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第五十二話 駐屯地での新たな任務

「……ほ、ほら、ここ、どうぞ」


 私は、羞恥に身を悶えさせるような気持ちになりながらも、草の上に正座をし、ぺしぺしと自分の膝を叩く。

 頬に吹き付ける風がやや肌寒く感じる。

 紅葉がちらほらと見ることができる季節になってきた。


「ほ、本当にいいのか?」


 私の傍で突っ立ったままのヒューリが、私を見おろしながら、大きな身体をもじもじとさせ聞いてきた。

 この意気地無しが。


「私が良いと言っているんだから、恥ずかしがることなんてないでしょ」


 いや、やっぱり恥ずかしいよね。

 人目がないとは言え、膝枕をしてあげると言っているのだから。


 学生時代はケイメルの膝に私が頭をのせて昼寝をするとか、割と普通なことだったのになー。

 やはり、お年頃になると、いろいろと羞恥心とか出てくるものなのです。


「じゃ、じゃあ、お言葉に甘えて……」


 ヒューリも私のとなりに座り、私を見ないようにしながら、膝の上に頭をのせてきた。

 短く刈り込んだ髪の毛が、膝にあたりチクチクとする。

 私は、その髪の毛を優しく撫でてやる。


「あんまり、自分を責めないでよね」


「……なんの話だ」


 私とは視線を合わせず、ぶっきらぼうにヒューリが呟く。


「脱出できた数が半分にも満たなかったこと、気にしているんでしょ。あんたのせいじゃないんだから、自分を責めるのはやめなよ」


 無事に王都からの脱出に成功した後、私たちは引き継ぎや、王都の様子の報告など、いろいろと残務処理に忙しくしていたのだが、ヒューリがたまに塞ぎ混みがちな感じになることが気になっていたのだ。

 そこで、少しは気分転換にと、近くの山(というよりは丘)までこうしてピクニックに誘ったのだ。


「……もっとうまくできなかったかな、俺」


 ポツリとヒューリが独白をした。


「……」


 私は無言でポカりとヒューリの頭を小突く。


「いたっ! 何をしやがる」


 ヒューリがたまらず、起き上がって抗議をして来た。


 私も立ち上がり、その鼻っ面に指を突きつけて、真面目な顔で言ってやった。


「あなたは何? 神様にでもなったつもりなの? 私たちはただの人間なんだから、無理なものは無理なのよ!」


「……だけど、もしもあのとき、ああしていれば、もっと助かったのに、とか色々と考えてしまうんだ」


 ヒューリは下を向きながら独白する。


「俺にもう少し力があれば……」


「あんた、バカなの?」


 私は、ヒューリの胸ぐらを掴んだ。


「ば、バカとはなんだ!」


「もし、自分が失敗した、と思ったのなら、次回、もっとマシにできるように、今できることを精一杯やりなさい! いつまでも神様になれなかった、と後悔するよりも、ずっと健全よ!」


 私は、ヒューリの胸ぐらをつかみながら、顔をずいと近づけ激励する。

 今のヒューリに必要なのは、また新たに立ち上がるための、一歩を踏み出す勇気だ。


「いい? わかった?」


「……お、おう」


 毒気を抜かれたのか、ヒューリが、ぼうっとするような感じで私を見つめた。

 身長差から自然とヒューリが私を覆い被さるように見おろす感じになる。


「ん、どうしたの?」


 なにもヒューリが言い返さなかったので、不審に思った私は怪訝な顔で問いただした。


「あ、いや。……なんでもない」


 そういって、ヒューリはそっぽを向いてしまった。

 ちょっと顔が赤い気がする。


「ちょっと、気になるじゃない。どうしたのよ」


 私は、気になったので、両手でヒューリのほっぺたを挟み込み、無理矢理、私の方を向かせると、ずい、と顔を近づけた。


 そして、なぜか目をそらすヒューリ。


「言いたいことがあるならば、はっきり言いなさいよ!」


 私は、もじもじした態度は嫌いなのだ。


 ヒューリは少し逡巡したのちに、意を決したように私の方に向き直ると、やおら、顔を近づけてきて、いきなり、唇を重ねてきた。


 ……

 ……

 一瞬。

 どうしようかと迷ったものの、そのまま、目をつぶって、ぎゅっと、ヒューリを抱き締めた。


 しばらくそうした後、私は、優しくヒューリに語りかけた。


「しばらく休んだら、もう一度、立ち上がろう? そして、私たちの親友。ケイメルを、ちゃんと悪の魔の手から助け出さないと」


「……そうだな」


 先程よりもちょっと晴れやかな笑顔でヒューリが応えてくれた。


 うん。やっぱり笑顔の方がうれしいな。


◆◇◆◇◆◇


「……金策ですか?」


「そうだ。金策だ」


 重々しくクストン中将が頷く。

 王都の北方へと逃げ出した私たちは、王都の北方を守護する、というよりも警戒をするために駐屯している、タガニー駐屯地へと進駐した。

 足手まといになる王都の民たちは、より北方の商業都市等へと逃がし、今はだいぶ身軽になった。


 タガニーに駐屯していた兵士五百名、王都から脱出に成功した近衛騎士四百名弱、そして、帝国からの援軍であるリーゼの部隊千名弱がここの駐屯地の、今の全軍だ。

 そして、外から援軍がいつくるのかは、まったくわからない。


 さらに今現在問題となっているのは、これだけの兵士を養うにはどうしても金が必要だということだ。

 そのために、先程の冒頭の中将の発言になったのだ。


「……お言葉ですが、リーゼから……帝国から融資のお話があったと思うのですが。その話にのってしまえば楽なのではないですか?」


「……それはできん。今現在、ただでさえ帝国から軍の援助を受けているのだぞ。これ以上の支援はリットリナ王国の恥になる!」


 ここまで追い詰められた状況ならば、もういっそのこと恥や外聞は、全部ゴミ箱に捨てちゃえばいいのに。


 そこまで、のどにでかかったが、なんとか、その台詞を飲み込む。


「というわけで、ルシフ少佐を、会計参謀に任命する。この状況をなんとかしたまへ。あと、決裁その他は、ヒューリ騎士団長代理とよく相談して執行するように。あ、私は、これからキャンベル騎士団長の御意向を確認するために出張せねばならぬので、あとのことは任せたぞ」


「……はい」


 あー。この人、職務放棄して逃げる気だな。

 しかも、調子よく、理由をでっち上げるあたり、実に官僚的だ。


 はぁー。


 私としては、今日、何度目かわからないため息をついた。


次回は、2/5(月)の更新予定です。

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