早朝にて
カンナは朝日に当てられて目が覚めた。
カンナがいる部屋はとても広く、とても煌びやかだ。
それもこのはず、ここは姫の部屋だ。
すぐ近くには一般人は手に取れないくらい高価な本が積まれていて、本を持ったまま寝たサクラの姿もある。
あの後、事情は知らないが城に泊まることになり、サクラがカンナに色々なことを教えてくれたのだ。
記憶では二人で英雄の話を読んでいたはずだが、そのまま寝てしまったらしい。
ちなみに今のカンナはローブを外し、ジン達の一団の制服である黒と白を基調としたロングスカートの服を着ている。
カンナはローブを身につけサクラを起こさないように静かに部屋を出る。
今いるのは城の三階の北西側の塔だ。
長い廊下を歩く。目的は外の空気を吸いたいだけだ。
暫く歩くとテラスがあったのでそこに行く。
「……ふー」
テラスで一息つき、周りに人がいないのを確認してフードを外す。
そこでカンナはテラスから見える景色に意識を向けて、気づいた。
テラスからは城の中庭が見えた。数本の木や大きな花畑がある中庭の中心で、ジンと騎士が戦っているのが見えた。
気になったカンナは一階に降りる階段を探そうとして、せっかくだから新しい魔法を使おうと思い直す。
「『飛翔』」
カンナの背中から白い翼が生え、飛行する力をカンナに与えた。
三階から飛び降り、滑空するのに近い形で飛ぶ。時々翼を羽ばたかせて高度を調整しながらジンの近くに降り立つ。
ジンは変わらずにこやかな顔をしているが、強面の騎士は珍しい物を見たと言いたげな顔をしている。
「ジンさん、おはようございます」
「おはようございますカンナ」
「そこの騎士の方も、おはようございます」
「お、おはよう。……この歳で姫以外に飛行魔法を使える者がいるとはな」
最後のは独り言のつもりなのだろうがカンナの耳にもしっかり届いた。
「サクラ、姫に教わりました」
危うくサクラと呼び捨てにしてしまいそうになったのを堪える。本人の許可があっても流石に二人きり以外で国の姫を呼び捨てにする勇気はない。
ところが騎士は真面目な顔で言う。
「姫が認めたならサクラと呼び捨てにしてもらっても構わん。むしろそうしてもらえないか?」
「か、構いませんが……」
「ありがとう。……しかし教えてもらっただと? まさか一日で覚えたのか?」
「は、はい」
途端に騎士の目つきが変わる。
別に性的にとかではなく、もっと単純にこう、こいつを仲間に入れたい的な感情が篭っていた。
そこに、ジンがカンナと騎士の間に割り込む。
「駄目ですよアレン。カンナは大切な仲間ですから」
「俺はまだ何も言ってはない」
アレンと呼ばれた騎士は苦い顔をしているが、やはりその眼はカンナを見ていた。
(あぁ、この人私を勧誘する気満々だ)
「というかアレン、まだ試合は途中だった気がするのですが」
「む、すっかり忘れていたな。続きを始めようか」
「カンナさん、危険ですので下がってください」
危険と言ってもまだジンとカンナは剣を振り回してもまったく当たらない位置にいるのだが、ここは素直に従って離れておく。
アレンは騎士剣を両手に持ち、剣先をジンに向けている。
対してジンは構えを取らずに剣先は地面に向いていて完全に脱力している。
「では、いくぞ!」
アレンの掛け声と共にアレンはジンの目の前に迫っていた。
「せあっ!」
ゴッ! と放たれた斬撃を、ジンは身体を少しだけ動かして紙一重のところで避ける。
そのままアレンの腕を掴み、勢いよく地面に叩きつける。
「ふんっ!」
アレンは投げのダメージがなかったかのようにすぐさま起き上がり、ジンの腹に回し蹴りを叩き込んだ。よろめいた所に上段切りを放つ。
ジンは斬撃を剣で受け止め一瞬だけ押し返し、すぐさま剣を手放してアレンの顔面を平手で叩く。
アレンが仰け反った所でジンは剣を拾い上げ、鎧に向かって全力で水平に斬りつける。
ギィン! と金属の音と共にアレンが勢いに負けて転び、ジンはその顔のすぐ横に剣を突き刺す。
「私の勝ち、でよろしいですね?」
「……ええいお前突然本気になりすぎだ」
「格好悪い所を見せるわけにはいきませんので」
ジンの手を借りてアレンが起き上がる。すると二人が一番に目に入ったのはポカーンとしたカンナの姿だ。
「カンナ、どうしたんですか?」
「……しょ、将軍を倒しちゃった」
「はい? ああこれはですね……」
「国一番の実力者と言われる将軍を! ていうかジンさんそんなに強かったんですか!?」
何やら興奮気味のカンナにジンが答える。
「いや、アレンは手加減をしてますからね?」
「へ?」
「ここの騎士達は皆普通に戦えばとんでもない被害を出しますからね。普段は体に結界を施して力を抑えてるんですよ。……姫を抑えるのに全員が封印を解除して本気になったのは本気で驚きましたが」
その言葉に対して、アレンは苦い顔をしてジンに言う。
「……一応言っておくと、封印した状態でも普通俺が負けないからな? ジン、お前本気で入団しないか?」
「お断りします。今の生活がとても気に入っていますので」
「な、なんか私一人テンション上がってましたね。恥ずかしい」
あははと年頃らしく可愛らしい顔で軽く笑うカンナを見てアレンは言う。
「……そこのお嬢さん、急に感じが変わってないか?」
「!」
「アレン! 黙っててくださいよそこは!!」
ジンが再びカンナの顔を見た時にはいつもの顔のカンナがいた。
はぁ、と溜息を吐きながらジンはアレンを睨みつける。
「アレン、貴方が言わなければもう少し珍しい物を見れたというのに」
「お、おお。よく分からんがすまない」
再度ジンが溜息を吐くのと同時に朝が来たことを告げる鐘の音が鳴り響いた。
「そろそろ朝食もできた頃合いだろう」
「カンナ、サクラ姫を起きしてもらえますか?」
「わかりました」
ぺこりと会釈してからカンナは歩き出し、階段を探すのが面倒だったのか翼を生やして三階に飛んで行った。
アレンがこんなことを言った。
「お前ら全員騎士団に来てれればいいのに。そしたら魔人だって怖くないのにな」
ジンは笑いながら、それでいてハッキリと拒否する。
「我々は仲間のために戦えても、国や世界のために戦えませんよ」




