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第七十四話 逆提案

「……というわけなのよ」


「なるほどねー。あんたも色々と、大変だったわね。でも、私たちもあんたを見つけるのに色々と骨を折ったんだからね」


「しかし、魔法も使えない中、本当によく無事に戻って来てくれたな。俺としては、お前が無事だっただけでもすごく嬉しかったよ」


 これまでの出来事をヒューリと、リーゼに語って聞かせたのに対し、二人とも呆れとも感嘆ともとれるような返事を返してきた。


 ここは、王宮内のリーゼの私室。

 私たちの会話が外に聞かれることはないはずだ。


 私の話は、まぁ、そんなに時間をかけられないこともあって、だいぶ省略して話したのだが、それでも苦労の一部くらいは伝わったと思う。


「というわけで、これからどうしようか?」


「どうしようかって、どうするよ?」


「ルシフ。あんたはどうしたいのよ?」


 私の丸投げの質問に対して、二人とも困惑したような表情を浮かべる。


「私がどうしたい、かー。うーん悩むわね」


「……ま、まぁ、俺としてはリットリナにそのまま戻ってきてくれるに越したことはないんだがな。帝国とばっさりと縁を切って」


 少し遠慮がちにヒューリが提案してくる。

 魔王軍との、共同戦線以降、帝国との仲も修復し、今はリットリナの復興にも、協力してもらい、関係は良好だ。


「でも、もう大っぴらに陛下の後継者にルシフは指名されているんだから、やっぱり辞退します、というのはなかなか無理な状況よ」


 やや厳しい現実をリーゼがついてくる。

 リーゼの言うことはいつだって正論だ。


「……そうなのよねー。まぁ、陛下には恩もあれば、義理もあるし、私としても無下にもできないのよねー」


 しかも、この異方の地にて、ただ一人の身内とも呼べるような人だ。

 だからといって、このまま彼のひいたレールの上に乗って、お仕着せの人生を歩むのは私の趣味ではない。


 ……と、そこで気づく。


「……なるほど。私自身が道を作れば良いのか」


「ん。何を作るんだ」


「あんた、また、何か変なことを考えているわね」


「まーね。陛下の経験を積んで欲しい、というお願いと、ヒューリのリットリナに戻ってきて欲しい、というお願い。それに、リーゼともまた一緒に仕事をしたいしね」


「で、結局、何をするつもりなんだ?」


商売(ビジネス)よ!」


「「……はぁ」」


 困惑したヒューリとリーゼの声がハモった。


◆◇◆◇◆◇


「というわけで陛下。今後、この世界においては経済活動を活発にするため、交易を盛んにし、比較優位のある交易関係を通じて、すべての国が利益を得るようにしなければなりません」


「う、うん。そうであるな」


 夕飯の時間。

 私は皇帝相手に熱弁をふるう。


「陛下が私に提案をしていただいた、事務官にしても、軍学校にしても、私はもともとリットリナにて、それらの経験が多少ございます。なので、これからそれらの仕事をさらに経験したとしても、プラスの要素はそこまで大きくないと愚考致します。……それに対して、経済勃興のための特殊貿易会社を設立し、その社長をお任せいただければ、帝国の経済規模を今よりもより大きくさせていただきます」


「そ、そうであるか。まぁ、たしかに、経済の勃興は重要であるな。……よし。では、組織の設立や、支援の人手が必要か。それに資金も。いったい誰に任せるのが良いか」


「……私としては気心が知れているリーゼ准将に補佐をしていただけると、大変心強いのですが」


「うむ。リーゼか。あやつを軍から抜くのは些か躊躇するものがあるが」


「あ、いえいえ、軍からの出向で良いです。というよりも、護衛も兼ねて、帝国軍から一部部隊を貸していただければとも思いますが」


「ふむ。いかほど必要か?」


 お、少し興味を持ってくれたかな。


「……そうですねー。今回はテストケースとして、私に土地勘があるリットリナとの交易路の開発を最初に実施したいと考えております。そこが、うまく、いけば順次交易路を拡張いたします。なお、特殊会社の資金は株式市場を帝国内に作り、一般から募集いたします。それに隊商については当初こそ、我々が直接雇いいれますが、規模の拡大とともに、保険や株式によりリスクを減らし、一般の商人が自由に参入できるようにいたします。ですので、当初はそんなに人員は不要ですありまして、まずは小隊規模の派兵で様子を見ましょう」


「ほうほう。なるほど」


 皇帝の目がキラキラとしだした。

 どうやら、私の話に興味を持ってくれたようだ。


「私はまずは、国内で市場を立ち上げることから始めたいと思います。そこで、陛下には市場立ち上げの勅許をいただきたいと、考えております。あ、こちらに、すでに文書は起草してあります」


 実はすでに国内での、株式市場立ち上げのための資料を用意しておいた。帝国にもギルドはあるので、そこの商館を事務局に指定し、各地における株式の売買を依頼しようと考えていた。


 私からの書類を受け取り、そこに目を通して、ふむふむと頷いた皇帝は、いくつかの改善を指摘した後に、事務長に提出するように、と私に命じた。


「これがお前の初仕事になるが、期待しているぞ、我が娘よ」


「お任せください」


 私は満面の笑顔で答えた。


次回は4/17(火)更新の予定です。

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