怪物との戦い
空を飛び回る異形の怪物を炎の刃や氷の槍で次々と撃ち抜いていく。
だが、それでも怪物は空を飛び回り、魔法を撃った者に向けて炎を吐く。
「逃げろ逃げろ!」
カイトは炎から逃れるべく走り出す。その際に矢を放ったりするのだが、怪物の皮膚に傷一つ付かない。
怪物がカイトを直接切り裂くために地上近くに降りてくる。その直後、
「――今だ!」
カイトの声と共に何人もの人影が現れる。影は怪物の真上へと飛び乗り、至近距離から武器や魔法を叩き込む。
呻き声と共に怪物が地面に落ち、そこをカイトたちが追撃する。
翼を傷つけ飛べなくさせ、爪を砕き、歯を折り、その命を刈り取るのには十分の時間がかかった。
「カイト! このままじゃ間に合わないよ!」
「わーてるよくそ! 一体にこんな時間かけてちゃしょうがねえぞ!」
そうこうしている間も、何体もの怪物が空を駆ける。その数は十を軽く超えていた。
「カンナたちはどうしてる?」
「姫さんと一緒にやってるよ。結界張りながら戦うなんて器用なことするねぇ」
「……はぁ。ガキに頑張らせるなんてな」
ため息をつきながらカイトは魔法で鎖を生み出し、空にいる怪物にに向けて放つ。怪物を縛り、力任せに引っ張って地上へと落とす。
「翼をもげ! 後はそこら辺の瓦礫で身動き取れなくしてやる!」
地面に倒れた所を数で叩き、翼をボロボロにする。そこに魔法の鎖や壊れた建物の瓦礫で動きを封じる。
「次! さっさとしねえと被害がどんどん出るぞ!」
カイトの声と共にジンの仲間たちが動き出す。その直前だった。
「アマテラス」
男の声が響き、空の怪物が光によって焼き尽くされた。怪物は肉片の代わりと言わんばかりに灰を撒き散らす。
声のした方へと振り向くと、一人の男が全長六メートルはありそうな異様な剣を持って立っていた。
「お前は確か、ソロだったか?」
「…………」
ソロはカイトの台詞がまるで聞こえていないかのように無視する。その視線は、空に固定されている。
「確かここに来て城に入る前までは一緒だったよな? その後何してたんだ?」
「…………」
カイトの問いにピクリと反応し、ソロはカイトから顔を背ける。
「……ごに」
「え?」
「……迷子になってました」
「…………は?」
「自分がここに来れたのも、変な女性が連れてきてくれたからです」
変な女性、でラーシャの顔が浮かんだカイトたち。一度しか会ってないのに、何故か妙に印象に残っていた。
色々と突っ込みたいところはあるが、一先ず置いておくことにする。
「空の怪物、叩き落としてきます」
ソロはそれだけを言い、――直後にその姿が消えた。
空で轟音が鳴り響く。見上げれば、ソロが一瞬で空高く跳び上がり六体近くの怪物と激突したところだった。
たった一人で大暴れするソロを見ながらカイトは呟く。
「……頼もしいこって」
「どうする? 加勢する?」
「いや、ここは任せよう。姫さんたちの所に行くぞ。壁役が必要だろ」
カイトたちが移動するのを空中で見届けたソロ。彼はその長大すぎる剣を掴み直し、再び呟く。
「……アマテラス」
莫大な光が剣を中心に発生し、辺り一体を白で埋め尽くした。
「雷電!」
「獄炎!」
雷が怪物の動きを止め、炎が怪物を燃やした。怪物は少しの間苦しそうにもがき、やがて動きを止める。
「……今ので何体?」
「……十三」
カンナとサクラの周りには、焼き殺された、もしくは串刺しとなった怪物たちが転がっていた。そんな死体を見て怒りでも感じてるのか、怪物たちが雄叫びを上げる。
空を飛びこちらを見てくる怪物たちの数は多い。視界にいるだけでも八体。雄叫びが他からも聞こえてくるので、実際はもっといるだろう。
「……サクラ、まだいける?」
「……今見えてる分だけなら」
つまり、八体が限界。その事実にカンナは心がやられそうになるが、助けが来ることを信じて心を保たせる。
カンナは深呼吸をして呼吸を整え、気持ちを落ち着かせる。怪物に意識を向けながらサクラに声をかける。
「きっと助けが来てくれるから、頑張ろ――」
「カンナ!」
その直後に、怪物の一体がカンナ目がけて飛んできた。それに合わせるように、七体全ての怪物も攻撃を仕掛けてくる。
魔力のみを使った、呪文を必要としない即席の結界を作り上げ、攻撃を逸らす。返す刀で魔法を放つ。
「ミズハ……」
「おおおお!」
その魔法に割り込むように、男が間に入ってきた。カンナには捉えることすらできない速度で剣を振るい、怪物を吹き飛ばす。
「姫! ご無事でしたか!」
「アレン!」
アレンは剣を構え、怪物たちを睨みつけながらサクラの前に立つ。
「もう大丈夫です。ここから先はお任せください」
「アレン、貴方そんなボロボロなのに……」
アレンは鎧を着てなく、その体はボロボロだった。着ていた服で傷口を縛り、手が動かないのか無理やり布で縛って剣を持っている。とても戦えるようには見えない。
だがそれでも、アレンはそんな傷を気にせずに笑みすら浮かべて言う。
「心配いりません。この程度の相手には、ちょうどいい相手ですから」
そう言うや否や、アレンの体を魔力が纏う。それらはアレンの体を支え、戦う力を与えた。
「……さあ、第二の剣アレン。征く!」




