第五十三話 金策
金策。金策かー。
まぁ、軍の金策なんて基本、一つしかないのよね。
いわゆる徴発。
軍事力を背景に、無理矢理、住民や有力者たちから税金や物資を取り立てる、というもの。
しかし、これをやると、住民の反発が大きくなり、統治としては下策。問題解決後を見据えると、素人にはお勧めできない。
まぁ、キャンベル公爵あたりだと、その責任を私に負わせて、腹切らせて万々歳にする、ということもやりかねない。
そう考えるとこの安易な選択肢を選ぶことを躊躇する。
じゃあ、他の代替案は何かといえば、商人や有力者たちから借りるしかないのだが、経済システムが未熟なこの世界だと、金利とかがアホみたいに高く危険だ。
それに信用というかコネも必要だし。
そして、当然のことながら、私にはこのあたりにコネはない。
また、万が一、借りることに成功したとしても、借りるときに確実に高金利を吹っ掛けられる。
高金利のことを考えると、返すための資金源がすでに当てがあるのであれば問題ないが、借りたお金をいったいいつ返せるのか見通しがたたない現状、安易に借りることは極めてリスクが高い。
そこまで思考を進めると、やはり、帝国に泣きついて援助をしてもらうしかないんじゃない、という結論にたどり着く。
だが、クストン中将は、騎士団が帝国から直接、援助を受けるのはまかりならん、とおっしゃった。
……じゃあ、いったい全体、私にどうしろというんだ!
「むずかしそうな顔をして、いったい何を悩んでいるんだ?」
私が、一人、執務室にて机を前に、ああでもないこうでもないともんもんとしながら、頭を抱えて捻っている時に、ヒューリがフラりと部屋に入ってきた。
その手にはタンポポ珈琲を持っている。
「んー、なかなか、資金を借りるアイデアが浮かばなくてね。あ、珈琲ありがと」
私は、ヒューリが焙煎してくれた珈琲をありがたくいただくと、トウキビから作った砂糖と、牛乳をいれ、久しぶりの珈琲をいただく。
珈琲はこの世界ではまったく流行っていないのだが、私がひそかに試作して、こうして、一部の友人たちと楽しんでいる。
ヒューリには非常に好評で、よく作ってもらっている。
たぶん、私よりも上手に淹れる。
「もう、帝国に泣きつくしかないんじゃないか」
ヒューリも、結局、この結論にたどり着いたらしい。
だが、これを選択するにはクストン中将を説得するしかなく、なかなかに骨がおれるようにも思える。
「うーん。こうして、根を詰めて考えても、あまり良いアイデアは浮かばないわね。気分転換に、ケーキでも作るわ。ヒューリも食べていくでしょ?」
「ん。ああ、もちろんいただくよ」
私は、執務室の隅の方に設えたキッチンに向かうと、手早く調理を始めた。
ケーキと言っても、パンケーキのような簡単なものだ。
最近は、クルミなんかのナッツと柑橘系や葡萄のドライフルーツ、それに香辛料の組み合わせを自分なりに工夫し、かなり美味しく焼けるようになった、と自負している。
そろそろお店でも開こうかしら。
「あら、良い香りがするじゃない」
そんなことを考えながら、鼻唄を歌いつつ調理をしていると、リーゼがノックもなしにふらりと部屋にやって来た。
こいつはこいつで、だんだんと遠慮がなくなってきている。
「あ、リーゼ殿。なにか御用ですか?」
ヒューリが、少し固い声で聞いている。
まだ帝国軍人であるリーゼには、心を許しているわけではなさそうだ。
「ああ、お構い無く。私は、ルシフに用事がありますから」
「ん。リーゼ。私に何か用事あるの?」
いつも暇そうに私のところに遊びに来るリーゼに用事などあるのか。
私は、手早く、オーブンからケーキを取り出し、葡萄酒を振りかけ、砂糖をまぶし、火をつけて軽く表面をあぶり完成させる。
うん。今日のは自信作だ。
「えーと。まぁ、用事って、顔を見に来ただけなんだけどね。あははははは」
そうか。今日もやっぱりリーゼは暇なのか。
良いご身分ですな。
「じゃあ、ケーキでも食べていく?」
「あ。うんうん。もらうもらう!」
なかなかに素直でよろしい。
私は、ヒューリと、リーゼにケーキを取り分けると、リーゼ用にタンポポ珈琲を淹れてやった。
始めて飲む味だろう。堪能してくれたまへ。
「……この黒い水。なかなかに興味深い味がするわね」
「あんまり、美味しくない?」
「……う、うーん、私は、ちょっと苦手かな」
まぁ、たしかに珈琲には苦手意識を持つ人間がいてもおかしくないかも。
「あ、じゃあ、せっかくだから俺がもらっちゃおうかな」
そんなことを、ヒューリが横で言い始めた。
ちょっと待ってよ。
リーゼが、口をつけた珈琲をあんたが飲んだら、間接キスになるでしょうが。
私は、無言で、リーゼの珈琲を奪い、ヒューリには私の珈琲を手渡した。
「お、おう。ありがとな」
なんだか、ヒューリが変な顔をしてきた。
私は、無言でリーゼから回収した珈琲をすする。
……
…………
………………!
