英雄様にお任せ
「皆さんは知ってたんですか?」
カンナはそう周りの人に聞いた
今カンナがいるのは牧場内にある修練場だ。牧場にそんな物があるのはおかしいと思うかもしれないが、山賊から身を護る為に力をつけているだけだ(その結果騎士と同じかそれ以上の力を手に入れているが)
周りの人も剣を振るったり魔法を詠唱したりなどしている。その中の一人が答える
「知ってたよ。二十を超えた奴らは皆ジンさんのことを教えられる」
「半信半疑だったがな」
「まああの人ずっとあの若さだから分かっちゃうけどな」
わははと笑う人達にカンナは問う
「皆さんも、何か抱えているんですか?」
「・・・んー」
剣を振るのをやめて男は周りを見渡す
「ちょうどここにいる奴らは皆山賊だな」
「え?」
「ここは大きな所だったからな、蓄えも沢山あるだろうと思って皆で攻めたんだよ。そしたらジンさん何て言ったと思う?」
男は頭をかきながら笑って言う
「『皆さん逞しいですね!うちで働いてくれませんか!』だよ。開口一番にな」
「んで俺らが何か言う前に道具持たせて何すればいいのか丁寧に教えてきて・・・いつの間にかこれだよ」
「なんかさ、上手く乗せられた気がするよな」
また笑い出す男達を見てカンナはもう溜め息を吐くしかない。馬鹿にしてるわけではなく、呆れているだけだが
「つーかさ、カンナちゃんもあるんだろ?」
「何がですか?」
「抱え物、じゃなきゃここにはいないだろ?」
「・・・・・・」
その時、カンナの顔からあらゆる感情が消えた。その顔には暖かさも冷たさもない、『無』だった
男達はその顔を見ても動揺することはない。その程度なら見慣れてると言っているようだった
「まあ俺らに言う必要はないけどな、ジンさんには言っておいた方がいいと思うぞ」
「・・・何故です?」
「あの人は絶対俺らを見捨てはしないし、絶対俺らを助けてくれる。なんたって『英雄様』だからな」
「そーそ、全部『英雄様』が何とかしてくれるって」
笑いながらそんなことを言う男達を見て、カンナは少しだけ笑った
その英雄様は、王都にいた
ただし街にいるわけではない。城の地下の一部の人しか知らない隠し部屋、の更に奥にある王しか知らない隠し部屋にいた
部屋にいるのは王とアレンとジンだ。その三人がいる部屋にはとある剣が置かれていた
「陛下、これは?」
アレンの問いに王はゆっくりと喋る
「昔、英雄が我が国の為に残したとされる剣だ」
「ジャック殿が?」
ジャックと呼ばれてジンは若干嫌そうな顔になりながら頷く
「この剣は昔、私が姫に、いえ女王陛下にお渡しした物です」
剣は特別な装飾もない、見た目は普通の剣だった。ジンが剣に触れると、薄っすらと刀身が青白い光を放つ
「この剣に込められし力は『拒絶』。光と闇が混じらないように、太陽が月を拒絶するのと同じようにこの剣は力を拒絶します。私がいなくても、国が滅ぶことがないようにお渡ししました」
とんっと軽く刀身を指先で叩く。それだけで剣は空気に溶け込むように消えて行った
ジンはアレンに近づき、肩に手を置く。ジンの身体が青白く光り、腕を伝ってアレンへと渡って行く
「この力はアレン、貴方が持っていてください」
「・・・この力を国を護る為に使うことを、自分の全てをかけて誓います」
ジンはアレンを見て少し悲しそうにするが、すぐに真面目な顔つきになり、何もない所に手を伸ばす
「サクラ姫、貴女にも渡す物があります」
パンッ!という音が響き、突如サクラ姫が現れる
「姫!?」
「サクラ、何故ここにいる」
「そ、そのですね、ジャック様の力を感じて来てみたら父上やアレンが地下に行っていたから、何かあると思いまして・・・」
その言葉に三人揃って溜め息を吐く
ジンはサクラの頭にある銀の蝶に触る。アレンと同じ現象が起きた
「アレンには『拒絶』を、サクラ姫には『加護』の力を渡しました。力の引き出し方は各々で探してください」
「わ、分かりました」
「ただし、忘れないでください」
ジンは二人に向かって忠告する。
「その力は私が与えた物だというのとを。自分の力ではないということを。それだけは忘れないでください」
「もちろん、ジャック殿への感謝を忘れることはありません」
「私も、ジャック様への感謝の意を忘れることは決してありません!」
間違った意味で捉えた二人を見て、ジンは二人に気づかれない程度に溜め息を吐いた




