第五十一話 迅雷
両者の殺気は、赤い烏と歪な何か。どちらも赤、血赤と赤黒。その両者の小競り合いに誰かが入る余地は無い…
「まっいいや、で?お姉さんがベスルだけど、なんの用?」
「「は?」」
「「はぁーーー!!!」」
モンブランとドクターは、せっかく隠し通そうとした正体をいとも簡単にバラしてしまったからだ。
「君って奴はー!」
「あっあのぉ〜」
そんな中、モンブランが苦い顔をして手を挙げた。
「はい?なんですかなマドモアゼル。」
「えっえと、その…アローぺクス様はあの国長様の側近にして、この街の修道長様のあのアローぺクス様でしょーか…」
「はい、良くご存知で…」
そこにいたのはなんと、この都市全体を仕切る聖貴族直かつの修道会の長にして、国長の現側近。アローぺクス・レッドクローであった。
「えーーー!!!」
モンブランは、あまりの驚きに腰を抜かした。
「どうされましたかな?」
「いっいえ、あの…そのえっと…」
「よろしければ、話を続けても?」
「はい!もちろんです。」
「…」
ベシルは、モンブランのアローぺクスと言う男への反応に少し怪しさを覚えていた。
「では、お話の続きを、本日ジェリーコーポレーション社長。その御令嬢であらせられるセイラ・ジェリー様がこの商都内に入られました。お父上様から事前に連絡はお受け、お忍びでお買い物を楽しまれたのち国長様とお会いするご予定でした。」
「あ〜それで?」
「本日午後6:00分頃、国長様が…姿を消しました。」
((!))
その言葉は、その場の全員を驚愕させるに至る理由であった。
「…国長…ゴブニュがどうしたって?」
「そんな顔をなさるんですね。世界最凶の大犯罪者でも…」
「あ"…」
すると、再び歪な何かはベシルの睨みつけるような視線と共に周囲を覆う。
「ふふ、失敬しました。非礼をお詫びします。申した通り、突如として姿を消したのです。客人を見送ったその後に…」
「客人?それは白髪の坊やと全身刺青のハンチングマンだったりする?」
「左様でございます。そのお二人と対談されたあと、国長室に入られたのは確認しているのですが…」
「国長室にはカメラは無いのかい?」
「はい、国長室と応接室には情報漏洩を避けるため、監視カメラは置かれておりません。なので我々が確認できているのは、応接室を出て国長室に入って行くまででして…」
「その部屋に、ゴブニュ以外に入れる人間は?」
ベシルは、グイグイとアローぺクスを問い詰めていく。
「側近であるわたしと、王の5剣が一人ラモラス・ランサードール様の二名にございます。」
「で、その王の5剣の奴は調べたのかい?」
「それが…」
アローぺクスは、その言葉のあと言葉を濁した。
「何かな?」
「数日前から消息を絶っております。」
「は?」
ベシルは、思わず声が漏れてしまう。
「それじゃ、いなくなったそいつがやった可能性だってあるじゃねーか。それに、こんなとこに遥々足を運んできたあんたも…容疑者の一人なんだぜ…」
「そうですね、確かに本来は我々二人を疑へばいいだけのこと。本来はそうでした…」
「本来?」
「それはどう言うことかな」
ドクターとベシルは、煮え切らない彼を急かす。
「本日午後6時頃、ゴブニュ様の失踪と同じタイミングでこの商都に白いローブで身を隠した四名の侵入者が現れました。」
「侵入者…目的は?」
「わかりません、しかし彼らに帰国命令を出した騎士団全員がこの時期に珍しい凍てつく氷の中で発見されました。」
「素性は?一体何者なんだね」
