温泉と炎
「ふいー」
顔に大きな傷がある男、ラルクが気の抜けた声を出した。
ジンの仲間達は今、温泉に入っている。王が手配してくれた宿に来た彼らは、旅の疲れを癒していた。
ちなみに、ジンはここにはいない。別れた後すぐ戻ってきたのだが温泉に入る直前で何処かに消えていってしまった。
「おいラルク、あいつらどうする?」
仲間の一人、カイトが何気ないことのように呟く。
ジンの仲間達は、覗き見している人達の気配を感じ取っていた。
とはいえ、見られてる程度で撃退するのは面倒だし、良識は多少あるのか女湯の方は誰も覗いていないようなので放置しておいたのだ。
「覗いてるのは変わりないし、後でボコって衛兵にでも突き出そうか」
「そうだな。これで気配隠してるつもりの奴らなら余裕だな」
わざと聞こえるようにそう言うと、覗き見している人達の気配が遠ざかっていくのを彼らは感じ取った。
「・・・そういやジンさん何処に行ったんだ?」
「案外さっきの奴ら殲滅してたりな」
「・・・・・・ありえそうだから困るんだよなあ」
ハハハと彼らは笑いながら思う。
明日、どっかの団体が潰れたっていう話で騒ぎになるだろうな、と。
その頃の女湯。
「姫さん綺麗な肌だねぇ」
「やっぱ侍女さんに丁寧に手入れしてもらってるのかい?」
「え、ええ。一人でもできるようになりたいんですが、侍女の皆さんの仕事を取り上げることになるので機会がなくて・・・」
「よーし! なら私たちが教えてやるよ。カンナがいない分弄り回してやる!」
「へ? ちょ、ちょっとなんですか⁉︎ なんですかその手の液体は⁉︎」
ジリジリと逃げるように下がるサクラ姫を、女性陣六人は全く同じ速度で近づいて行く。
「(もーう! カンナも何処かに行っちゃったし、私も付いて行けば良かった!)」
そんな彼女達を他の客は怪訝そうに見ているのだが、残念ながらそんなことを気にする人達ではなかった。
「かかれ!」
「キャー⁉︎」
ゴウゴウと、炎が勢いよく燃え盛っていた。
火傷することなく平然と立つジンはポツリと呟く。
「カナヤマヒコ」
轟ッ‼︎ という音と共に爆炎が発生し、ジンを包み込んだ。
「っしゃ! ざまあみろ!」
物陰に隠れていた男は身を乗り出してジンがいた所に向かって叫ぶ。その後ろには黒装束の人間が何人もいた。
「おい、てめえら逃げるぞ。兵士に顔を覚えられると困るからな」
その言葉を合図にそれぞれダガー片手に走り出す。
だが、
「逃がしませんよ」
「あぁ⁉︎」
走り出した先には既にジンが待ち構えていた。その手には炎のように赤い剣があった。
慌てて彼らはダガーを構えるが、そこでようやく違和感を感じ取った。
「な、はぁ⁈」
ダガーの刃の部分が、完全に朽ち果てていた。ちょっと振るだけでも刃が何処かに飛んでいきそうだった。
一歩、ジンは彼らに近づいた。
そのまま彼らに剣を向け、呟く。
「荒れろ、スサノオ!」
ゴッ‼︎ と暴風が吹き、彼らを紙切れのように吹き飛ばした。
しかし、それでも死なない。壁や地面に激突する寸前に、風が彼らを受け止めていた。
(後は彼らを衛兵に引き渡して終わり、ですかね)
剣を一振りすると、剣が空気に溶けるように消えていく。
ジンは彼らをそこらに落ちていた布で適当に縛っておく。しばらくは動かないだろうが念のためである。
「ば、化け物め・・・」
根性があったのか運が良かったのか意識を失わずに済んだ男がそう言った。
なのでジンはにっこりと笑って言ってやった。
「化け物と呼ばれようと何だろうと、誰かを護れればそれで私は満足ですよ。・・・っと」
遠くから何人もの統率された足音が聞こえてきた。兵士達がやってきたようだ。
「それでは私はこれで失礼します。縁があればまたお会いしましょう」
そう言ってジンは去っていった。
ポツリと、男は吐き捨てる。
「よく言うぜ。あんなに楽しそうに人と戦っておいて」




