少年の声
「魔人達が、戦争の準備を・・・?」
「そうだよー」
ヘラヘラと、どこまでもふざけた調子で少年は喋る。
「魔人って人間に比べて圧倒的に数が少ないんだよねぇ。総人口がだいたい二万人くらいだっけ? んで、ただ今攻め込もうとしてる魔人の数はおよそ二百人。数だけなら大したことないように思えるけど、魔人と人間の戦闘力を同じ感覚で考えちゃいけないからね。人間で単身対抗できるのは五人か六人くらいだと思うよ」
ただし、今の台詞を六秒で喋ったが。
「・・・・・・、」
流石にジンもこれには何も言えない。というか何言ってたのかさっぱり聞き取れない。
何も言わず黙るジンを見て少年も察したのか、うーんと唸りながらもう一度喋り直す。
「とりあえず、普通ならありえない数の魔人が攻め込んでくるっていうことが分かればいいと思うよ」
「そ、そうですか」
「後ねぇ、それが一週間後に予定されてるってことも知っといた方がいいよ」
「は?」
「ジャジャーン! こちらが地図になりまーす!」
少年が腕を振るうと、宙にシルスベールの地図が現れた。ジンが大臣から貰った地図だった。
「この国の人たちが絞り込んだ魔獣の出現場所。それらのどれかが魔界と繋がっていて、そこから魔人達はやって来るつもりみたいだね」
「・・・つまり、魔獣の出現場所に赴き、魔界へ繋がる穴を塞げばいいんですね」
「そだよー。まあどうやって塞ぐのかはそっちで考えてねー。まあ英雄さんなら空間を斬るくらいできるでしょ」
「斬ったところで穴が塞がるわけではないんですが・・・」
「あははそれもそうだねー」
ヘラヘラと笑う少年と、ジンはいつの間にか警戒を解いて喋っていることに気付く。
それと同時に、ジンは少年の力が急速に減っていくのを感じ取った。
「・・・あ、もうそんな時間か。次に出れるのはいつかなぁ」
ゆっくりと、少年の身体が透けていく。
少年は、そんな自分を見ながらヘラヘラと笑い続ける。
「じゃあね英雄さん。またいつか会った時はよろしく!」
「ちょ、ちょっと待ってください! 何処が魔界に繋がってるのかを―――っ!」
ジンの言葉に少年は答えず、笑うだけだった。
少年の身体が光の粒子となり、そのまま空へ飛んでいく。咄嗟にジンは掴もうとしたが、全て手をすり抜けてしまった。
「・・・結局、やることは変わりませんね」
そう呟き、ジンは脱衣所へと戻って行った。
夜空は、いつもと同じように星が輝いていた。
翌日、ジン達は部屋に集まっていた。
「んで、どこから行くんだ?」
大臣から貰った地図を広げ、ジンは地図を指差す。
「まず、ここに行ってきてもらいます。ここは一番被害が大きい場所です。確率は他より高いでしょう」
「・・・『行ってきてもらいます』つーことは、メンバーを分けるのか?」
「はい。ここにはアレンやサクラ姫、カンナ達と他数人で行ってもらいたいと思ってます」
「待てジン。俺はともかく姫まで巻き込むつもりか?」
アレンの言葉に、ジンは首を横に振る。
「アレンはサクラ姫を護っていてくれれば結構です。・・・(というか下手に怯えられて『あの状態』に入られるとちょっと困ってしまうので)」
最後のコソコソとした声はしっかりとアレンに届いたようだ。アレンはしっかりと、力強く頷いてくれた。
「・・・残りはここに向かいます。ここはソロさんが魔人を打ち倒した場所ですのでその時に何かあったのではと予測できます」
それと、とジンは宙で腕を振るう。
ヒュンッ、と軽い音と共にジンの手にショートソードが現れた。刃を布で巻き、カンナに手渡す。
「何かあった時はこれを叩き壊してください。すぐにそちらへ行きます」
「わかりました」
「それと、皆さんなら平気でしょうが、絶対に無茶はしないようにお願いします。特にアレン」
「・・・何故俺をやっぱり言わなくていい」
アレンは文句を言いかけたが、ジンの言ってもいいの? と聞いてくる顔を見て即座にやめた。
パンパンと手を叩き、ジンは立ち上がる。
「それでは皆さん、行きましょう」
ゾロゾロと、ジン達は部屋を出て行く。
誰もいないはずの部屋で、少年の声が響く。
「さーて、と。ジャックはいったいいつ目覚めるかなぁ」
楽しそうな、少年の笑い声が響き渡った。