「あらゆる部署に掛け合って五大国中のデータを調べましたが、国籍は愚かその経歴も一切不明。しかし、騎士団を一掃するだけの戦闘能力。そして、五大国最強の感知魔法を誇る騎士団長ホーク・リヒルの鷹目の包囲網を掻い潜るだけの技術。それだけでも十分すぎると言うのに、もう一人の剣を持った男は予備動作無しで一瞬にして剣を抜き、剣撃かはたまた魔法なのかは定かではありませんが上空にいたテレビ局のヘリを撃ち落としています。」
「メンバーは四人だったか…つまりは、それだけの実力を持っている奴らが四人いるってこったな。」
「はい」
「正体不明の襲撃者…しかも非戦闘員で、騎士団長クラスかそれ以上の実力を持つ者達か…かなりまずい状況だね。」
皆は話しをまとめ、ベシルは結論を出した。
「で!あんたらは俺らに何をして欲しいわけ?」
「ご協力をしていただきたく本日参りました。」
「協力か…俺らに見返りは?」
「…」
「冗談だよ、冗談。んなもんいるんだったらはなっからこんな運命引き受けちゃいねぇーさ。」
「本当に、なんでもかんでも貴方様に背負わせるのは、我々としても不本意なのですがね…」
「いいさ…なんとかする。この俺がな…」
ベシルは、そう言って扉を開けて姿を消した。
「行ってしまわれた…」
そして現在…
「つーことで、取り敢えず班を分けます。本人の了解なんてのは気に出しません!」
「そっそんなふざけたことがあってたまりませんわ!」
「はいはい、我儘はそのくらいにしてお嬢様。」
「わっ我儘ですって!大体なぜ国長様が殺された一件がわたくしに関係するって言うんですの。」
「確かに、それは何故…」
「はいはい、そんなこと説明してる暇わねーのよ。とにかくキッド様とスターくんはセイラちゃんの護衛ね。お姉さんとドクターちゃんそれとタトゥーは、その四人の行方を追う。アローぺおじ様は…」
「騎士団の包囲網を駆使し、精一杯常緑いたします。」
こうして班はセイラをの護衛をするA班。侵入者を探すB班。そして、アローぺクス率いる騎士団達に分かれて捜索を始めた。
「くれぐれも警戒してくれたまえよ。彼らの力は未知数だが。騎士団長とためをはる実力者なのは間違いない。君達だけでは正直心配だ、だから今回は護衛役として一人助っ人をつけて置いた。少し遅れているようだから先に行ってもらってくれて構わないよ。」
「「助っ人?」」
「はいはい、とにかく気おつけてってこと。それとキッド様。」
「はい?」
ベシルは、任務に向かおうとする間際、キッドに一つ筆問をした。
「あのさ、ずっと気になってたんだけど。おばあちゃん、おばあちゃん言ってけど、キッド様のおばあちゃんってなんて名前なの?」
「名前…たったしかにそうでしたね、僕のおばあちゃんの名前は」
「名前は…」
「アリス・トリビライザと言います。」
ベシルは、その名を聞いた瞬間。瞳孔が開く。
「本当にいい祖母でした。今の僕があるのは祖母から教わった10の教えがあったからで」
キッドは嬉しそうに祖母のことを語り出す。
「一つ、夢を持ちなさい。二つ、紳士でいなさい。三つ、素直でいなさい。四つ、心に正直でいなさい。五つ、信頼を勝ち取りたくば行動で示しなさい。六つ、力は人を守ために奮いなさい。七つ、人に寄り添ってその人の言葉にしっかりと耳を傾けなさい。八つ、人の痛みのわかる子になりなさい。九つ、間違えて上手くできないことがあるなら出来る様になるまで挫けずに続けなさい。…十つ、ずっと優しい子でいてください。…それがおばあちゃんの教えの全てでした。」
キッドの嬉しそうな顔は、少し曇った。それは、祖母が素晴らしいことを思い出すたびに脳裏をよぎる。死ぬ間際の姿、そして自身の弱さが目の前の大切な人を助けられなかった、守りきれなかったことへのいきどおりからくるものだろか…
