ダンスダンスダンス♪
私は広くなった床を有効利用して、毎日ダンスをすることにした。
楽しく踊ってダイエットになるとか最高じゃない?
これなら雨の日とか関係なく毎日続けられるし、本当に我ながら良い考えだ。
私はイヤホンを自分とスマホにセットすると、早速音楽をかけた。
かける曲は本当に適当だ。
振り付けも適当。ハワイアンもどき、ワルツもどき、ベリーダンスもどき、今時のダンスもどき....。
どきどき二の腕を振って自前の振り袖を揺らすのも忘れない。燃えろ燃えろ....
その後、4曲を踊ったところで今日の運動を終了にした私は、確かな手応えを感じていた。
これは....良いかもしれない。
何よりも楽しいのがいい。
これなら毎日続けられるんじゃないだろうか。
明るい未来に心が踊った。
そうして踊り始めてから1ヵ月がたった。
私は今日も仕事から帰り、どさぁっと床に寝転がる。そしてそのままフリーズ。
私はすでにだれていた。
面倒くさい....。もう、何も考えずに寝ちゃいたい。
だいたい、ただでさえ朝から深夜まで働いてて自分の時間なんて無いのに、ダンスにまで時間割いたら私、何のために日々生きてるのか分からなくなりそう。
そうだ。踊る時間があったら私は本を読みたい。寝っころがって、眠りに落ちるその一瞬前まで本を読んでいたい。
そうだ、そもそも雨の日も毎日できる環境というのがよろしくない。なぜなら休むタイミングが分からないからだ。毎日できたら、毎日やらなきゃならない。息抜きができない。たまにはオフの日も必要だろうに、休んでも怠けた感じがして気が休まらないのだ。たまにはゆっくり休みたい!休んだって良いじゃない!
心のなかで「そうたそうだ!やめちまえ!」という呪いの声が聞こえる。
うん、こんな事考えてダラダラしてる間に2時になるわ。もう今日は寝ちゃおう。
でも....
悪魔に魂を売る一瞬前に、思いとどまる。
ここ1ヵ月、ほぼ続けてきた。
やめたら今日はアレができない。
だいぶん良い感じになってきるのに....
でも、やりたくない....
頑張りたい自分と頑張れない自分が葛藤する。
やりたくない。でもここでやめたら後悔する。
でもやりたくない。それはそれは、やりたくない。
どうする?
どうする?
答えがでない....
そこでふっと、折衷案が浮かんだ。
じゃあ、とりあえず音楽だけ聴こうよ。
それで、やっぱりやりたくなかったら今日は寝る。
やりたくなったら、やる。
どう?
自分の心に問いかけると、やりたくない私の気持ちにもとくに抵抗がなかった。
あたりまえだ、おそらくやらないので、その時の言い訳になると考えているからだ。
私はイヤホンを着けると、ランダムで音楽を流した。
結果として、その日私は4曲分を踊り倒した。4曲が終わった頃には、もっと踊りたいと思う程だった。
考えてみれば当たり前だ。だって、スマホにある曲は全部、最新チャートとか全く興味のない私が集めた、何処かで聴いて琴線に触れたものばかりなのだから。
しかもこの頃はダンスのために、踊れそうな曲を増やしていた。テレビで見た、歌と一緒にダンサーが踊っている曲とか、ワルツ調のものとかだ。
もう、踊るしかない。
しかし、いくら興がのってきたといえ、明日も仕事だ。あまり遅くまでテンションを上げているのはよろしくない。
「今日のところは、この位で勘弁してやるぜ。」
私はいつもの捨てぜりふを勝利の歓びと共に吐くと、イヤホンを外して手帳をとりだす。
今月のマンスリーページを開くと、そこには昨日の所までほぼ草模様のマスキングテープが貼られており、その上に可愛らしい動物たちのシールが貼ってある。
やっっっっばい、可愛いぃ~~!!
私は草模様のマスキングテープをとりだし、今日のところにペタッと貼る。
動物シールは今日はどれにしようかなぁ~。
よし、アルパカさんにしよう!
嗚呼....!なんて良いカンジなんだ!!
だいぶん牧場ができ上がっている。この調子で今月ぜーんぶ埋めたいなぁ!
手帳を眺めながら、頬がニマニマしてしまう。
じつはダンスを始めたとき、私は自分がどのくらい続けたか、もしくは怠けてから何日たったかが分かるようにと、手帳にシールを貼ることにしていた。
そして、貼るシールを選ぶときに、できれば全部貼ったら絵が完成するといいなぁ、と思って牧場になるようにシールとマスキングテープを買ったのだ。これは子供の頃母に与えられていた学習教材の真似だ。学習教材は結局やらなかったけれど....。
良かった、今日は頑張ってダンスして。
何より、自分を誉めてあげられるのが嬉しい。
続けられている事が嬉しい。
できればそろそろ体重が減ってくれれば良いのだが、夜の買い食いは何だかんだやめられていないので、増えていないだけでも今は良しにしよう。
本当は結果が欲しい。早く欲しい....。
まどろみの中でそう考えながら、しかし長時間の肉体労働に耐えている体は「不眠」とは無縁に私を眠りの底に誘うのだった。