語られない伝説・No.5
物心がついた時には、もうその手には刃物があった。
喋り方を覚えるより先に、人の殺し方を覚えた。
文字の書き方を覚える前に、戦場に立たされた。
初めて人を殺したのは、物心がつく前かもしれない。
五歳の頃には、そこらの傭兵より強くなった。
十歳になった頃には、傭兵が束になっても敵わないくらい強くなった。
その時にはもう、何人殺したかを数えてなかった。
十二歳の頃だった。初めて敵を生かした。
別に、生命の大切さを知ったわけではない。そんな理由ではなかった。
相手は十八くらいの新米兵士だった。所属していた部隊はその兵士を除いて全滅していた。
その兵士にトドメを刺そうとした時、ふと思ったのだ。
惜しい、と。
その兵士は、圧倒的な力を見せつけられた後でも、恐怖ではなく、闘志をもってこちらに向けて武器を構えてきた。
ああ、きっとこいつは生き残ればいい兵士になるんだろうなぁ。
そう思い、その日初めて誰かを生かした。
強くなったそいつと、今度こそ命のやり取りをするために。
それ以来、殆ど人を殺していない。
弱い奴は、未来に期待して生かし、それなりに強い奴も、まだ伸びそうならば生かした。
彼は、小さな頃から沢山の人を殺した。
だが同時に彼は、戦場から多くの人間を平和な地へ帰した。
今の時代、国に無理やり兵士として突撃させられる人達は沢山いた。
本人の気持ちはどうあれ、彼は戦場へ送られた沢山の人間を助ける形になった。
そんな彼に、誰かはこうお礼を述べた。
ありがとう英雄、と。
「おらよっと!」
何の変哲もない普通の剣。そして魔法を使わない傭兵。
今の時代、近接戦闘の時には自身を強化する魔法を使うのが当たり前だ。
ジャックは、そういった魔法を一切使っていない。
なのに、
ゴッ‼︎ と兵士の一団が吹き飛ばされた。
「おらおらどうした。ちょーと勢い弱いんじゃねえか?」
兵士は既に半分近くが地に伏せていた。
たった二人、いや一人に兵士達はやられていた。
「ば、化け物め・・・」
「おい、化け物言った奴どこだ?ちょいと躾けてやるから前に出ろ」
「っ⁉︎」
ザザッと明らかに隊列を無視して下がった兵士が一人。そっちに向かってジャックは剣を振るう。
轟ッ‼︎ と扇状に兵士達が吹き飛ばされた。
「さて、と」
さっきからオロオロとしていたナスタをジャックは抱える。
「あの、本当に大丈夫なんですか⁉︎ 凄い勢いで皆さん飛んで行きましたが⁉︎ そしてなんで抱えるんですか⁉︎」
「ちゃんと鍛えてたら無傷だろ。鍛えてなくても骨が折れるくらいだ。そして抱える理由はちょっと諸事情によりうんたらだ」
ナスタを片腕で抱えながらも、ジャックに隙はなく、周りの兵士達は迂闊に動けなかった。
(隙なんて、こっちから作るもんなんだけどなぁ)
軽く溜め息を吐きながらジャックは跳び、兵士の頭を踏んづけて再度跳んだ。
「わっ」「ぬっ」「おっ」「いっ」「のわっ⁉︎」
「ごめんねごめんねーっと」
兵士を踏み台にジャックは城へと近づいて行く。途中何人かはジャックに武器を向けようとするのだが、その時には既にジャックは跳んでいる。
悠々と門の前に辿り着いたジャックはナスタを下ろした。
「おいナスタ、壁張れ」
「は、はい!」
ブツブツと呪文を呟くナスタに向かって何人か武器を持って突撃してくるのだが、ジャックが全員ぶっ飛ばしていった。
「魔壁!」
ナスタの声と同時に、魔法の障壁が城を包み込むように展開された。
「うし。行くぞナスタ」
「ちょっと待ってくださいよ! ちゃんとできてるか確認をさせてください!」
「いらんいらん。この魔力ならあいつら程度には壊せれんよ。・・・(つーか俺でも壊せなかったしな)」
「へ?」
「何でもねえよ。さっさと行ってさっさと終わらせるぞ」
ドスドスと進むジャックに、ナスタは頭に疑問符を浮かべた。




