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第八十五話 告白

 パーティー当日は、本当に嘘みたいな人出でごった返していた。

 どうやら、私たちの関係者だけでなく、久しぶりに私がパーティーに参加をする、ということをどこからか聞き付けたらしい帝都在住の貴族たち、それに、近隣の地域の有力者たちもが、我も我も、と押し掛けてきたらしい。

 君たち、相当、暇だねー。

 そんなことをついつい考えてしまう。


 さすがに、これだけの規模になると、完全な警備は難しい、ということで、一応、専属のボディガード二名が、私につけられた。

 まぁ、私には不要だとは思うけども、一応、ということらしい。


「ルシフ様、よろしく、お願いします」


「こちらこそ、お願いしますね」


 きびきびとした軍人たちで、なかなかに頼もしそうだ。

 そして、警備の者を引き連れて、会場に入るや否や、多くの人々に囲まれて、私は次々に挨拶を受ける羽目になった。


「ルシフ様、本日もおかわりない美しさ」

「ぜひとも、私の領地においでいただきたき、歓待させていただければ、と」

「ところで、以前お話があった、経済貿易推進の話なのですが、私の都市のギルドのものが……」


 次から次へと話がふられてきて、本当に忙しい。

 今まで放置してきたことのツケが回ってきた感じだ。


 それらの応対をこなし、一息ついたところで、今回のもう一人の主役、ケイメル王子を視線で探すと……あ、いた。

 少し遠くだが、会場の中央あたりで、こちらに負けないくらいに、人だかりができている。

 ただ、私の方が老若男女、様々な人たちに囲まれているのに対し、あちらは、若い女の子ばかりに囲まれているようだが。

 まぁ、来期には独身の国王になるのだから、ある程度身分が高い貴族の娘たちとしては、自分を売り込むのに余念がないのかもしれない。

 そして、よくよくみると、隣で副官としてケイメルに侍っているヒューリにまでも、なぜか、それら女の子たちが、楽しげに話しかけている。

 あ、今、あの女、ヒューリの、二の腕を触った!


 私は視線で人が殺れるのではないか、というくらいにチリチリとヒューリへと視線を送ってみた。


 私の怨念というか想いというか、そういった何かの電波が伝わったのか、ヒューリがぶるりと一つ震えると、恐る恐る私の方へと視線を向けてきた。

 その顔がひきつっている。

 ……まぁ、これで、ヒューリのやつも、この会場内では気を引き締めることだろう。

 あいつには、よくよく、自分の立場というものを後で教え込んでやらないとな。うん。


 さて、ある程度、人を捌いたところで、今日のメインのお客様である、ケイメルへと挨拶をすることにする。

 いつまで避けていても進展はしない。


 心のざわつきを軍隊時代に習った鼻から空気を吸って口から吐き出す、独特の呼吸法を使い、気息を調え、冷静な頭へと切り替える。

 そして、胸を張り、堂々とケイメルの方へと向かう。


『伏せろ!』


 と、突如、使い魔のスーナが叫んだ。

 私は反射的に地面に伏せると、両手で、頭を庇う。


 次の瞬間、部屋内に轟音が撒き散らされた。


 ……しばらくして、音と衝撃とで、朦朧とした意識の中、ふらりと立ち上がる。

 どうやら、閃光弾だったらしく、身体にダメージはないが、回りの人間たちは皆、朦朧としている。

 そんな中で、私の方に向けて、銃を突き付けている人影が視界の端に入る。


 くっ!


 咄嗟に体を捻り、銃口から身を避けたものの、腕辺りに、焼けるような、熱さを感じた。


 避け損なった!


 私はその衝撃で、地面に吹き飛ばされてしまう。

 痛みのため、魔力を集中できない。

 そんな中、顔をマスクで覆った冷静な暗殺者は銃を投げ捨てると、事前に用意をしていたもう一丁の小銃を構えた。

 律儀なことに、弾込め済みの銃をもう一丁用意していたらしい。

 ここまで、周知徹底できるのはさすがプロだな、などと冷静に観察する。


 ……私は全身の力を抜き、死神が私を連れ去る瞬間に備える。

 あぁ、最後は呆気なかったなー。

 こんな状況だが、割りと後悔はない。

 私はどうやら、この人生に満足しているらしい。

 こんなときだというのに、私は口に微笑みすら浮かべる。


 皆、ありがとう。


 ……と、いつまでたっても、私に死神の鎌は振り下ろされなかった。


 ふと、顔をあげると、私の目の前では、背の高い男性が、私の楯になるかのように、仁王立ちをしていた。

 その背後に声をかける。


「ひゅ、ヒューリ!」


「無事かルシフ!」


 脇の辺りから、すごい量の鮮血が溢れでている。


「……あ、あ」


 私は言葉にならない。


「……」


 目の前で、警備の騎士たちに取り押さえられようとしてた暗殺者が、何か一言詠唱をした。


 そして、次の瞬間、暗殺者の身体から炎がまき上がり、紅蓮の炎に包まれる。

 証拠隠滅か。

 本当にプロだな。


 ……しかし、それよりも。


「ヒューリのバカ! あんた、なんでこんなことを」


 崩れ落ちるように地面に横たわったヒューリへとすがり付く。

 もう、腕の痛みなんて気にならない。


「……お前は無事か?」


「うん。私は大丈夫」


「そりゃ、よかった。パーティーの、主役のお前になにかあったら、俺としても、その困る」


 顔を歪めながらも精一杯笑みを浮かべるヒューリ。


「あー、どうやら、僕はこのまま立ち去った方が良さそうかな?」


 近くによってきたケイメルに視線を向けるが、私はもう返事をする気力さえない。


「ルシフ。しっかりしろ。おい、お前たち、この方々を運べ! それと、おい、お前、証拠を徹底的に調べておけ!」


「はっ!」


 リーゼのきびきびとした指示に部下たちが次々としたがっていく。

 私は右往左往するだけだ。


「はぁー、ルシフ。君も、もう少しこういうときには、素直になった方がいいぞ」


 後ろの方から、カレンが声をかけてくる。


「……素直に?」


「そうだよ。ルシフ。こういうときに、君は心のそこから、何か言いたいことはないのかな?」


「……」


 目をつぶり、頭のなかに浮かんだ、素直な感想が口をついてでる。

 痛みや、興奮で、どうやら、普段ならば、押さえつけることができている生の感情というものが出てしまったらしい。


「……ヒューリ。愛している。だから、死なないで……」


 私はヒューリにすがり付いて、泣きじゃくった。


次回は、5/31(木)更新の予定です。

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