後日談
なんやかんやとは正にこのこと。
シャーロットはもちろん快く縁談を受け、またそれにサイは喜んだ。
あれから半年。
私とサイは有名なおしどりカップルとして名を馳せていた。
「シャーロット、お茶にしようか。」
放課後、特にやることもない日は図書館で勉強かお茶会というのがもっぱらのデート。
「ええ、行きましょう。」
そう言って私たちは、裏庭に飛び出す。
もちろんメイドにお茶の用意を手配して。
「ねぇ、サイ。」
「ん?どうしたの。」
紅茶を一口含んでカップを置いた。
私の聞きたいことを知ってか知らずかサイはウキウキとした様子だ。私は兼ねてから聞きたかったことを聞いた。
「ねぇ、サイは…ローズ・スミスが気になってた時期があるの…?」
そう、それは最初のパーティの後やたらとサイが気にしていた女の子のこと。
直接話したことはないがクラスが同じなため名前と顔は知っていた。
「ふふ、シャーロット、彼女はね。違うんだよ。」
少し笑ってから嬉しそうにそう語るサイはカゴにあったクッキーを一口かじった。
「彼女はね…兄の想い人なんだよ。」
「え、ぇえ!?」
驚いた。私と同じ年のローズのことをサイのお兄さんが…好き、だなんて…。驚くのも無理はない何故なら彼は私たちよりも20歳ほど離れている。
サイとは母親違いのお兄さんだった。それは知っている。事情が事情なだけに、というのと年齢的にあまり同じ家で同じ時間を過ごすこともなかったらしく、しょっちゅう出入りしていたシャーロットでさえ見かける程度の人だった。
まぁ、お兄さんのお母様はお兄さんが幼いうちに死別し、その後に来たのがサイのお母様、尚且つ年の離れた兄弟という事もあり揉めるようなこともなかったと聞いている。
「お兄さんの…想い人…」
ぽかん、とするシャーロットの口に食べかけのクッキーを入れてくるサイ。
抵抗することなくもぐもぐと受け入れれば楽しそうな顔をさらに綻ばせた。
「それもね、ただの想い人じゃないんだ。」
「…?」
もぐもぐと食べ続ける私にサイは得意げに話した。
「彼女は将来僕の姉となる人なんだよ。」
「!!」
「まだだけどね。今は知り合いくらいにはなっているし、口説いてるように見えたかもしれないけど、協力してただけなんだ。」
そうだったのか、と合点が行くと同時に私の勘違いはなんだったのかと少し落ち込んだ。
ようやく飲み込んだクッキーをさらに流し込むのに紅茶を一口。
そんな私を見てサイが「あ、そうだ…」と今度は妙に色っぽく笑った。
「ヤキモチ、焼いてくれてたのも知ってたよ?」
紅茶を吹くかと思った。
え、何見たの…?
何故、とは言わずともわかるけど、それにしてもどこの時点でばれたのか…。
聞くのも恥ずかしすぎてワナワナと震えた。
「まぁ、本当はね。僕もヤキモチ焼いてたんだよ?君にはいつもジャック君がいたからね。」
ホント彼は邪魔だったよ、と言ったサイはなんだか黒かった。
「でも、君に下手に近付こうとするとね、やっぱり“消えて”しまう未来ばかりが見えてしまって…迂闊に近づけなかった。」
「…すみません、」
「僕の見つけた女の子なのに…」
最近のサイはしょっちゅうこのフレーズを使う。なんでも私の幼い頃のことを指しているらしい。
サイの話によると私には昔何人かの友達は居たらしいのだが、サイがそれを遮ってしまったのだとか…。
理由は“私と二人で居たいから”らしかった。
サイの初恋話は私の覚えのない内容ばかりで聞いたはいいものの、ホントに申し訳ない。
例えば、私がサイの大切にしていたパジャマを唯一褒めてくれた人、とか(私もタオル派だったからじゃない?)
両親に叱られた時に私が私の屋敷に連れ込んで家出の手伝いまがいなお泊りさせたり…(これは大騒ぎになったらしい)
当時友達のいなかったサイの誕生日に手作りのマフィンを持って行ったとか…(嬉しくて泣いたらしい)
ごめん、全部身に覚えがない、とは言えなかった。幼い頃の破天荒なんてみんなあるでしょ、ね。というか小さい頃に関しては、一緒に居た期間が長すぎて最初の頃とかホントに覚えてない。
(でも、嬉しいな…)
覚えててくれたのか、と思うとなんだかくすぐったい。
しかし、能力のことはなんだかんだで言ってない。今言ってしまうのはまだ怖い。
でもいつかは言える日が来ると私は思っている。
こうしてなんてことのない日々を、それこそずっと続けられるかはまだわからない。
大好きなサイが私を見てくれる。
心がぽっと温かくなる瞬間が私は好きだ。
これから、また何度となく転機は訪れると思う。
でも恐らく、私はもう能力を使うことはしないだろう。
読んでいただきありがとうございます。
面倒な追っかけっこ。
やり直しにつぐやり直し。そんな人生疲れるでしょうね。
でもあの時の恋、今なら上手くやれるのにとかは思わなくもないです。
どうせやり直しても選択肢がね、増えるだけかも知れないし、よほど叶えたかった恋じゃないと黒歴史になって後悔するかもしれませんし、人生って難しいなぁ。
ホントにここまで読んでいただきありがとうございました。