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第七十九話 凍てつく大地で…


(まずい!)


ガルズガンドは焦っていた、目の前に鎮座するニヒツの纏う…


「どうしました…来ないなら行きますよ…」


異様な"魔力"に…


(この状況、どう考えても、誰がどう見ても俺が有利だぁ!でも、でもだぜぇー!知ってるんだ俺!こう言うパターンって大体!)


「どうしました?何もして来ないんですか?本当に行きますよ…」


ガルズガンドは確信していた、今目の前にいる男が…


(覚醒…してるよなぁ〜)


幾千の戦場を乗り越え、すでに覚醒している事実に…


「いいぜぇ〜旦那ぁ!」


表ではこう、しかし内心…


(帰りたい!帰りたい!帰りたい!帰りたい!)


これである。


なぜガルズガンドが、この商国最強を頭容易く倒した、彼がこのまで怯えているのか…


その理由は、"三つある"


(今までで既に活活だったんだ、あれでも死に物狂いだったんだよぉー!だってもう…"脱皮"できないもん!)


一つ、ガルズガンドの脱皮は一日に数度と限界がある。既にガルズガンドは、商国に入った時の一回と赤騎士との一回で使い切っている。


故に、もう脱皮による進化は望めない。


(てことわだ、もしこいつの覚醒させた能力が…俺との相性”最悪”だったら…)


ガルズガンドには、対抗策がない。


「はぁー…ここまでしておいて、悪びれる様子もなく、本当に残念ですよ…」

「悪びれる?そんな必要がどこにある、俺はただ、依頼通りに旦那らを駆逐しただけ。悪いことなんて一つも…」

「ならば、この街の惨状をどう説明しますか。幸い街の人々の安全は確保されましたが、直ぐにこの街に戻ってくることは難しいでしょう。さらに言えば、商国の君主たるゴブニュさんを…貴方がたは殺しましたよね…なぜ…」

「”依頼”だったから、いや違うな…それは建前だ。”褒められる”から?いや、これは本音だがガキっぽ過ぎるか…でも実際、そんなとこだろ。人殺しなんてのは…」


ニヒツには理解できない、人を殺すことを仕事とする生き方。


ヒュースにも感じた、全く同じ違和感を、ニヒツはガルズガンドに投げかけた。


「”依頼”なら…”仕事”なら…”人を殺していんですかぁ!”」

「いいだろう、別に…」


当然、帰って来る言葉はあの時と同じ、そこに理由や感情は介在しない、ただ…”言われたからやった”それだけなのである。


「そうですか…やっぱり…あなたも…」

「何が疑問なんだ?普通でやしょう、白髪の旦那。だって、殺しが仕事ならそれを遂行する、料理が仕事なら料理を作る…何が違うんです?」

「…」

「その方法、結果もたらす事象は違えど、結局全部仕事、”死”ってのはある程度必要なんですぜ。だから戦争は起きるし、例え平和になっても…知らないとこで誰か”死”ぬ。それが嫌なら戦場になんて足を踏み入れなけりゃいい、何も知らず、何にも目を向けず盲目に普通の暮らしをすればいい。一つ忠告しときますぜ旦那…」


ガルズガンド、現在、その脳裏を覆い尽くす焦りを誤魔化すように、ニヒツの迷いを誘うように吐いた本日初めての格言。


「騎士である限り、戦士である限りぃ!…あんたは一生、”人の死にざまを見続けることになる”。嫌ならどうぞ、騎士も戦士もやめればいい、俺達”悪”から目を背けて関係ねぇーとこでのうのうと普通に働いて平和な世性を暮らせばいい。そうすりゃ旦那は血を見る事もなく一生を終えられる…」

「でもそれじゃ…誰も救われない。」

「そうですぜ、そもそも救うべき人間何てのがいる時点で、”平和”なんつー言葉がどれだけ嘘っぱちか…明らかじゃーありゃーせんか…」

「目を背けることで、得られるもの何てありはしない!」

「ありますぜ、背けてりゃー幸せが手に入ります。個人まりとした、あんた一人の幸せが…」

「でもそれじゃ…僕は満足いかないんだ…」

「なら、諦めやしょう、平和なんて…」


ニヒツのは再び否定された、自身の心の奥底に、信念として根ずく平和への妄信。


それがどれだけ浅はかで、愚かで、現実性のない理想論であるかを思い知らされる…


「それでも…」


だが今回は違う、ニヒツは諦めちゃいけない事を知っている。


諦めたら…もう立ち上がれないことを、ヒュースとの戦いで体感したからこそ…


今は、理想的で、現実性のない浅はかな妄言だったとしても…


「それでも僕は、皆が悲しみも、憎しみも、怒りも抱く必要のない”真”に”平和”な未来を…そのために僕は剣を振るうことを…僕の”騎士道”に誓う!」

「そうでやすか、そうでやすか、それは結構、しかしもう一つ、これが最後の警告でやす…それ以上先に進めば…”旦那も俺達”狂人”の仲間入りですぜ”…」

「上等…」

「なら、これを最初の一歩とするといい、俺程度の悪を倒せなけりゃー旦那の物語はここでおしまいなんでやすから…」

「なら…”遠慮なく”」


それは一瞬、進化し、マッハ1のリップの飛行速度を完全に上回ったガルズガンドが対応できない、いーや、認識すらできない圧倒的な速度の領域…


(これは!?やはり…)


想定するにその速度は現在…


(”マッハ20”)


ガルズガンドは確信した。


「渾!!!身ぃぃぃ!!!ん…」


ニヒツ、その速度のアドバンテージに自身の魔力を拳に全て集め繰り出す大技。


それをもろに喰らい、凄まじい速度で地面に叩きつけられるガルズガンド。


(やはりこの旦那…)


ガルズガンドの感じていた不安がこの瞬間、確信へと変わった。


(この旦那やっぱり!)


