語られない伝説・No.4
「・・・どうして」
「ん?」
部屋に戻り、ゆっくりとしていたジャックは本を閉じてナスタを見る。
ナスタは窓の外の景色を見たまま呟く。戻ってからずっとこうだった。
「どうしてそこまでして、他の国はラルバディアを求めるのですか?」
「・・・お前」
ナスタの言葉に愕然とするジャック。
「自分の国の事情を知らなかったのか・・・?」
「しょ、しょうがないじゃないですか! 私は舞踏会なんか以外は基本的に何もさせてもらえてないんですよ! いつも本を読んで魔法の練習してましたし!」
「それだ」
「はい?」
「他国がラルバディアを狙う理由。その理由が魔法なんだよ」
呆れ気味に言うジャックはブツブツと呪文を呟く。
「灯火」
ポウッと、ジャックの手から淡い光が出た。しかしその光はものの数秒で消え去った。
ジャックは舌打ちしながらもナスタに説明してやる。
「ラルバディアには他国に教えてない魔法が幾つもある。一番有名なのは飛行魔法の飛翔かな。あれは厄介だったな。何せこっちが必死こいて設置した罠を無視して上から一方的に魔法を落としてくるんだからな」
「・・・魔法。それだけのためにラルバディアを?」
「それだけとは言うがな、他国からすれば隕石はとんでもない脅威だぞ? あれはやばい。実際俺のいた部隊以外は全員死んだ。俺らも偶々岩の穴に隠れただけだし」
他にもラルバディアには様々な魔法があるのだが、有名な魔法はそんなところだろう。
ナスタはブツブツと呪文を呟いていた。ジャックにはそれが何なのか予測できなかった。
「飛翔」
ナスタの背中が光り輝き、光が翼へと形を変える。
「こんなもので王位を取り合うくらいなら、全ての魔法を公開した方が・・・」
「やめとけ。その魔法がラルバディアの生命線なんだ。自分で自分の首を絞めるつもりか?」
「・・・・・・わかりました」
ガシッ! とジャックの手をナスタは力強く掴む。
「行きましょう」
「え? おい、まさかお前・・・」
ナスタは窓を開けた。
「待て、ちょっと待て! お前いきなり突っ込んでいくつもりなのか⁉︎」
「民が苦しんでいるのに、こんな所でゆっくりしてる暇はありません」
「いやいやいや! 休養は万全の力を出すには必要不可欠でだな!」
ジャックの言葉を聞かず、ナスタは窓から飛び降りた。重力に従ってナスタは落下し、手を掴まれたジャックは必然的につられて行く。
因みにこの宿、面積が狭い代わりに六階建てとなっていた。ジャック達がいるのは五階だった。
「おいぃぃぃぃ‼︎ この状態じゃあ受け身もとれ」
「飛びます!」
ブワッ! と風の唸る音が至近距離で聞こえた。
光の翼は力強く羽ばたき、ジャック達を空高く運んだ。
割と全力でジタバタしていたジャックは、高い所から見た街を見て興奮した。
「おおおおおお! 何これいいなこれ!」
「なんならこの魔法を教えましょうか? 慣れるまで難しいですが、慣れれば簡単に使えるようになりますよ?」
誇らしげなナスタに、ジャックは首を横に振る。
「やめとく。そもそも俺は魔法を使えないんだ」
「え? 魔力がとんでもなく少ないとかですか?」
「違う。・・・さっきの灯火、お前も見ただろ?」
ジャックはナスタに吊り下げられたまま呪文を唱える。
「獄炎」
ジャックの手のひらに炎が生まれた。
しかし、弱い。ロウソクのような火は数秒と経たずに消えてしまった。
「俺はさ、体質なのかは知らんが生まれつき魔法が使えないんだよ。とある魔法士曰く魔力に似た何かがあるらしいんだが、使えなきゃ意味がない」
そんなことより、とジャックは聞きたいことをさっさと聞くことにする。
「これは、どこへ向かってるんですかね?」
「あそこです」
そう言ってナスタはとある場所を指差す。
城だ。石で造られたものとは違う、木で造られた城だ。
シルスベールの王がいる場所である。
「知ってたよちくしょう⁉︎ ていうかなんか兵士共が弓矢を構えてるんだよさっさと動けノロマ‼︎」
「い、言わないでくださいよそんなこと!」
「なんで今の台詞で涙目になってんだ⁉︎」
「ほっといてください!」
姫と傭兵がギャーギャー騒いでると、城の兵士達は一斉に矢を放った。
飛んでくる矢をジャックは剣で叩き落としながらカンナに指示を出す。
「降りろ! 矢が民家に刺さってる! 今はまだ良いが罪無き国民に矢が刺さるかもな!」
「わ、わかりました!」
慌てながらもナスタは飛び、城の前に降り立つ。
「・・・あらら」
降りた先には、兵士の一団が準備万端で立っていた。
「ど、どうするんですかこれ?」
「お前が暴走しなければこうはならなかったんだけどな・・・」
はぁ、と溜め息混じりに剣を引き抜く。
ズォッ‼︎ と、空気が変わった。
殺意のない、純粋な闘気。
少しでも訓練を積んだ兵士なら、絶望的なまでの経験の差を感じ取れた。
「じゃあまあ、殺さないから安心してくれ」
ジャックのその言葉で、安心できた者など一人もいなかった。
「おら、いくぞ。お稽古の時間だ、三下共!」
兵士達の下へ、ジャックは自ら突っ込んでいく。
一方的な暴力が、その場を支配した。




