慈悲なき一撃
アレンがサクラたちを護りながら戦っている時。
「出ろ、カナヤマビコ。剣を作り、忌まわしき獣共を切り裂け」
ジンの言葉と共に、何十本もの剣が作り出された。それらは空中を飛んでいき、空を飛ぶ怪物たちを切り裂いていく。
一度に十数体倒したが、それでも怪物たちの数が減る気配はない。
「……どこかに魔界に通じる穴が空いてて、そこから来てるのでしょうか」
空を飛び交う怪物からは、ヴァージリアと同じものを感じた。
つまりは偽物。幻惑魔法を使い、それっぽいものを作り上げているだけか。それでも、普通の幻惑と違って実体を持っているのだが。
厄介な、と呟きながらも怪物たちを次々と叩き落としていく。その途中、ふらりとその体が揺れる。
「っとと」
体勢を立て直し、剣を作り出しながら呟く。
「……マズイですね。そろそろキツくなってきましたか」
そう言いながらも手は休めない。むしろ攻めはより苛烈なものとなり、怪物たちを次々と切り裂いていく。
「早くこの怪物たちをどうにかしなければいけませんね。いっそアマテラスで全部焼き尽くすか……」
そうやって悩んでいるジンが周りに視線をやると、ある事に気づいた。
空を飛ぶ怪物たち。それらは人間を無差別に襲うのではなく、決まった人間しか襲おうとしていなかった。
例えば、一般人たちは怪物たちに追いかけられ続けているが、ジンには怪物たちは目もくれない。まるで意識に入っていないかのように、ジンを無視して飛んでいるのだ。
「……何かしらの判断要素がある? 怪物たちが自動で判断しているのか、それとも誰かが操っているのか」
ほんの数秒悩むように目を閉じ、ジンは怪物たちが飛んでくる方向へと走り出す。
「まあ、一先ず私は発生源を探しに行きますか。怪物が何を基準に人を襲ってるのかは分かりませんが、どうせやることは変わりませんからね」
呟き、剣を構え、魔力を込める。
「――千の刃よ、一振りの剣となりて力を現せ」
轟音が鳴り響いた。
ジンの振り下ろした剣が大地を割り、怪物たちを吹き飛ばす。
「お姉ちゃん早く!」
「分かってるわよ! ……もうこんな所にまで」
ヤイバとユウキは怪物たちの視界から隠れるようにしながら移動をしていた。
目指すは結界の外側。怪物たちのいない場所だ。
最初はユウキたちも避難誘導に従っていたのだ。だがその途中で怪物の一体に分断されてしまい、怪物から逃げているうちにいつの間にか知らない所にいた。
今は怪物たちに見つからないようにしながら少しずつ逃げている時だ。怪物たちは視界にさえ入らなければこちらを襲ってこないらしく、割と簡単に逃げることができていた。
(ただしそれはあくまで障害物がある間は、か。もし、どうしようもない時があったら……)
ユウキの視線が右手へと向く。そこには武器屋に陳列されていたであろう剣があった。勝手に持ち出したことに罪悪感は感じるが、今は非常事態だ。後でちゃんとお金を払うことを心に誓って持ってきていた。
(こんなのあったって私が戦えるとは思えないけど、せめてこの子だけは……)
「大丈夫だよお姉ちゃん」
突然、ヤイバがそんなことを言った。
ヤイバの顔は何時もと変わらない、明るい笑顔そのものだった。
「僕がお姉ちゃんを護るからさ。だから大丈夫だよ」
ただし、その体は震えていた。空を飛ぶ怪物に恐怖しながら、それでも姉を安心させようと、ヤイバは言葉を絞り出していた。
ユウキはそんなヤイバを愛おしく思いながら、その頭を叩く。
「お馬鹿。あんたじゃあ食べられるのがオチよ」
「そ、そんなことないよ! 僕だって本気出せば闘えるんだからねほんとだよ!」
「はいは……」
ユウキの視線が持ち上がる。空を飛ぶ怪物たちの方へと。
そのうちの一体が、地上を見下ろしていた。
その一体と、目が合った。
合ってしまった。
「っヤイバ!」
咄嗟にヤイバの体を突き飛ばす。直後、背中に鋭い痛みが走り、ユウキの体が浮き上がった。見れば、怪物に噛みつかれ、そのまま空中へと連れて行かれていた。
痛みで剣を落とし、声にならない悲鳴を漏らす。痛みで意識が掻き乱され、視界が歪んだ。
「お姉ちゃん!」
「逃げ……て」
背中の痛みを堪え、肺から来る血だまりを吐き出し、ユウキはなんとか声を絞り出す。
「逃げな……さい、ユウキ」
「嫌だ! やだやだやだやだ!」
駄々をこねるように叫び、ヤイバは地面に落ちていた物、即ち剣を拾い上げた。
「放せ、お姉ちゃんを放せ!」
「やめな、さい! ヤイバ……!」
小さな子供が、剣を持って怪物へと向かった。
その行動は、勇気あるものではなく、無謀と呼ばれるものだった。
怪物の尻尾が無慈悲に振られた。
それだけで地面を抉り取る威力を持った一撃を、ヤイバを襲う。