それは、決して起きてはいけないと、薄れる意識…


「ぐはぁ!」


抑えきれない血反吐と共に実感する、恐ろしい魔力。


(色ずいている…この土壇場で、器に…属性いろがぁ!)


そう、ニヒツすらまだ気づいていない、だが相対するガルズガンドには確実にわかる。


その魔力の色は緑、それの性質は恐らく…


(音速!)


ニヒツに宿った魔力は、音魔法の音速。


もしそうならば、ニヒツがこれを完全に使いこなし瞬間、ガルズガンドに勝ち目は無くなる…


なぜならば。


(そもそも俺は、魔術師タイプ、今は無理やり脱皮で進化したことで基礎身体能力も強化されへはいるが…隕石衝突並みのこのパンチに、音速の攻撃と移動速度が加わって俺を襲う…こんなの正直無理ゲーじゃん。)


ガルズガンド、今まで幾千の強者と渡り合ってきてついに折れる、ニヒツ・トリビライザと言う才能の原石の前に…


「でもそれを許してくれないのもさぁ~…お仕事の辛いところよねぇー…」


しかしガルズガンド、立ち上がる、ニヒツがそれを見て唖然としている。


確実に入った急所、確実に決めた一撃、無自覚だが上回っている速度…


どうしてそれでもこいつは立ち上がるのか。


「旦那、お仕事ってのはね、どんなものでも半端ってのが許されねぇー…だから大人は死ぬ気で頑張って立ち上がるのさ。”覚醒どんなりふじん”にもへこたれずにね…」


ガルズガンド、決めセリフを成功させるが、ニヒツは無慈悲にもガルズガンドを今だ扱い切れぬその力で一気に殴り倒す。


「これ…やばい…」


ガルズガンド、立ち上がって立った一秒足らずで再びその身を地面に落とす。


ここでお気づきだろうか、ガルズガンドにはさっきまであって今は無い力がある。


それは”分身”である。


(赤騎士ちゃんが俺の分身に必要な細胞を全て撃ち殺したせいで、もう俺は本体以外で戦えねぇー。まったく、次から次へと、俺の力がそがれて行っているねぇー。)


ガルズガンドとの今までの戦い、脱皮して彼女に勝ったことで全て無駄になったと思っていたが、無駄ではなかった。


今までが無ければ、ニヒツの今の状況はもっと熾烈を極めただろう。


「どうしました、先ほどのように分身を使わないんですか?脱皮で僕に適応しないんですか?」

(!?)


ガルズガンドに激震走る、ニヒツが自分の弱点に気づいている。


魔導士タイプとなり基礎身体能力、魔力ともに強化されたガルズガンドのその姿を目の前にしてなおそれを確信している。


(手の内が数個ばれてる、こうなったら”もう一つ”の武器を使うしかない…)


ガルズガンド、自身の心を読まれ動揺するも、切り替え次の手に打ってでる。


「【喰らえ】」


その言葉と共に、地面は一瞬にして凍り付き、ニヒツの足を凍らせ身動きを封じる。


「この程度!」


しかし、ニヒツはその攻撃を容易くけ破って見せる。


「旦那ぁ~」

「はい?」


ニヒツに声をかけたガルズガンド、その返答に迷うニヒツ。


しかし、その瞬間、その一瞬…ニヒツの意識がガルズガンドに向いた瞬間。


「【大蛇之巣穴ニードゥス・ヨルムンガンド


自身が立つ大地の全てが、”這いよる蛇”へと姿を変え、目の前にはその親玉であろう…”大蛇”の姿が…


(しめたぁ!)


ガルズガンド、一瞬の隙を付き、その手の平をニヒツに向けて氷漬けにしようとする。


(ガシ!)