そんな時、ベシルは悲しげな表情を浮かべるキッドの頭にぽんと手を置き。
「良いおばあちゃんだったんだね…」
「はい!」
ベシルの母性溢れる優しい目を見て、キッドはいつも通り元気に答えた。
「…やっぱり、俺じゃ無くて良かった…」
「え…」
しかし、その言葉の後に目の前にいるキッドが耳を澄ませなければ聞こえないような小さな声でボソッと口に出した一言が、キッドを再び困惑させた。
「いや、な〜んでもない。それだけだよ、それじゃ頑張ってねぇ〜」
「はっ…はい…」
そう言って、いつも通りのいたずらっ子のような楽しげな笑みを浮かべて去っていくベシルの背中からは…どこかいつもとは違う寂しさを感じた。
「おう!とにかく行こうぜ兄弟!」
「…そうだね」
二人は、取り敢えず定められた目的を果たすため。セイラと共に夜道を歩き出した。
「つか、護衛つってもどこまでやんだよ。」
「セイラお嬢様は、この国に観光に来られたそうです。なので、その間の護衛と言う訳でしょう」
「へ〜つか、こんな夜更けに何しよーってんだ。お嬢。」
「なんでも良いでしょお、あなた達には関係のないことですわ。」
「へえへえ…」
「あはは…」
セイラはそう言いながら、歩み出したたどり着いたその場所は…
「なんだ、この古臭い店?」
「お黙り!まったく、物の価値のわからない下民はこれだから…」
ーーーーギャングストリート 古本屋ーーーーー
そこは、酷く苔むした。建物の周りを雑草が囲うような古風な古本屋。
「ここならきっと…」
「ここなら?」
その店の、当てつけの悪い扉を擦れるようなギーと言う音共に開く。
「ごめんくださるかしら」
そう、少し声を張って言うセイラ。
(し〜ん)
しかし、セイラの声とは裏腹に、返す声は聞こえず…
「ほ〜らな、こんな廃墟見たいなボロ屋に人がいるかよ。俺ちゃんの勘はよく当たるんだ。」
「くぅ〜お黙り!お黙り!お黙りなさい!!!この下狼の獣。」
「はぁ!テメェ、今何つった!」
二人は、犬猿とでも言えようか。中の悪さをキッドの前に見せつける。
「こーらお二人とも、喧嘩はやめてください。お嬢様、お怒りはこの場の本にも毒ですし。せっかくの植物が、汚いことばで枯れてしまいますよ。彼に謝ってください。」
「ふん!」
「そうだ!そうだ!謝れバー…」
「スターくんもです。」
「え〜そりゃねぇ〜ぜ。兄弟」
そんな二人を仲裁するキッド。
「ほほ、久々に若人の声を聴きました…」
奥から現れる、恐らくは店の店主であろう男の姿。
「あなたは…」
「ほほ、やつがれの名はマリオネット・セシルガーネット。以後、よろしくお願いたしますだわ」
店主は訛り混じりではあったが、丁寧に挨拶をして会釈した。
「こちらこそ、ところでご老人。あなたは妖精族ですよね。」
「いかにも」
「そっそうなのか、なんでわかったんだ?兄弟」
「耳ですよ、耳。」
「耳?」
キッドは、そう言って自信の耳を指す。だが、スターはピンと来ていない。
「あなた、そんなことを知りませんの?」
「なっなんだよ!悪りぃ〜か」
「悪いですね。良いですか?この世界には現在、五つの種族と五つの国家が存在しています。ジュエリー帝国に住まう妖精族。今私たちがいる、ギア商業国に住む小人族。そして、我が偉大なる海の地リール貴族国と海翼族。現在最強の種と名高い獣人族の国、サルビア部族国。最後に…」
その言葉に、セイラは詰まった。
「どうした?」
「いえ、こちらの話ですわ。現覇王…"あの男"が気づいた国。人間族の国、新生ラスター王国の五つ」
