迎撃
奇妙な光景だ、とジンは思う。
空から降り注ぐ光を騎士だけではなく暗殺者達まで一緒になって迎撃している光景はかなり異常だ。
「っせい!」
そんなことを思いながら自身も光を剣で吹き飛ばす。
「くそっ! 姫はどこだ!?」
「上だ! 姫は飛行魔法を使ってるぞ!!」
騎士達の声に反応して上を向く。そこには光の波しか見えず、人の姿はない。
「アレン! サクラ姫があそこにいるのですか!?」
「あぁそうだ! だが迎撃に集中せねば街に被害が出るぞ!『龍滅』!!」
アレンが右手を前に突き出すと、そこから龍の形をした魔力が放たれ光の一部をごっそり削り取る。
その時に光の向こう側が見えた。ビクビクと体を震わせ、怯える姫の姿が。
その姿は、『彼女』によく似ていた。
「……術式解放!」
ジンが剣を掲げて叫ぶと、剣を中心に雷光が走り、魔法陣が構築される。
「世界を構成する四つの偉大なる力よ! 世界を満たす冷徹なる刃を我が前に示せ!!」
轟ッ! と周りの『空気』が魔法陣に吸収されていく
アレンが慌ててジンを止めに入る。
「おいバカ! 良く分からんがそんな魔法使って姫に何かあったら!?」
ジンはアレンを無視して、魔法を起動させる言葉を力強く叫ぶ。
「『風突剣』!」
魔法陣から巨大な突風を纏った剣が現れた。
風は光を吹き飛ばし、巨大な剣はサクラ姫の目の前で止まる。サクラ姫は今にも気絶するんじゃないのかという顔をしていた。
「姫さまー!」
騎士達が叫ぶとようやくサクラ姫は気づいたのか、満面の笑みを浮かべて下に降りてくる。
アレンがサクラ姫の近くへ走っていく。そこでジンはふと暗殺者たちの方を見た。
暗殺者達はひーひー言いながら倒れている。皆黒い服を着て、手には短剣や長剣などの武器を持っていて、杖を持つ男など一人もいなかった。
「っアレン!」
まだ終わってない、と言う前に変化が現れた。
サクラ姫の背にあった翼が、消えさった。
「……え」
サクラ姫が驚きの声を上げるのを合図に重力に従って落下を始める。
「姫!? くそ!」
「『重力変化』!」
アレンが悪態をついてる間に一人の騎士が魔法を使った。その騎士が突き出した右手が紫の光を纏い、消えた。
魔法が不発したのだ。
「なっ!?」
「姫!!」
アレンが落ちるサクラ姫の元へ走ろうとしたその直後、ジンは全力で走り出していた。
幾つかの屋根を飛び跳ねて行くが、明らかに間に合わない。
「『重力変化』!」
走りながら右手を突き出して叫ぶ。
右手から放たれた紫の光がサクラ姫を包み込み、重力の方向を変え、サクラ姫はジンの方へ落ちてくる。
ジンはサクラ姫を抱きとめ、安堵の息を吐く。
「サクラ姫、大丈夫ですか?」
「…………」
返事がない、気絶してるようだ。
「おいジン! 姫は大丈夫か!?」
遠くからアレンの声が聞こえてきた。ジンは叫ぶ。
「大丈夫です! 目立った外傷もありません‼︎」
そのままサクラ姫を抱きかかえアレンの元へ行く。
アレンがサクラ姫を受け取り、頭を下げてくる。
「ジン、今回は本当に助かった。このお礼は必ず」
「いえ、お気になさらず。お礼なんていり……」
ジンがふと思い出したように明後日の方に向き、呟く。
「……やっぱり少しいいですか?」
「なんだ? 俺に出来るならなんでも言ってくれ」
ジンはアレンの方に向き直り、苦笑いしながら言う。
「……多分宿が消えたので、何処か寝る場所を提供してください」
ジンの視線の先では、燃えている宿をカンナが必死に水魔法で消火していた。
次の日、この国の情報誌にこんなことが載った。
『真夜中に火柱! 何らかのテロか!?』