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語られない伝説・No.3

「さて、と」

「さてとじゃありません! どういうことですか⁉︎」

 ナスタは一人用の部屋で叫ぶ。

 そう、『一人用』だ。二人用ではなく、ベットは一人分しかない。

 ジャックはうるさそうに耳を塞いでいる。

「何がどういうことなんだよ。後音量もうちょっと下げろ。一応他の客だっているんだから」

「・・・ぅ」

 ジャックに注意されてナスタは若干声が小さくなる。

「あのですね、私達は二人です」

「ふんふん」

「この部屋は一人部屋です」

「そうだな」

「・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・? なんだよ」

 部屋にある椅子に座ってジャックはリュックから色々な物を取り出す。足りない物はないか、壊れてる物はないかを確認しているのだ。

 ナスタは顔を赤くして何やらもじもじとしてらっしゃる。

 ふむ、とジャックは少し考え、ナスタが何が言いたいかを把握する。

「いや、俺は椅子で寝るからな?」

「先に言ってくださいよ‼︎」

「声がでかいんだよお前は‼︎」

 ドンッ! と隣の部屋から壁を叩く音が聞こえた。どうもお眠り中だったようだ。

 ジャックは呆れながらもさっさと確認に戻る。

 ナスタはさすがにもう大声を出す気はないらしく、おとなしく窓の外の景色を見ていた。

「・・・・・・平和ですね」

 ポツリと、ナスタは呟いた。ジャックは手を止めないまま言う。

「さっきのチンピラはもう忘れたのか?お前は三歩歩くと忘れるタイプか?」

「わ、忘れてはいませんよ。ただ・・・」

「ただ?」

「・・・・・王がいなくても、皆大丈夫なのでは? って思っちゃうんですよ」

 その言葉の真意を、ジャックは読み取れない。

 だから、言葉通りに受け取る。

「そうだな。国を護るのは最悪傭兵でどうにかなる。政治だって色んな奴で決めればいいかもな」

「・・・・・・ですね」

「だけど、それだとどうしてもああいう人達が出てくる」

「・・・?」

 ジャックは道具をリュックに戻し、ナスタの手を掴み取る。

「行くぞ」

「ど、どこにですか?」

「お前が見るべきものだよ」

 宿から出て、ジャックはぐんぐん進んでいく。

 どこにいくのだろうとナスタはぼんやりと考えていたが、そこでふと思う。

(これ、他人からはどう見られてるのかしら・・・)

 若い男女が、手を繋いで歩いている。

 ・・・その部分だけを考えると、一気に顔が赤くなった。

「(あ、あの、ジャックさん!)」

「ん? どうした」

「(視線が!すごい目立ってます‼︎)」

 よくよく周りを見ると、明らかに旅人に対する反応ではなかった。もっと別の何かだ。

「お前はどうせ目立つんだ。気にするな」

「(必要以上に目立つ必要はないと思います‼︎ だから手を放してください‼︎)」

「それで消えるなり誘拐されるなりなると面倒だろうが」

 ナスタの話を聞かずにジャックは進む。ちなみに周りの視線は全く気にしてないようだ。

 そうやって歩いて数分は経っただろうか。ジャックはようやく足を止めた。

「ほれ、着いたぞ」

 ナスタはその光景を見て、こう思った。


 まるで地獄のようだ、と。


 血の臭いが蔓延していた。怪我をしていない人などいないし、呻き声がどこに耳を傾けても聞こえてきた。

「ごみ捨て場だよ」ジャックははっきりとそう言った「国のために働かない、従わない奴らを適当にボコってここに捨てるんだ。商人はこんなところにこないから、誰も気づかない」

「・・・な、んで、こんな酷いことを・・・・・」

「この程度ならマシじゃないか? 金策のために国民を奴隷にして売り飛ばす国だってあるんだし。そういえばここもそうだけど、その国もラルバディアと合併しようとしてるんだっけ? 王になる資格がある理由は確か王族の親戚の親戚の末裔だったかな?」

 そこに哀れみの感情はなかった。もはや日常として、この現実をジャックは見ていた。

「まあ、国王が生きてる時はまだマシだったんだがな。ここまで多くはなかった」

 ふらふらとしている小さな女の子が、ジャック達の目の前で倒れた。

「っ‼︎」

「はい止まって」

 近付こうとするナスタをジャックは止める。

「なんで止めるんですか⁉︎」

「一人に施しを与えると、周りの奴らが寄ってくる。・・・それに病院は無駄だ。ここにいる奴らは人権なんかを含めた文字通り全てを剥奪されてる。治療なんてしてもらえるわけがない」

「・・・・・」

「戻るぞ。・・・ここでお前が出来ることは、何もない」

 ジャックは歩き出す。今度はナスタの手を掴まなかった。

 ナスタは俯きながらも、ジャックを追いかけて走り出した。

 女の子を気にする者は、誰もいなかった。

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