「これだ!」
「わ! いきなり、なに、急に大きな声を出しているのよ」
ケーキをもふもふと食べていたリーゼがビックリした表情で私の顔を覗き込んできた。
「ヒューリ! 良いアイデアが浮かんだわ! 帝国から直接、援助を受けずに、資金を手にいれる方法」
「……お、おう」
ヒューリが、鳩が豆鉄砲を、食らったような顔をしていた。
◆◇◆◇◆◇
「では、融資の証書にサインをお願いします。こことここに」
「あ、はいはい。じゃあ、代理人欄には私のサインを入れるから、責任者欄にはヒューリのサインを書いてね」
「ああ、わかった」
なんとかギルドと融資話をまとめた私たちは、ギルドからの帰り道の馬車の中、二人だけで座っていた。
馬蹄が鳴る音だけが、馬車の中に聞こえてくる。
「しかし、いったいどんな魔法を使ったんだ? あんな良い条件で融資ができるなんて。もしかして精神を操作するような魔法でも使ったか?」
「私、精神操作系の魔法なんて使ってないわよ。それに、あれ使っても一時的なものだし、仮に裁判になると私の方が不利だから、どうしてもという時じゃないと使わないわよ」
「なるほどな。じゃあ、どうやってあの商談をまとめたんだ? えーと、たしか、十年間無利子だっけ、しかも延長も可能という。まぁ、一応、いくつかの商業特権をくれてやったので相手の見返りがゼロというわけではないが、俺たちからの担保もなしによく貸してくれたよな」
「ん。あのお金は帝国のものだよ」
「は?」
またもや、ヒューリの顔が、鳩が豆鉄砲を喰らったような顔になっている。
「だから、ギルドに対して帝国から、あ、当然、ダミーの商家を挟んでいるけどね、まぁ、ギルドへと投資をしてもらったのよ。で、その条件として騎士団と交渉して今日取り決めた特権を手にいれることをね。あ、投資の何割かはギルドの懐に手間賃として入っていたはず」
「……じゃあ、あれか、つまり、ルシフは帝国から間接的に融資を受けていることになるのか」
「ちょっと違うわね。帝国は単にギルドに投資をしただけだし、私たちは単にギルドから金を借りただけ。直接的にも、間接的にも、私たちには、帝国の金はびた一文たりとも入っていないから、クストン中将の言葉にも違反していない」
「そ、その言い分は詐欺だろ?」
「違うわよ。誰も騙していない、全員が得をする商取引よ」
私は、ニヤリと笑ってやった。
「さて。あとは、王都奪還のための計画をキャンベル公爵たちに考えてもらいましょうか」
「俺たちも参加することになると思うぞ。近衛騎士だしな」
「わかっているわよ」
私は、頭の中で、王都の地図を思い描きながら、図上演習を繰り返すのだった。
次回は2/8(木)に更新予定です。




