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語られない伝説・No.6

 悪夢だ。と、老人は思った。

 彼の名はアルゴン・ドレットリート。シルスベールの王だ。

 アルゴンはシルスベールの特産品の一つであるぶどう酒を口にする。が、味が全くない。どうやら味覚が壊れるほどストレスを感じているようだ。

 アルゴンがぶどう酒を飲んでいる間も、扉の向こうからとんでもない音が響いてきていた。

 一人。たったの一人に、全ての兵士達が薙ぎ倒されていた。まるで意味が解らない。

(傭兵と、ラルバディアの王族。……なぜだ、なぜ私がこんな目に合わねばならん! 私は、自分の国を良くするために頑張ってきた! その私が! このような仕打ちをなぜ受けねばならん!!)

 そう思っている彼は、徴兵に従わなかった国民の全てを奪い取った。

(くそ、くそ! 何のためにラルバディアの侍女達を買収したと思ってるんだ! ナスタ姫一人では何もしないと踏んでいたのに! これじゃあ『約束』が……)

 バンッ! と扉が勢いよく開かれた。

 現れたのは、ナスタ姫と一人の傭兵。そしてその後ろには倒れた兵士達。

「どうもどうも。ご機嫌は如何なものかなシルスベールの王(笑)よ」

「誰が(笑)だ! 不敬罪で首を跳ね飛ばすぞ!!」

「はっはっは。この俺ジャックを殺したいならもっと強い兵士を出せよ。あの程度じゃあ百万人来ても余裕だっつーの」

 ジャックと名乗った傭兵はケラケラと笑う。その顔に疲労感はなく、怪我も一切ない。

 ナスタが一歩前に出る。その顔は、一般人と何ら変わりないものだった。

「アルゴン・ドレットリート!」

(くそっ! こんなガキが国を持つなどあってたまるか! 国というのは、『私達』のような者が治めるべきなのだ!!)

 この状況を打破すべく、アルゴンは老いた脳を全力で動かす。

 しかし、名案が浮かぶ前に事態は進行していく。

「私、ナスタ・ハルムイは貴方に決闘を申し込みます!」

 予想の斜め上を。

「……は?」

 疑問の声を出したのはアルゴンか、それともジャックか。

 二人が同じことを思いながらナスタを見ていた。今この馬鹿何言った?

 アルゴンの予想では、ナスタがアルゴンの罪状を告げ、ジャックがアルゴンの首を跳ね飛ばす。……そう考えていた。ジャックの方も、同じようなことを考えていた。

 が、ナスタは何故かアルゴンに決闘を挑んだ。しかもこの場合の決闘だとアルゴン対ナスタの戦いになってしまう。

 肝心のナスタはというと何故二人にそんなに見られてるのか分からず縮こまっている。

「な、なんですか?」

「おい馬鹿ちょっとこっちこい」

 アルゴンの目の前で、ジャックはナスタを連れて玉座の間から出て行く。

 扉の向こうからひそひそとした声が聞こえてくる。

『おいナスタ・ハルムイさん。お前何考えてんの?』

『え? 何って、正当な手順に則って王の決闘を……』

『はいそこ。なんで決闘しようとしてるのかな?』

『いや、向こうが悪いのだとしてもこちらが法に従わないという理由にはなりませんし』

『だから、なんで決闘?』

『知らないんですか? 王となる権利を賭けて決闘するのは昔からよくあったんですよ。ですから……』

『……色々突っ込みたい所はあるけど、まずこれを言っておこう。その決闘は、本来両方に王となる権利がある場合起こるものであって、勝手に王になるんじゃーとか言ってる老いぼれジジイには関係ない』

『へ?』

『因みにお前が勝手に宣言したせいで相手が承諾すれば決闘は発生する。ついでに言えばこの場合お前が勝っても何もないが相手が勝てばお前の王となる権利が持っていかれる。……言いたいことはわかるよな?』

『………………』

『そして最後に一つ。―――罪人は王族だろうと断首だこのボケェェェェェェ!!』

『ちょ、ちょっと待ってくださいジャックさん! その握り締めた拳でどうす痛い!!』

「……、」

 アルゴンは何かを言いかけたが、バカバカしくてやめた。



「お待たせしました」

 十分ほど経ち、ジャックとナスタは戻ってきた。ナスタの頭にタンコブが出来上がっているが、それを気にするものはここにはいない。

「つーわけで覚悟は出来てるな、王様」

「……はぁ。馬鹿なことを」

 アルゴンはゆっくりと溜め息を吐き、ジャック達を指差す。

「死を覚悟するのはお前らもだぞ」

「……も?」

「なんだ? 切り札でもあるのか? 楽しませてくれるならまあいいけどさ……」

「切り札というものでもない。何せ何もかも吹き飛ばすのだからな」

 アルゴンの手には、一本の杖があった。何の変哲も無いように見える、木の杖。

 カラン、と何かが転がった。

 ジャックがチラリと見ると、そこには緑の結晶が転がっていた。

(転移結晶? ここにきて逃げるつもりなの……ん?)

 そこで、ジャックは気付いた。気付いてしまった。

 転移結晶に見えたそれは、その結晶の緑色に、黒が混じっていることに。

 そして玉座の間の壁には、これでもかと結晶があった。赤や青の色があるが、全て黒が混ざっていた。

「―――。」

 ジャックが何かを言ったのと、結晶が光り輝いたのはほぼ同時だった。


 轟ッ!!!!!! と、莫大な光が、全てを消し飛ばした。



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