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『喰龍』のカルラ  作者: 新切 有鰤
第一章 『暉餓龍』のシチュー編
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第15話 第二次空腹期鎮圧部隊―①

「おい!人員の配備はどうなっている!?」


「すみません、B級パーティが一人欠員すると連絡が……」


「A級の方に装備の支給をしなさい!」


「それでは、業務の方を……」


 冒険者組合フェノリア本部(・・)。そこは、今が最も忙しい状態であった。理由は簡単。さる『暉餓龍』が、二年ぶりに空腹期となったのである。

 空腹期というのは、名前のごとく、暉餓龍が特に空腹になる時。ただそれだけである。それだけなのだが、空腹期は暉餓龍だけの問題に留まらないところが大問題なのである。暉餓龍は空腹が極まると、同族すらも見境なく貪り始めるのだ。全てを文字通り喰らい尽くす奴に、他の龍たちも殺気立ち霊脈龍山のあちこちで暴れ始めるというわけだ。

 なんて、知ってる情報を語る体で現実逃避しても目の前の業務が消えるわけではない。組合の受付嬢ユルティ・マキャベリはため息をついて、目を開け───目の前に龍骨があることに気づいた。


「わひゃぁ!?何!?」


「おう、やっと気づいたか」


「依頼の完了報告しに来たんですけど」


 龍骨がぬっと下がると、その下には人間の身体がくっついていた。いや、人間が龍の骨を被っているのか。とにかく龍骨を被った男と、もう一人、背の高いポニーテールの女性が、ユルティのカウンターに来ていた。彼女が依頼完了報告と言う通り、手には完了証明書が握られていた。ユルティは慌てて、来客用の笑みを浮かべる。どうせ誰も気にはしないだろうが、こればっかりは染み付いた癖になっている。教育の賜物って奴だ。


「は、はい。承ります」


「受付さん、考え事か?」


「あはは、お見苦しいところをお見せしました……」


 ポリポリと頬を掻く。バツが悪いのはそうだが、この変な男に自分の思考を見透かされたという嫌さが少し澱のように感じる。しかし仕事である以上、割り切るものは割り切らないとやっていけないのが世というもの。ユルティは差し出された完了証明書を受け取り、受領印をぽんぽんと押していく。


「やっぱ貴方の顔怖がらせるし、いい加減外したら?」


「おいそれと外せるかっつの。やってればとっくにやってるわ」


 ぎゃあぎゃあと言い合いを始めた二人を無視して、ユルティは完了報告を進める。血の気が盛んな冒険者にとって喧嘩とナンパは日常茶飯事だ。とりあえず完了報告の方の事務は終わった、あとは恐らくこの人達が来た理由であろうことをやるだけか。


「はい、これにて依頼完了です。それで、お二方は第二次空腹期鎮圧部隊にご参加の方ですよね?」


「ん?」


「なに?」


「え?」


 ユルティが言っても、二人はいまいちピンとこない様子だった。逆にその様子にユルティが驚いてしまう始末である。今フェノリアに来る冒険者なんて、これが目当ての人しかいないと思っていたのだが……どうやら知らないらしい。ここまで言って知らないままにさせておくのもあれだし、ユルティは第二次空腹期鎮圧部隊について説明することにした。説明するのはタダだし、そこまで業務の負担にはならないからだ。


「じゃあ、説明させてもらいますね」


 まさか業務からの逃避が役立つとは。ユルティは自分の幸運を喜びながら、先程考えていたことを二人に説明する。それを聞いた二人はふんふんと頷いた。


「それで受付さんは俺たちが空腹期を鎮圧する部隊に参加する冒険者だと思ったわけだな」


「もちろん参加は強制じゃないです、危険な任務なので……ただ、その分報酬は弾むといえばそうなんですけどね。どうしますか?」


「参加するぜ」


 男が即答した。ポニーテールの彼女の方も、頷いて同意を示している。ユルティは、安堵して……しかし気づく。彼らは本当に参加して戦う気があるのだろうか、と。この依頼完了書に記載されている彼らの素性は、しがないB級冒険者と冒険者成り立てのE級冒険者。高額報酬に目が眩んで受けたはいいが本隊に何も貢献しないのは少しいただけないだろう。そして何より、今からメンバーを増やすとなるとこちらの業務も増えることは間違いない。それだけは避けたい。そこまで一瞬で思考して、ユルティはニヤリと笑う。


「ただ……参加条件として、龍核が納入できる人じゃないとダメなんですよ」


「龍核?」


「ええ、実力の足らない人をおおおおおお!?龍核じゃないですか!!」


 ユルティが意地悪そうに付け加えたことを遮るかのように、男が腰の袋から取り出したのは紛れもなく龍核だった。龍核を持っている、ということは龍をパーティで狩った証。サイズからして小型の龍の龍核のようだが、小型でも龍は龍。この二人はそんな実力者なのか、とユルティは驚愕した。それと同時に、引っ込みがつかない反発心がムクムクと湧き出てきた。一度意地の悪い事を言っておいて、今更引っ込むなんて出来ない。


「あっ思い出した、龍核一つじゃなくて五個必要なんで───ぐぶぇ!」


「何勝手なこと言ってやがる馬鹿野郎!!」


 ユルティが言い切る前に、頭部に衝撃が降ってきた。思わずヒキガエルのような声を出してしまうユルティに、二人は目を丸めていた。いや、急に現れ殴った男の方に驚いているだけかもしれないが。ユルティが振り返ると、そこにいたのはこの冒険者組合の受付部の部長だった。今回の空腹期鎮圧部隊の担当責任者でもある彼は、無精髭がぼうぼうの生え放題で、制服もヨレヨレである。ずっと働き詰めであったことが顔と服からわかる疲労っぷりだ。

 部長はは二人に頭を下げる。ユルティは彼が謝っているところを見たことがないので、衝撃であった。


「ユルティが変なことを言ってすまなかった。今かなり忙しくてコイツ含め皆おかしくなりかけてるんだ、どうか許してくれ」


「ぶ、部長が頭を下げるなんて!!」


「うるせぇユルティ、減給されてぇんか!?」


「ひぇっ、わかりましたぁ……」


 部長に怒鳴られ、ユルティはすごすごと黙って小さくなる。部長はそんなユルティに大きいため息を吐いた。


「はぁ……重ね重ね、コイツがすまなかった」


 再び頭を下げる部長に、二人は恐縮したようだった。男の方は、なんならちょっと驚いているくらいである。その紅の瞳は見開かれている。


「いえ、そんな……」


「それでお前さんたちは、鎮圧部隊に参加してくれるのだな?」


「はい、そうですね」


「こっちとしちゃ人手不足なんだ。龍核を持ってくるヤツなんざ鴨が葱を背負ってなんてところじゃない、大歓迎だ」


 ニヤリと浮かんだ笑みは組合の部長らしく荒々しく、そして優しかった。目の下のクマさえなければ、の話だが。クマのせいでなんか不気味になっているのは、彼の尊厳のために黙っておこう。


「そんじゃ、お前さんたちのパーティ名と名前を言ってくれるか?メモするから」


「ああ。──────<龍牙万餐(りゅうがばんさん)>の、カルラ・ジクブリードだ」


「同じく<龍牙万餐>のエリーナ・アイアタルです」


「オーライ、書いたぜ。じゃあ、二日後にまたここに来てくれよ」


 ユルティは、感想を率直に言えば、変なパーティ名だと思った。龍が晩餐?巫山戯て付ける名前にしたってもう少しマシだろう。だが、このときのユルティには知る由もなかった。この名前が、アネクメニア大陸中に轟くことになるなど。

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