「’あ’ま’い’…ですね…」


ニヒツがそう言うと、地面の蛇も目の前の大蛇も姿を消し、ニヒツはガルズガンドの手首を持ち止めている。


「なんでぇ!?」

「さぁー…なんででしょう…」


ニヒツはガルズガンドに隠していることがある。


この状況で、ニヒツだけが知り、ガルズガンドが決して知るよしもない”能力”…


侵心ジャック


侵心ジャックは、相手の頭の中、引いては心の中をかってに覗き見たり、その意志に干渉する能力。


すなわち、この手数がもの言う心理戦に置いて、相手の頭の中の全ての情報を探れるニヒツは…


”圧倒的有利”。


(ガンドさんが策略家で良かった…事前に考え、演じ、騙し、手数を隠して披露する…そんなガンドさんだからこそ、僕の侵心ジャックがよく効く。アグリオスさんのような、野性的な直観型の戦闘方法を好む人であったのなら、ここまで上手くはいかなかっただろう…。)


ガルズガンドの弱点、それはアグリオスやリップらと違い、ガルズガンドは事前に行動を考え、その場の状況を判断して行動を制限し、土壇場で隠していた一手を披露し大逆転するタイプの魔法使いであったこと。


故に、アグリオスら直観で動く者よりニヒツの有する侵心ジャックによる”思考盗聴”の効き目がよかったのだ。


さらに…


(なら次は…)


ガルズガンド、負けじと次は不得意であるはずの近接に挑む。


「ふん!」


当然、近接であればニヒツに武がある。


しかし…


「残念!俺の体は蛇なのだぁ!」


ガルズガンドの体は無数の蛇で構成されており、打撃が通用しない…


しかも…


(ガブ!)


「う!」


ガルズガンドの飼いならす蛇には、凄まじい猛毒を持つ者がいる。


それを利用し、ニヒツが打撃を失敗させた隙を見て無数の蛇で噛みつき毒を移させる。


「シャッシャァ!どうする?どうする旦那ぁぁぁ!!!」


「こうする…」


ニヒツ、その右手を中心に半径4メートルの球体状の魔力、魔球拳を発生させ、目の前のガルズガンドを噛みついた蛇ごと木っ端微塵にしてしまう。


「うわぁぁぁ!!!俺の…俺の体がぁ…」


ガルズガンド、先ほども言った通りすでに手数が無く瀕死、前の戦いの様に分身はもう作れない…


(この肉体が滅んだら…しまいだぁ…)


ギリギリ逃がした蛇の数億体で体を形成、しかし当然本体を構成する蛇がニヒツに倒されたため、残りの蛇だけでは完全な肉体は形成できず、結果として”小さく”なることを余儀なくされる。


「小人族の国です、その姿でも十分暮らして行けますよ。どうですか、もう戦いはやめにして、ここで平和に暮らすのは…」

「シャー…シャ…そうしたいのは山々なんだが…こっちにも、”任務”があるんでね。」


構築された肉体では不完全な幼児体系にしかならず、ガルズガンドここにきてとてつもない弱体化を余儀なくされる。


「そういや旦那?毒は…」

「あれ?言ってませんでしたっけ…」


ニヒツ、ガルズガンドの質問にとぼけたような表情でこう告げる。


「”僕の魔球拳は、自分以外の指定した対象のみに攻撃される技です。”」


(そんなぁ…)


その言葉で、ガルズガンドは理解した。


ニヒツの課したリスクとリターンは、攻撃が当たる対象を限定すること。


どれだけ強い打撃を加えても、ニヒツが指定していない対象には攻撃は一切届かない。


つまり、ニヒツが自身を魔球拳で自爆させても、ニヒツには無傷で、体内に侵入した毒と、周囲の蛇だけが爆発の衝撃に巻き込まれ周囲に飛び散る。


「シャシャ…そうかぁ…」


ガルズガンド、ここに来て悟。


蛇之一団ザ・スネイクウォー


それは氷で作られた無数の蛇、しかしその量、大きさともにかつての比ではないほど非力…


「この程度…」


当然ニヒツは全てを一瞬で捌き、ガルズガンドの背後に一瞬で移動し…


「諦めてください…」


その首筋に刃を突き立てた。


「諦める?それいいねぇーーー!!!」


(!?)


その言動から、明らかな異変に気付きつつ、ニヒツは侵心ジャックを使い探りを入れようとするがしかし…


(読めない…)


ガルズガンド、悟りの末、”思考停止”を選択する。


そして刃を突き立てられたまま、その場で目をつぶり、静かに眠る。


「俺さぁー…めんどくさいの嫌いなんだ…」


その言葉、本心、思考を介さずして漏れ出た心の叫び…


「だからさ…もう全部諦めようと思うんだぁ…」


その喋り方、どんどんと幼く、その内容、どんどんとおざなりに…突如として幼児化を始めるガルズガンドにニヒツは困惑する。


「だからさ…」


直後、ニヒツ、一瞬見た。


ガルズガンドのやろうとしていることの真相…


(まずい!)


ニヒツ、剣をおさめ急ぎその場から離脱を試みる。


(速く!)


速度は音速、空中で四角い足場を形成する魔法【四角形キューブ】を使用し、急ぎこの商業国内から脱出しようと猛ダッシュする。


「シャー!シャー!…さぁー旦那方…一緒に眠ろうや…”永眠えいえんに”」


ガルズガンドの最終奥義、それはこの街全域に及ぶ絶対零度の銀世界。


無差別な超範囲凍結、その対象には自身も他人も全て含まれ、周囲ごと自身を冬眠状態する大技。


永久冬眠ドルミーレ


ニヒツ、最後の一瞬、速度マッハ100に到達していたその速度で、最短距離を計算し、上空に舞い上がって逃げようとするが…


この商業国に張られた結界にぶつかり済んでのところで…敗北。

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