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『喰龍』のカルラ  作者: 新切 有鰤
第一章 『暉餓龍』のシチュー編
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第44話 喰うか喰われるかの闘争―⑤

「ッ……はあ…………………はッ………」


 息が荒い。骨の折れた痛みがひどい。全身から流れ出る血の温かさが、気持ち悪い。身体のあちこちが熱い。頭が真っ白になりそうだ。

 今の状態を悪し様に言えばいくらでもいつまでも言えそうなほど最悪な状況に、カルラはもはや笑ってしまう。頼みの綱であるバスタードソードは粉々に粉砕され、まるでいつぞやの自分のようだ。


「ああ……絶望的だな」


 嘆くように、いっそ憂うように。ポツリとこぼした言葉は、すぐさま天井の崩落音に紛れて消えた。


 魔力はつきかけ、アレ(・・)も搾りかすになり始めている。

 ──────だが、だが。それが、あきらめる理由になるか?


 六王龍は強かった。命知らずに、リベンジだと意気込んで挑戦すること自体が間違っていた。

 ──────だが、だが。それが、食べたいという思いを止める理由になるか?


 一度完膚なきまでに敗走して、ヴァルカですら勝てなかった。実力の差は、埋めようがないほど横たわっていた。

 ──────だが、だが。それが、勝てない理由になるか?


「…………………………ッ、ちげぇよなァ!!!」


「GUOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!」


 カルラは、立ち上がる。魔力を燃やす。一度折れてばらばらになった意思は、エリィによってふたたび繋がれより強固になった。ここで止まれない。ここで終われない。 

 武器がないのなら拳を握ればいい。体力も魔力もつきかけているのなら一撃で終わらせればいい。攻撃が届きそうにないのなら、防御より早く攻撃すればいい。


 グルムが、その胸の大顎を開く。一気に丸呑みしてやろうということなのだろう。喉奥に輝くのは、龍核のきらめき。ほの暗い霊穿、その中でも一層暗いグルムの口内だからこそ、よく見えた。


「それを、ぶち抜く───────」


 息を吸う。グルム以外の一切合切を、無視する。


「【加速(アクセル):─────────」


「OOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!」


「───────五倍速(フィフス)】」


 地面を蹴飛ばした。数瞬の後、音が遅れて炸裂する(・・・・・・・・・)。


「はああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」


 あらんかぎり、気合を載せて叫ぶ。

 引き延ばされた視界と意識の中、グルムの顔が驚きに染まる。が、すぐさま消え去った。その顔がはっきりと笑みの形に歪み───────胸の大顎から、舌(・)が伸びる。


「……ッ!!」


 今まで一切たりともその素振りを見せていなかったからこそ、意識の外に追いやっていた。だが、顎があれば舌があるのは当然の道理。その赤くぬらぬらと輝る舌禍が、超速のカルラを受け止めんと伸ばされる。

 やられた。いや、警戒していなかった自分の負けだ。引き延ばされている思考の中で、負けの言葉が泡沫のようにいくつも生まれては消える。





「──────────させないわよ!!」




 だが、ソレが半ばで断ち切られる。どうやってこの速度に追いついているのかは知らないが、彼女がやってくれたに違いない。まったく、ああ、本当に頼もしい相棒だ。あの時組む判断をした自分に、グッドサインを送っておこう。


 カルラは龍骨から覗く口元を笑みの形に変え、拳を握った。もう、龍核は目の前だった。


「OOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!」


「あああああああああああああああああああああああああ!!」


 だが、六王龍も狙いはわかっている。自身の弱点たる龍核を破砕されれば、死ぬということに。舌を切り離された以上、取れる抵抗手段はたった一つ。


「UUUUUUUUUUUUU……」


 上の口が唸り、その胸の大顎が閉じられていく。このままカルラが口内に侵入した瞬間に噛み千切るような、遮断の動き。カルラが無防備なことをいいことに、そのまま食べてしまおうという魂胆なのかどうか。

 カルラは歯を食いしばる。これは、想定内の反撃だった。だから、下半身を犠牲にしてでも龍核を打ち抜こうと歯を食いしばって痛みに備えている。






 そのはずだった。



「────────【呼出(コール)】」


「!?!?」



 瞬間、まるで衝撃が炸裂したかのように閉じかけていた顎が開かれる。まさか。


「はッ……てめぇに腕を食われた時、保存しておいたんだよ」


 ヴァルカが、霊穿の入り口に腕を抑えながら立っていた。ああ、最高のライバルじゃねぇか。勝負を仕掛けておいて、よかった。

 

 二人のお膳立てで、道が開かれた。いや、料理が用意された。

 あとは、カルラがそれを喰らうだけだ。



「─────はあああああああああああああああああああああああああああああああああああッッ!!!!」


 昇る龍。音を超えた速度で、龍骨が翔ける。


 握られた拳が、たった一人の龍喰いが。

 六王龍の核を喰らった。


 すべての衝撃が集まった龍核が、グルムの喉奥をぶち抜いて吹き飛んだのだった。

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