第八十三話 中庭における王子からの秘密の告白
「えっ……。ちょっ……。あ、あのー、こっ、困ります」
私はちょっと困った風に上目使いで、リットリナの次期国王であるケイメルを見つめた。
ケイメルは最初の挨拶で、会って早々、二人きりで中庭を散歩したいとか強引なお誘いをかけてきた。
今は、その誘いを全力で丁重に断ろうと奮闘をしているところだ。
しかしケイメル。予定にない、アドリブを仕掛けてくるのが早すぎる。
「あぁ、すみません、ルシフ皇女。あなたのような美しい方に初めてお会いし、どうにか、あなたのことを少しでも知りたいと出すぎてしまっております」
「あぁ、それならば……」
「だけど、聞けば、私たちは同い年だとか。隣国の我々が、今回このようにお会いできたのは神の采配と言うべきもの。次世代の我々の国の繁栄の礎を築くためにも、ぜひともルシフ皇女とお話をさせていただく、その機会を賜りますように」
またの機会にしましょうと逃げようとした矢先、いきなり、ケイメルが私の前でひざまずき、手の甲へとキスをしてきた。
「……でしたら、条約への調印式は事務方にて、済ましておきますので、その間、若いお二方には中庭の方でお過ごしいただければ、と」
隣に侍っていた文官が気を効かせたつもりなのか、余計なことをしてくれた。
しかも、私に向けてウインクまでしてくれた。
おい、貴様。
「え、あ、あー、リットリナの方々は他の用事等でお忙しいのではないですか?」
そういって、私は一縷の望みをかけてケイメルの従者たちに声をかけてみる。
ここには残念ながら、私の心強い味方であるヒューリがいない。
今は隣室で、調印式の準備をしているはずだ。
もしかして、ヒューリがいないこの瞬間をケイメルは狙っていたのではないだろうか。
その顔を見てやると、邪心がないような無垢な笑顔をこちらに向けてくる。
この顔は絶対に狙ってやっているな。
「ご安心ください皇女殿下。事務の仕事はこちらで片付けておきますので」
くっ……。
そんなこんなで、結局、ケイメルと二人きりで中庭を回ることになってしまった。
う、う、胃が。
◆◇◆◇◆◇
「こんなの予定になかったわよ」
「おやおや、ルシフ皇女殿下とは、初対面のはずだったのでは……、って今は監視はいないのかな。いやー、久しぶりだねルシフ」
そういって、ケイメルはフランクに抱きついてきた。
「ちょっ、離れなさいよ。誰かに見られたらどうするの! ……はぁー、ほんと、あんたといると疲れるわ」
私はやるせない思いに駆られながら、ケイメルを引き剥がすと、中庭のベンチに腰かける。
「つれないじゃないかルシフ。せっかくこうして、二人きりになれたというのに」
間髪いれずに隣に座ってくるケイメル。
しかも自然な感じで、私の手の甲に手のひらを添えてくる。
その甘いマスクと合わさると、この私でも少しドキドキしてくる。
くっ、この無駄にイケメンなところが腹立たしい。
昔はもっと可愛いげがあったはずだったのに、今はだいぶヤンチャになってしまったなー。
真面目だった頃のケイメルを返してほしい。
「実はね、今回の外遊で、ルシフのところの陛下にね、リットリナとの併合を打診しようと思っているんだよ」
「!!」
耳そばで、いきなりの爆弾発言を囁いてきた。
なに、そのいきなりの提案。
私はケイメルの正気を正すために、まじまじと見つめてしまった。
「もちろんただで、とは言わないんだけどね」
「いったいなにが目的なの?」
「なに。簡単なお願いさ。あなたのところの娘さんを私に下さい、とお願いしようかと思っているんだ。陛下はまだお若い。後継者には他のお世継ぎを準備していただければ、と思ってね」
「……け、ケイメル、あんた」
「元々、ルシフは僕を助けるために帝国に身を売ったんだから、僕として取り戻したいと思うのは当然だろ。違うかい?」
「……」
そこは、ケイメルのことを半ば人質に取られて、私の一存で決めたことだから、ケイメルが負い目に感じる必要はないと思うのだが、やはり、気にしてしまうのだろうか。
「それに、覚えているかな、僕が君に告白したとき、君は僕とは身分も違うし、父親を捨てられない、と言った。だが、今はもう身分は釣り合うし、父親の心配もいらない。今度こそはルシフ。僕は君を手にいれるよ」
ケイメルがじっと、私を見つめてきた。
すごい強い眼力だ。
気を抜くと、魂を持っていかれそうになる。
「で、でも、私にだって好きな人が……」
「ヒューリのことかな? でも、残念。彼と君とでは身分が合わない。それに、彼のお父さんがきっと反対するよ。まさか、自分のことを棚にあげて、彼を愛人にでもするかい?」
「! わ、私はそんなこと!」
かっとなって、つい、声をあらげてしまう。
まさに今の彼との立場は、当時のケイメルと私の立場と同じだ。
きっと正攻法では一緒になれない。
「僕にとっても親友であるヒューリには悪いとは思うんだけどね。でも、ルシフ。君のことというならば、例え彼が相手でも僕は一切の容赦はしない。政略結婚だろうがなんだろうが、僕は気にしないから」
そういって、ケイメルは不適な笑みを浮かべた。
「な、なんで、ケイメル、私にそこまで執着するのよ……」
「わからないのかい?」
そういって、ケイメルが顔をずい、と近づけてきた。
「……え」
次の瞬間、いきなり、唇を奪われた。
「それは、僕が君のことを本当に好きだからだ、僕は絶対に君を諦めない」
「……」
私は泣き笑いの顔を浮かべるしかなかった。
次回は5/23(水)の更新の予定です。




