表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私の羽化する日  作者: 月影 咲良
13/61

ダンスダンスダンス♪

 私は広くなった床を有効利用して、毎日ダンスをすることにした。

 楽しく踊ってダイエットになるとか最高じゃない?

 これなら雨の日とか関係なく毎日続けられるし、本当に我ながら良い考えだ。


 私はイヤホンを自分とスマホにセットすると、早速音楽をかけた。

 かける曲は本当に適当だ。

 振り付けも適当。ハワイアンもどき、ワルツもどき、ベリーダンスもどき、今時のダンスもどき....。

 どきどき二の腕を振って自前の振り袖を揺らすのも忘れない。燃えろ燃えろ....



 その後、4曲を踊ったところで今日の運動を終了にした私は、確かな手応えを感じていた。

 これは....良いかもしれない。

 何よりも楽しいのがいい。

 これなら毎日続けられるんじゃないだろうか。

 明るい未来に心が踊った。




 そうして踊り始めてから1ヵ月がたった。


 私は今日も仕事から帰り、どさぁっと床に寝転がる。そしてそのままフリーズ。

 私はすでにだれていた。


 面倒くさい....。もう、何も考えずに寝ちゃいたい。

 だいたい、ただでさえ朝から深夜まで働いてて自分の時間なんて無いのに、ダンスにまで時間割いたら私、何のために日々生きてるのか分からなくなりそう。

そうだ。踊る時間があったら私は本を読みたい。寝っころがって、眠りに落ちるその一瞬前まで本を読んでいたい。

 そうだ、そもそも雨の日も毎日できる環境というのがよろしくない。なぜなら休むタイミングが分からないからだ。毎日できたら、毎日やらなきゃならない。息抜きができない。たまにはオフの日も必要だろうに、休んでも怠けた感じがして気が休まらないのだ。たまにはゆっくり休みたい!休んだって良いじゃない!


 心のなかで「そうたそうだ!やめちまえ!」という呪いの声が聞こえる。

 うん、こんな事考えてダラダラしてる間に2時になるわ。もう今日は寝ちゃおう。


 でも....


 悪魔に魂を売る一瞬前に、思いとどまる。


 ここ1ヵ月、ほぼ続けてきた。

 やめたら今日はアレができない。

 だいぶん良い感じになってきるのに....

 でも、やりたくない....


 頑張りたい自分と頑張れない自分が葛藤する。

 やりたくない。でもここでやめたら後悔する。

 でもやりたくない。それはそれは、やりたくない。

 どうする?

 どうする?

 答えがでない....


 そこでふっと、折衷案が浮かんだ。


 じゃあ、とりあえず音楽だけ聴こうよ。

 それで、やっぱりやりたくなかったら今日は寝る。

 やりたくなったら、やる。

 どう?


 自分の心に問いかけると、やりたくない私の気持ちにもとくに抵抗がなかった。

 あたりまえだ、おそらくやらないので、その時の言い訳になると考えているからだ。


 私はイヤホンを着けると、ランダムで音楽を流した。



 結果として、その日私は4曲分を踊り倒した。4曲が終わった頃には、もっと踊りたいと思う程だった。

 考えてみれば当たり前だ。だって、スマホにある曲は全部、最新チャートとか全く興味のない私が集めた、何処かで聴いて琴線に触れたものばかりなのだから。

 しかもこの頃はダンスのために、踊れそうな曲を増やしていた。テレビで見た、歌と一緒にダンサーが踊っている曲とか、ワルツ調のものとかだ。

 もう、踊るしかない。


 しかし、いくら興がのってきたといえ、明日も仕事だ。あまり遅くまでテンションを上げているのはよろしくない。

「今日のところは、この位で勘弁してやるぜ。」

 私はいつもの捨てぜりふを勝利の歓びと共に吐くと、イヤホンを外して手帳をとりだす。

 今月のマンスリーページを開くと、そこには昨日の所までほぼ草模様のマスキングテープが貼られており、その上に可愛らしい動物たちのシールが貼ってある。


 やっっっっばい、可愛いぃ~~!!


 私は草模様のマスキングテープをとりだし、今日のところにペタッと貼る。


 動物シールは今日はどれにしようかなぁ~。

 よし、アルパカさんにしよう!

 嗚呼....!なんて良いカンジなんだ!!

 だいぶん牧場ができ上がっている。この調子で今月ぜーんぶ埋めたいなぁ!


 手帳を眺めながら、頬がニマニマしてしまう。

 じつはダンスを始めたとき、私は自分がどのくらい続けたか、もしくは怠けてから何日たったかが分かるようにと、手帳にシールを貼ることにしていた。

 そして、貼るシールを選ぶときに、できれば全部貼ったら絵が完成するといいなぁ、と思って牧場になるようにシールとマスキングテープを買ったのだ。これは子供の頃母に与えられていた学習教材の真似だ。学習教材は結局やらなかったけれど....。



 良かった、今日は頑張ってダンスして。

 何より、自分を誉めてあげられるのが嬉しい。

 続けられている事が嬉しい。

 できればそろそろ体重が減ってくれれば良いのだが、夜の買い食いは何だかんだやめられていないので、増えていないだけでも今は良しにしよう。

 本当は結果が欲しい。早く欲しい....。


 まどろみの中でそう考えながら、しかし長時間の肉体労働に耐えている体は「不眠」とは無縁に私を眠りの底に誘うのだった。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