結晶
「・・・見事なまでに女ばかりだな」
捕虜となったラーグの兵士達を見て、アレンはそう呟いた。
檻に入れられた兵士、つまり魔女達はこちらを威嚇したり魔法を放とうとしたりしている。檻の中で魔法を使えるわけがないのに。
「男性は身体能力が、女性は魔法能力が高いのが一般的ですからね。魔法の国であるラーグなら、兵士のほとんどが女性で、男性は農業でもしてるのではないでしょうか」
隣でジンはそう教えてくれる。ジンがいるのに少し疑問を覚えたが、多分構わないだろう。
「・・・それより私はこの子達がどう見ても十代前半にしか見えないんですが、実は全員成人だったりするんですかね?」
ジンの言う通り、魔女達はどう見ても十代前半、下手すれば十に満たない子供ばかりだった。
「流石にそれはない、と思いたい。老化を防ぐ魔法・・・はありえないし、あるにしてもこんな小さな状態を維持する必要はないだろう」
「ゔー!」
犬か猫のように威嚇する少女達を見て思う。彼女達はどのような経緯があって戦場なんかに駆り出されたのか。
「・・・・ん? 十八か十九くらいの方もいますね」
「どこにだ?」
「あそこです。寝転がってるし、人に隠れて見え辛いですが」
ジンが指差す方をジーと見てみると、確かに他の魔女とは背格好が違う魔女が見えた。
「あの方が隊長ですかね?」
「・・・まあ聞いてみればわかるだろう。おい、扉を開けろ!」
開いた扉から何人か逃げ出そうとしたのを抑え込む。そうしてるとジンが一人歩いていく。
「お話を聞きたいので外に出てもらえますか?」
魔女は何も言わない。
「ちゃんと情報を話してくれるのであれば、貴女達の拘束が緩むことは約束致しますので、どうかご一緒に」
もちろんそんな権限ジンにはない、はずだがジンの言うことを王が無視するはずもないから嘘でもないかもしれない。
「さあ、ご一緒に」
「・・・・・」
魔女は無言で立ち上がり、他の魔女達に何かを言って、勝手に檻から出て行く。
「あ、こら! 勝手に行くんじゃない!」
アレンを放置してジンとさっさと魔女と追って出て行った。
なめられてる、と隊長は感じていた。
こうやって城の廊下を勝手に歩いているのに後ろにいる赤髪の男は何も言わずについて来るだけだ。
小さな声で魔法を使うために詠唱をしながら辺りを探知する。探知できる範囲にいるのは赤髪の男を入れて三名。その内二人は下の階にいる。
つまり、
「(この男を殺してから転移すれば脱出できる!)」
勢いよく振り返り、魔法を起動する言葉を力強く叫ぶ。
「『雷光』!」
ドゴン! と魔力によって作られた雷が肉眼で捉えられない速度で飛び、男を貫いた。
「ったたた・・・痛いじゃないですか」
貫いた、はずなのに、なんでこの男は痛そうにしているだけなんだ?
「な、なな、なんで・・・」
「ああ、落ち込まなくて大丈夫ですよ。むしろこの服を貫けれはのは誇ることですよ。あー本当に痛い・・・」
「(駄目だ、勝てない)」
男が痛い痛い言っている隙に懐から結晶を取り出し、叫ぶ。
「てん・・・っ!」
結晶を持つ手が千切れたんじゃないかと錯覚するような痛みを感じ、結晶を落としてしまう。
「危ないですね。こんな物を使って・・・? あぁ・・・これは・・・」
男は結晶を持って何やらぶつぶつ独り言を言っている。と思えばいきなり話しかけてくる。
「では、これで手持ちは全て出したということで、部屋に行きましょうか」
がっしりと逃げられないように腕を掴まれ、そのまま引きずられるように連れて行かれた。
「(危ない危ない、まさか『爆弾』を持っているとは)」
頭の中に結晶を置き、転移結晶を隣に置いて見比べる。転移結晶は綺麗な緑に対して、爆弾の結晶は少し黒が混じった緑色だ。
この結晶は使用者の魔力を根こそぎ奪い取り、その魔力を使って爆発魔法を展開する。
調整などは出来ないため、これを使うことは死に直結する。そんな物を使いたがる人はいないため、この結晶は基本的に他の結晶と似た色に加工して使用される。
「(そして、この人は転移するつもりだったのでしょうね・・・)」
要するに、捨て駒にされたのだ。この少女は。
哀れだとは思う。同情することはできる。
ただ、ジンは敵に情けをかける人ではなかった。
「(さーて、少しばかり辛い尋問のお時間ですね。素直に言ってくれれば、こちらも楽なのですが)」
そんなことを思いながら、ジンは魔女を連れて行く。