「あー、それはわかってるけどよ。それと耳となんの関係があるんだ?」
スターは、今だ話の系が分からない。
「話は最後までお聞きなさい。それら五種族に共通の違いがあるのです。それが"耳の形"です。」
「耳の形?」
「ほら、店主様をご覧なさい。」
「ん?」
スターは、目の前の店主の耳元へ視線をやった。するとスターはある違いに気づいた。
「耳が…長げぇ〜」
「そうですわ。妖精族は長寿の一族、しかし人間族と瓜二つのため見抜くのは困難です。しかし、そんな両種族の唯一の違いが耳の形。妖精族は耳が横に長いのです。それに対して人間の耳は突起が少なく丸い耳をしている。ちなみにここに住む小人族は四角い耳をしています。獣人や海翼はそもそも外見が同種族間でも異なるため一概には言えませんが…」
「お〜確かにー!テメェ、頭いいんだな。見直したぞ!」
「いえ、これ常識ですわよ」
「え?」
「そうですね、学校に入学する前の僕も。これくらいは…」
「なっなんだよー!知らないの俺ちゃんだけかよ〜」
「いやいや、シロムくんはずっと森の中で文明から離れて生活されていたんですから、当然ですよ。」
「やっぱり、田舎者じゃない。」
「んだぁとー!」
「ほほ、元気のよろしいことで」
三人の若々しく血気盛んな姿に、店主は微笑んだ。
「ところで、何をお探しに来たのですか」
「はい、獣人族の英雄ローウェン・ルーシャス・フッドの冒険はありますか?」
「ローウェン・ルーシャス・フッド?」
それは、かつて獣人族の英雄。かつて、弱肉強食と言うたった一つルールの中で部族を分けその長になるためにも、そして他部族を従えるためにも暴力と言う手段のみしか持たなかった当時の獣人族の社会で。弱きものを助けて強気を挫く、そんな義賊の理想像を体現したような彼の伝説は瞬く間に世界に広がり。いつしか、種族の風習に反旗翻す愚か者だった彼は、革命の英雄と呼ばれたその男の本をセイラは探しているようだ。
「革命の英雄、ローウェン。僕も昔おばあちゃんに呼んでもらった事があります。でも、なぜローウェンの本を?」
「それは…」
そう、海翼族は気品と気高さ。そして高貴なる者を真っ当にする海翼族、しかもその貴族の彼女と。武力や自然、狩などを誇りとする獣人は気品とはかけ離れた泥臭さを持っていて相入れない関係のはず。しかし、彼女は胸に手を当て…
"「安心しな、クラゲの姉ちゃん。オレさまが死なねぇーのは、未来の伝説が語ってる。だから、ぜってぇ〜負けねぇーし、ぜってぇー助けっから…」"
たった一人の、男の背中。
「あなた方に語る必要はありませんわ。」
そう言ってセイラは、頬を赤らめて誤魔化した。
(ビリビリ…)
(!)
その瞬間、キッドは肌に感じた痺れるような閃光の魔力に反応し。
「皆さん、ふせて!」
(ジャキン!)
その言葉の後、閃光の刃が店の中央に走る共に、店を真っ二つにわり。その切れ目からは、紅蓮の炎が燃えたぎる。
「また会ったな…キッド殿…」
「あなたは…」
その瞬間、キッドは腰の剣に手を当てて。
「スターくん!セイラさんを頼みます。」
「おっおい!」
「一刀流・卯月流!」
「迅…」
構えられた二人の剣は…
「鏡開き(ミラザー・オープン)
回転を伴った突風と…
「雷」
雷鳴を纏った紅蓮の炎のとなって。
(ダン!)
衝突する…
「「ゲホォゲホォ!」」
その衝撃が、あたりの砂をかき乱し。セイラとスターはその中で咳き込む。
「なんだよいきなり。大丈夫か、キ…」
その名を口にしようとした、スターが見た者とは…
「キッドーーー!!!」
ぼろう雑巾の様になったキッドの姿だった。




