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第七十三話 再会

 格が違う。

 もしくは、桁が違う、と表現した方が経済学的には良いのかもしれない。


 ドレスを着させられたとき、その絹の質感が明らかにリットリナでのそれと違うなぁ、と思ってみたり、ドレスにあしらわれる宝石類の加工技術が明らかに先進的だな、と感じてはいたが、帝国のその財力というか国力の凄まじさを感じさせられる。


 今回のこのパーティーにしてもそうだ。

 テーブルの上の皿など、木皿や、金属製の皿ではなく、白色の美しい陶磁器であったり、また、飲み物を飲むための杯にしても、金属や木製の杯ではなく、透明に近いガラスで皆、作られている。

 ここにいたり、そもそものレベルが違うことを認めざるを得ない。


 随所に金を使っているのだろうなー、と理解できるパーティーなのだが、側使えの使用人に聞いてみると、今回のそれは、いつもよりも少し規模が大きいらしい。

 ちなみに、主賓は私だ。


 父である皇帝が、遠縁の下級貴族の娘をいきなり自分の養女にして後継者とする、と宣言したものだから、帝国中、上へ下への大騒ぎだ。

 まぁ、いきなり皇帝が誰とも知らない田舎の娘を、自らの後継者にすると宣言したのだから、天地がひっくり返るほどの騒動になるのはしかたがない気がする。


 特に、実子がいない皇帝の養女となるということは、次期皇帝の位を確約するも同然なのだから、どの貴族であっても色めきだつのは仕方がない。

 それに加えて、軍に顔が利くリーゼの実家、ファイン公爵家が、いの一番に賛意を示したものだから、他の力がない貴族たちは、表立っては批判できる状況にない。

 なので、挨拶にくる貴族の何割かは、口調は柔らかながら、目が笑っていないことが多かった。

 こういった貴族たちは、皇位継承権が高い家に連なる者たちが多いと推測はしているけども。


「皇女殿下のご機嫌麗しく。私、宮内儀式監察官の……」


 だがしかし、そういった敵意をあからさまに向けてくる貴族は極少数であり、ほとんどの貴族たちは、我先にと私に顔を覚えてもらおうと、こうしてパーティー会場内で長蛇の列をつくり、次々に挨拶をしてくる。


 愛想笑いを浮かべて次々とやり過ごしていくが、正直、きりがない。


「はぁ、なかなかうまくいかないわね……。こんなんで、本当に会場を抜け出せるのかしら」


「皇女殿下、何かおっしゃいましたか?」


 側使えのメイドが、脇から間髪を入れずに問いただしてきた。


 あ、あぶないあぶない。

 どこで聞き耳を立てられているのかわからない会場だ。

 独り言も自重しないといけない。


「……本当に辛いわ」


「また、何かおっしゃいましたか?」


 ……辛い。


◆◇◆◇◆◇


 あー、姉御。気の毒にな。

 あれだと、さすがに息がつまるんじゃねーかな。


 遠くの方で延々と挨拶をしているルシフの姉御の姿を見ていると、ユーグレとしては、さすがにだんだんとルシフが気の毒に思えてくる。


 ユーグレとしては、あのどん底の暮らしから、なに不自由ない生活にしてくれた姉御に対しては、返しきれない恩義を感じている。

 しかし、姉御本人は笑顔を振り撒いてはいるものの、その笑顔がぎこちないことを薄々ユーグレは感じとっている。


「まぁ、姉御は不器用だからな」


 ユーグレは、手に持っていた洋梨の果汁ジュースが入ったグラスを一息に飲み干すと、敬愛する姉御に休むための時間をあげるために行動を開始するのだった。


◆◇◆◇◆◇


「おーい、姉御!」


 ん。ユーグレがなにやら、遠くの方から手をブンブンと振ってこちらに近づいてきている。

 ピンク色のドレスを着て見た目はたしかに、どこぞの貴族の娘と言っても遜色はない。

 ユーグレは、私の親族ということになっている。

 宮殿で寝食を共にしているが、別に仕事や、位階などは特になく、食客という位置付け以上のものでもない。


「姉御、漏れる!」


 ユーグレの場所をわきまえない発言に、あやうく、口に含んだ葡萄酒を目の前で談笑していた侯爵の顔に吹き出すところだった。


 回りの貴族たちは、困惑気な顔をしている。

 中には、あからさまな侮蔑の表情を見せてくる人物もいる。


 私としてはいてもたってもいられなくて、回りの人間たちにペコペコと会釈しながら、ユーグレの手を引っ張って廊下へと連れ出す。恥ずかしくて顔が真っ赤になっているのがわかる。


「ユーグレ、あんたねー!」


 廊下で二人だけになったところで、どうやってこの子を矯正してやろうかと声を荒げてしまう。


「ほら、姉御。やっと自由になれたじゃん」


 そういって、鼻の下をごしごしと指でこするユーグレ。

 やりきった爽やかな笑みを浮かべている。


「自由って! ……あ」


 言われてみて気づいたが、ユーグレのおかげで、誰かに呼び止められることもなく、パーティー会場を抜け出すことに成功した。

 私のことを慮ってか、側使えの者たちも席を外してくれている。


「あんた、もしかして私のために……」


「ま、姉御には世話になっているからな。俺が恥をかく程度、なんでもないってもんよ」


 無い胸を張るユーグレ。


「とりあえず、俺たちは部屋に休んでいることにしとくから、姉御はどこかで羽を伸ばしてくると良いぜ」


 私はこの賢い妹分の頭を乱暴にかきむしってやる。


「ユーグレ。あんた、なかなかやるじゃない! 見直したわよ」


「お、おい、やめてくれよ、姉御。せっかく、きれいに髪の毛を整えているんだからさ!」


 嫌そうに髪の毛を両手で押さえるユーグレ。


「それじゃ、ちょっとだけ行ってくるから、あとのことはお願いね」


「あいよ」


 こうして、私は会場から抜け出すことに成功した。


◆◇◆◇◆◇


「ルシフ遅いな」


「まぁ、あの会場から抜け出すのはなかなか難しいでしょうね」


 ヒューリと、リーゼが中庭の噴水近くで、立ったまま、ぼーっとしている。手持ちぶさたなのか、リーゼは髪の毛の先を指で弄くっている。

 彼らとしても、会場に乗り込んでいってルシフの顔を拝みたいのだが、あそこでは、秘密の相談はできそうもない。


 手持ちぶたさで待つこと一時間。

 ついに、お目当ての人物がやって来た。


「リーゼ! ヒューリ!」


 その懐かしい声。

 先日の作ったような声ではなく、感情がこもったルシフの生の声。


「ルシフ!」


 ヒューリが万感の思いを込めて呼び掛ける。


 その言葉に返事はなく、ヒューリの胸にルシフはそのまま無言で飛び込む。

 ヒューリに比べれば小さな体だ。

 その体を大事な宝物であるかのように抱き締める。


「無事でよかった。本当に……」


 知らず知らず、ヒューリの両目から涙が溢れる。


「また、会えたね」


 ルシフはにこりと、泣き笑いを浮かべると、そのまま、二人は唇を重ねる。


「見せつけてくれますねー、お二人さん。一応、私もいるんだけどね」


 リーゼは、二人を見ながら苦笑を浮かべた。


次回は4/13(金)に更新の予定です。最近は色々と忙しいのですが、なんとか綱渡りではあるものの、更新は続けております。

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