘆息した。

 …まるで別人じゃないか。

 リース家の居間には、アリッサとエレインの弟ユアンのウェディングの写真が飾られている。白いドレスを着て優しげに微笑んでいる可憐な金髪の女性と、このそばかすだらけの我儘そうな少女が同一人物だなんて。見慣れた写真だったのに、あんまり違うので、頭の片隅にも思い浮かばなかった。

 まあ、写真というのは一瞬を切り取るものだから、これはたまたまアリッサが我儘そうな表情をしたときに撮れてしまったということなのかもしれないけど…。でもそういえば、あの石を「おねだりして、もらっちゃった」と言っていたんだっけ…。じゃやっぱりこの写真の印象が結構当たってるのか…。

 由はもう一度写真の中のアリッサを見つめた。ジャンと同じ灰緑色の目。

「失礼ですが、リースさんでしょうか」

 涼やかな低い声がして、由は写真から顔を上げた。

 薄いブルーグレイのシャツを着た、背の高い肩幅の広い男の人が立っていた。

 栗色の髪に穏やかな深い茶色の目。

 今写真で見ていた男の子が、いきなり大人になって実世界で自分の目の前に立っている。実に不思議な感じがして、由は思わず目をぱちぱちさせた。

「はい。フエンテスさんですね」

 にこやかに挨拶の握手を交わし、ロバートがこちらを振り返る。

「こちらが友人の大澤雅代、それから彼女の姪の高野結花、甥の高野由です」

 はじめまして、よろしく、と三人とも握手を交わしてから、フエンテス氏は親しげに微笑み、

「ダンと呼んでください。エレインは元気ですか。もう随分会っていないけれど」

「元気にしています。くれぐれもよろしく伝えてほしいと…。高等学校時代のことは本当に申し訳ない、とのことです」

 ロバートが悪戯っぽく笑って言うと、ダンは照れたように、

「いや、僕の方こそ…。さぞ生意気な腹の立つ下級生だったろうと思いますよ。叱られて当然です」

 由たちの方を見て、

「高等部の頃、エレインは生徒会のメンバーでね。僕は不真面目な生徒で、よく悪いことをしているところを見つかっては叱られていたんだ」

「バケツの水を頭からかけたとか…」

 ロバートの言葉にダンはあははと笑い、

「そうそう!絶対禁止と言われていたのに、空き教室の隅で、魔法で火を出して遊んでいたんですよ。友達がその火でセンリの実を炙り出したもんで、匂いでバレたんでしょう。ばしゃーっとやられました。懐かしいな」

 由はくすくす笑ってしまった。エレインらしい。

 談笑しながら、一行は桟橋の向こうのほうに停まっている高速船に向かって歩き出した。バスと同じように真っ白でところどころにブルーのストライプが入っている船だ。

 それぞれの仕事だの研究だのの話をしている大人たちの後ろをついていきながら、結花と由はひそひそと言葉を交わした。

「いい人みたいだね」

「ほんと。砂漠で研究してるなんていうから、探検家みたいなボサボサ頭に無精髭のおじさんが来るのかと思ったら、スマートなインテリって感じだし」

「イケメンだしね」

「ほんと。ね、結婚とかしてないのかな」

 そのワクワクしたような口調に、由は呆れて結花を見た。女って、イケメンならおじさんでもなんでもいいのか。

「…カイルが好きなんじゃなかったの」

 咎めるように言うと、結花は倍も呆れた顔をして由を見返した。

「私じゃないよ。雅代伯母さんとお似合いかなって思ったの」

「ああ…」

 由は、楽しそうに言葉を交わしている二人を見やった。

 …ふむ。なるほど確かにいい感じかもしれない。

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