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第七十五話 投資を募ろう

 国内市場の活用。

 言葉で書くとひどく無味乾燥で薄っぺらいが、要は金を持っている資本家である、貴族や大商人たちから、事業資金を集めよう、ということだ。

 ちなみに、株式に類することは皇帝も過去に、既に試したことがあるそうだが、国庫の資金だけで、政策の実現がほぼできてしまったことから、そこまで突っ込んだ経済政策はしてこなかったらしい。

 まぁ、帝国の初代なんて、いわゆる国の勃興期だから、制度が整備されていないのは、ある意味しかたがないとも言える。


「あ、リーゼ。あんたのところの実家、ファイン公爵家は、結局、私たちの事業へ、一口噛むことにしたの?」


「え? あ、そうね。出資すると言っていたわ。あと、陛下もポケットマネーで出資するって、あちらこちらでうちの娘がすごい事業を興す、とか吹聴して回っているものだから、貴族たちが、自分達にも出資させて欲しい、って次から次へとすごいわよ」


 あの人はまったく……。


 ファイン公爵家を初め、有力な貴族たちがこぞって、出資を希望してきたが、私としては小さく育てて、大きくしたいと考えていたので、結局は、それらの投資についてはほとんど断ることになってしまった。

 やはり、最初から冒険は出来ない。


 しかし、予想よりも簡単に当初資金が集まってしまったので、株式公開のためのアイデアは、今回は見送った。

 まずは、商売を初めてみて、この国でのノウハウと人脈を集めなければ。


「あとは、事務長から書類上のミスを数点、指摘されたから、直しとくわね。……しかし、実際にどんな取引ができるかを事前に確認しておかないと。リットリナのギルドに、あちらで扱っている品目リストを提出してもらわないとね。それについては、ヒューリにお願いしようかしらね。いいかしら?」


「……ん、あ、あぁ、わかった」


 ヒューリは、なにやら、書類を世話しなく書いていたが、一応聞いていたのか生返事は返してきた。

 ヒューリも何やら、色々と忙しそうだ。

 まぁ、通常の業務である定時報告、各種手紙のやりとり、それに、渉外の業務もこなしているのだ。

 ちょっとこき使いすぎたかな。


「あ、みんな、少し待っていてね」


 さすがに二時間以上、黙々と書類作業をしていると気が滅入ってくる。

 ここらで、休憩をとることにした。


 朝方、事前に焼いておいたクッキーを温め直し、新種の珈琲豆を新たに使って珈琲を煎れる。

 この珈琲豆は、帝国各地からこれはと思ったものを取り寄せて、先週色々と焙煎の実験をしてみて、もっとも、珈琲に近いものを探し当てたのだ。

 私の汗の結晶ともいえる。


「はい、私、手製の珈琲とクッキーをどうぞ」


「なに、この茶色の飲み物は?」


 リーゼが怪訝な声をあげてきた。

 今回の珈琲には砂糖と牛乳をいれてみた。

 リットリナではなかなかお目にかかれない非常に高価な白砂糖も、帝国では割と簡単に手に入り、新鮮な牛乳も都市部なのに入手可能だ。

 こういったところにも帝国の力を感じてしまう。

 そして、これら砂糖と牛乳を珈琲にいれてみたら、私がよく知る珈琲に近い味となった。


 うーん、美味。


「これは、珈琲というものよ、まだ、この世界で私たちくらいしか飲んでいる人間はいないと思うけど、いまに、国中に知れわたる飲み物よ」


 あと、今度、陛下にもふるまってみようかしら。

 もしかしたら、懐かしがってくらるかも。


「ふーん。私としては黒茶の方がいいかなー」


 黒茶とは、いわゆる紅茶のことだ。

 帝国だと、割とどの階層でもお茶を飲んでいる印象だ。


「むむ、ルシフ。この珈琲。前に作ってくれたものよりも、香ばしくて美味しいな」


 お、ヒューリはどうやら、この豆のよさに気づいてくれたらしい。


 私は胸を張って、二人に宣言する。


「この珈琲はまだまだ輸入量が少ないけど、今後、うちの会社で手広く扱うつもりだから、そのつもりでね」


「えー」


 リーゼがなぜか顔をしかめた。


◆◇◆◇◆◇


「おい、カビー。なんだって、俺がこんな商人の真似事をしないといかんのだ」


「まぁまぁ、ジョーイ先輩。あ、室長。陛下からの勅命ですよ。名誉なことだと思いませんと」


 情報部のジョーイとカビーは、皇帝府への出向を命じられ、そのまま、皇女殿下の身辺警護、ならびに、補佐を命ぜられた。

 まぁ、つまるところ、皇女殿下たるルシフが思い付いた突飛なアイデアを実現するための手先であるわけだが。

 先週など、よく分からない豆を色々と入手させられた。

 市場中の豆を調べさせられ、さらに、豆を煎るために、宮殿内の料理人や使用人たちに指示を出すために、てんやわんやに動き回っていた。

 皇女の考え方はかなり突飛ではあるが、ある意味、皇帝に似ていなくもない。


「一応、遠縁の親戚という話だったが、本当は実の娘だったりしてな」


「もし、それが本当なら、奥方は相当な美人ですね」


「それは、少し不敬だが、まぁ、事実だな」


 カビーの戯言にジョーイは苦笑を浮かべたあと、頬を引き締める。


「カビー。本部から回ってきた情報だが、奥方の実家のローエンタール公爵家に不穏な動きがある。まぁ、無茶はしないとは思うが、一応、気にかけておいてくれ。それと、その報告書に一度目を通しておいてくれ」


 カビーはジョーイから書類を受け取り、さっと目を通す。


「まぁ、皇位継承権的に考えれば、目の上のたんこぶですからねー」


「だから、お前は一言多い。でもまぁ、動機もあるし、力もある。脅威としては十分だから、よくよく警戒はせんとな」


「わかってますよ、先輩。じゃなかった、室長」


「……まぁ、俺も、現場仕事が長かったから、肩書きには慣れんよな」


 二人は顔を見合せ苦笑を交わした。


次回は4/21(土)に更新の予定です。

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