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第二十一話:誤解

 

 目を覚ました時見た景色は、意識を失う前と同じものだった。

 私を庇うカミルさんに治療するレオさん、龍を親の仇とでも言う様に憎しみの目で見つめるギル。

 対する龍も、私が倒れたことに動揺している様で、しきりにこちらに視線を送っていた。


 だから、私の様態にいち早く気付いたのは龍だろう。

 私に背を向けているギルさん達と違って、私の顔を見やすい。目を開けたのに気付いた龍は、こちらに駆け出した。


「行かせるかよ」


 ……のだが、敢え無くギルが放った一振りに止められてしまった。いや、おかしいだろ人体構造的に。残像見えたぞ。

 というか私は起きているので無意味な争いは止めていただきたい。レオさん、貴方下見れば私が目を開けてるのに気付くのになんで龍の方見てんですかちょっと。止めてくださいよ。


「あの、私起きてるんですけど」

 この雰囲気に耐えられそうになかったのでカミングアウト。全員の視線が一斉にこちらを向いた。

「私、何秒ぐらい寝てました?」

 そう聞き起き上がろうとすると、思いっきり手で制された。


「ちょっと、まだ起きないで!」

「寝てろ!」

 二人して酷いのではないか。体を押し倒され、思いっ切り床に頭を打ち付けた。ハンカチが引いてあったからまだマシだったが、地味に痛かった。


 元お姫様をこんな雑な扱いするなんて、ぷんぷん、と若干どころかかなり気持ち悪いことを考えていると、神速で近づいたギルさんが目の前に。

 ……うわ、真面目に反応できなかった。やっぱり人間じゃない。


「……異常は」

「無きにしも非ず、ですかね」

 そういうと、元からガラの悪い彼がさらに凶悪になった。懐のポーチから何かを取り出すと、一言。


「帰んぞ」

「え」

 ちょっと待って頂きたい。その台詞を聞いて龍が固まっているし、私もここで帰るつもりは毛頭もない。


「私は残りますけど、貴方が帰りたいのならお一人で」

「巫山戯んなよ」

「此方の台詞です」


 ギルと睨み合う。バチバチと火花が飛んでいる気がする、何これ怖い。

 だがしかし、ここで引くわけにはいかない。主導権はあくまでも此方だということを、骨の髄までわかる様に教え込まなければ。


「貴方が私を心配しているのはわかりますが、今の過失は私を守れなかった貴方にあるでしょう。自分が失敗したからといって過失を押し付けるのは良くないと思いますが?」


 何言ってるのこいつ、と普通なら思う文面だろう。守られる側の癖して、と。

 だが、私は守られたいなんて一言も言っていない。屁理屈だとは思うが、私を守りながら戦えると言ったギルのその自己評価が間違っていただけだ。……まぁ古代龍だのなんだの言っていたから、ボスなんてものに収まりきらないと思うが。

 そして私は、今起こったことを半分は理解できる身として、それほどの危機感を感じていない。

 龍は私に忠誠を誓っただけで、私が倒れたのは『呪い』の所為だ。そして、このレベルの迷宮なら、一人でも魔物を狩るぐらいはできると思っている。


 だから、


(私にそんなこと言わないで)


 誰かのものになるのは嫌。裏切られたら終わりだから。

 誰かに従わされるのは嫌。自由でなんていれないから。


 でも本当は、縛られたい?それは愛されてる証だから。

 本当は、誰かに従いたい?それは縋れる人がいる証だから。


 この感情は、表裏一体。

 裏切られる恐怖と、愛される充足感を得ること。

 自由でいることと、安心できる場所があること。


 どちらを取るかは人それぞれだが、大抵は後者を取る。人は側に誰かがいないと簡単に崩れてしまうから。

 けれど、そんなことでは崩れないくらい強かったら?強いくせに、一人でいるのが寂しいと思ってしまうお馬鹿さんだったら?


 黙りこくったギルと私に、周りはまだ何も言えない。


「あぁ、しくじりました」

 心底、という思いでそう告げた私にギルが怪訝な顔を向けてくるが、それ以上口を開かずにまた黙る。


 あそこで彼らについて行かなかったのは間違いだったかもしれない。結局、私は『姉様』がいないと生きていけない様だ。


(早く迎えに、きてくださいね)

 そう思いながら、首のチョーカーを撫でる。その下に隠されたのは、禍々しい黒ずんだ痣。かけられた『呪い』で、『姉様』の『執着』。


 そっと息を吐き、この話はもう終わり、という様に背を向けると、ギルが諦めた様にため息をついた。


「心配かけてすみませんね」

「全く」


 緊迫した空気を解くと、レオさんやカミルさんが息を吐く。あなたたちにも謝っておきますね、ある意味一番の被害者……いや、それは龍か。

 そう考えながら龍に向き直る。それは忠犬の様にこちらを見つめていた。


「貴方も」

 ごめんなさい、と伝えると、龍は目を伏せる。ついでに甘える様にしなだれかかった。地味に重い。これから状況説明するから退いて欲しいんですが。


 ぺしぺしと頭を叩くと、名残惜しそうにだが離れてくれた。よし、と頷くとまたこちらに頭を刷り寄せてくる。違う、近付いていいよって意味じゃない。寂しがりやですか貴方は。


 ぐいぐい、と今度は強めに押し退ける。ついでに神速で隣に来ていたギルさんが全力でぶん殴ってくれた。ちょっと龍さん大丈夫ですかよろめいてますけど。そろそろギル伝説作った方がいいと思う。


「物凄くツッコミたいけど言っても意味ないよね……龍に同情するのは二回目だよ」

「あり、二回目ですか」

「そうそう。またあの子の話になるんだけどさ、龍に気を引かれたいがために卵奪ってたからね。それも毎日」

「えげつな」


 あの子、というのはレオさんが前から言っていたマッドサイエンティストの事だろう。あの人もキャラが濃い。そんなんじゃいつか死ぬぞと言いたいが、全くしにそうにないのが腹立たしい。


「場所を移しますか。私たちは誤解をしているようです」


 ぱん、と手を叩き告げ、歩き出す。確かこの先開けた場所があったはずだ。

 私たちは歩き出した。

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