迷子の『勇者』
服が水を吸い込んでひどく重かった。水も冷たくてなかなかきついものだった。だが日が落ちるまで寝ていたのだから仕方ない
ジンは牧場に帰ってきていた。空では雷がゴロゴロと鳴っている。一応力を使えば晴れさせることは可能だが、自然の流れをあまり阻害したくなかった
大きな建物の前に立ち止まりぽつりと呟く
「やれやれ、あの時の夢を見るとは」
そう、夢だ。血を血で洗うような生活をしていた、あの頃の夢
「・・・今は」
ドガンッ!と大きな音が響いた
「ひゃーーー!!!」
雷鳴よりも大きいんじゃないかと思うくらい大きな声が聞こえてきた。雷鳴より声の方が驚いた
玄関には全員の靴を入れてもまだスペースがあるシューズラックがあり、その横には外出用の黒色のレインコートがある
玄関には丸くなっているカンナもいた。その横にはジンの服と大きなタオルがあった
「大丈夫ですかカンナさん?」
「・・・ぅぅ〜」
「大丈夫じゃないんですね」
呆れながらもタオルを手に取り、服の水が滴らない程度に服の水をタオルで吸い取る
「タオルありがとうございます、カンナ」
「ど、どうもで」
ピカッ!
「わひゃあ!」
ゴロゴロゴロゴロ・・・・
「う、ぁぅ・・・」
「カンナさんなんで雷怖いんですか?」
ジンは外を見ながらカンナに問う。実際は笑っている顔を隠すために外を見てるだけだが
「ど、ドカーンって音は大きくて驚くし、光った時はその後にくる音が怖く」
ピカッ!ドガンッ!!
「〜〜〜〜!!!」
「近いですねえ」
ちなみに今の音にビビったカンナはジンに抱きついたりしてるのだがジンはそのことに対して特に何も思うことなく頭を撫でたりしている
ついでに言えば廊下の角や使い魔や千里眼を使って何人も覗いたりしているのだがジンは気づくことはない
「じ、ジンさん、雷なんとか出来ないんですか?」
「出来ないことはないんですが、自然の流れに介入することは望ましくないんですよ」
「そ、そんなぁ・・・」
泣きそうな顔にカンナはなっているが、それでもジンは天気を操作することはあまりない。自然という大いなる力に逆らうと痛いしっぺ返しをくらうのを知ってるからである
「・・・ん?」
そこでジンは、この雨の中こちらに歩いてくる人影を見た。といっても人の形をしてるのが分かるだけで、それ以上は雨がきつくて何も見えない
「すいませんカンナさん、ちょっと外へ・・・」
「私も行きます」
「いえ、濡れると「私も行きます」・・・・・分かりましたが、せめて手を握るとかにしてもらえると助かるんですが」
「・・・・・・・・ぁぅ」
カンナが顔を赤くしながらも離れて自由になったので、ジンはレインコートを二着取って片方をカンナに渡す
カンナはレインコートを着て、ジンの左手をしっかりと握る。利き手である右手を握らないのは何かあった時のためであったりする
外に出て人影へと近づいていく。近づくと分かったが、その人影は鎧を着ていた。とてつもなく長い何かを引きずりながら歩いている
ピカッ!と雷の光で一瞬だけ周囲が照らされた。カンナがビクッとしたのが手で分かった
ジンは一瞬見えた顔で誰かを判断出来た
「・・・・・・・」
ドガンッ!と雷の音と重なり、人影が何て言ったのか分からない
「ええと、今なんと?」
ジンがもう一度言うように頼むと、その人影は今度ははっきりと言葉を出した
「牧場は、何処ですか?」
「ここです」
牧場の場所を牧場で尋ねた『勇者』に、『英雄』は反射的にそう答えた




