第五十一話 そして脱出へ
リーゼル改め、リーゼたちの助力もあり、死人たちの攻勢を辛くも防ぐことに成功した私たちは、その場で一旦、橋頭堡を築き、駐屯地と橋頭堡との間の防衛に専念した。
そして、私たちの橋頭堡から、本隊の多くの部隊が無事に駐屯地の外へと出ることに成功した。
あとは、一人でも多くの者がこの包囲網を抜け出し、王都から脱出することができれば良いのだけど。
私は、敵の攻勢が一段落したところで、リーゼを問い詰めた。
「……助けに来てくれたのは素直に嬉しいから、感謝の言葉を述べさせてもらうけど、その格好は何か、説明をしてもらえるかしら」
リーゼは確かに帝国の人間だと事前には想像をしていたが、肩の階級章を見るに、大佐という高位の階級であるとは思わなかった。
「まぁまぁ。改めて名乗るわね。私は、帝国軍独立即応機動連隊、連隊長リーゼ大佐よ。我が国の国是である魔王軍討伐のために、リットリナ王国に助力するために、こうしてまかりこした次第。あ、これあなたの国のお偉いさんの、条約への調印状ね。……で、あとはそちらの現場責任者の方に取り次ぎを頼みたいのだけど」
書状を受け取って拝見すると、そこにはキャンベル公爵の署名があった。
王国の偽造書類防止のためのいくつかの特殊マークもちゃんとしたもので、どうやら本人が署名したみたいだ。
「驚いたことに、これ、本物ね」
「当たり前でしょ! 私たちをなんだと思っているのよ」
問答無用で国境を突破しちゃうような国だと思っているけど。
……しかし、連隊とか言いながら助力に現れたのは二百名ほどなのがやや気になるわね。
「……連隊という割には人数が少なくない?」
「そこ、突っ込むの!? でも、まぁ、いいわ。……今回は急いで駆けつけなきゃいけないというこで、転移の魔法を使ったのよ。まぁ、魔法障壁の影響で、直接、街の中へと転移できなかったから、街の近くまでが精一杯だったんだけどね。で、そこに部隊の半分以上を置いてきたわけ。それと、ここまでくる間の連絡線の護衛部隊もいるしね」
「なるほど。じゃあ、今回、駆けつけてくれたのは、本当に即応の部隊なのね」
「そうよ。陛下は、元々この機会……魔王ルガンが地上に現れることを想定しておられたのよ。あなたのお父様と同様にね。もっというと、陛下はあなたのお父様のスポンサーでもあるわ」
……お父さん、もしかして、うちの国にとっては裏切り者に近いんじゃないの。本当は。
「……な、なるほど。でもまぁ、それ以上この話をすると墓穴を掘りそうだから突っ込まないでおくわね」
今の言葉がキャンベル公爵の耳にでも入ったら大問題になりそうだし。
「そういうわけで、私たちが第一陣として到着したけど、帝国軍本隊は今、北方の魔物討伐のために、あなた方リットリナ王国の騎士団と条約を結んで、今頃平定を終えて、南下を始めている頃じゃないかしら」
「……なるほど。そちらの状況は理解したわ。ちなみに、今の私たち近衛騎士団の現場責任者は副団長のクストン中将なんだけど、たしか、最初の第一便ですでに脱出してしまったから、今残っている人間で一番高位なのは……。えーと、ヒューリじゃない」
第一から第三騎士大隊の取りまとめ役として、今、ヒューリの肩書きは近衛騎士団団長代理で、一時的だが大佐として振る舞っている。
私は、忙しそうに補給の話をしているヒューリを呼びにいった。
「ねぇ、ヒューリ。リーゼがあなたに挨拶をしたいって」
「リーゼって、さっきの帝国のやつか? 俺が挨拶してもいいのか?」
「しかたないじゃない。今、ここにいる中ではあんたが一番の先任者だし」
「むー、たしかにそうか」
私は、ヒューリの手を引いて、リーゼのところに連れていった。
「リーゼさん。紹介するね。こいつがヒューリ。さっき、軽く挨拶したけれども」
「騎士団団長代理のヒューリと申します。リーゼ大佐。帝国からの助力を感謝いたします。……って、一度、昔にどこかでお合いましたかね?」
ヒューリが、しげしげとリーゼを見つめる。あー、たしかに一度、傭兵仕事をしているときにあっている気がする。
「気のせいかと思います。私、リットリナ王国の地を踏むのは、今回、初めてですので」
クールな才媛のような雰囲気を醸し出しながら、リーゼが堂々と嘘をつく。薄金色のショートの髪の毛の先をいじくっているあたり、内心の動揺が若干出ている気がする。
「……そうでしたか。それはすみません。なんとなく気になってしまい」
ちょっと、訝しげな感じで首を傾げながらも首肯するヒューリ。チョロいなー。
「で、これからの作戦について少々協議したいのですが、よろしいでしょうか? それと補給についても」
「はい。こちらこそ歓迎いたします。あ、ルシフ。お前も同席してくれよ、参謀としてな」
「はいはい」
私も、リーゼとヒューリに、くっついて作戦会議に参加をした。
といっても、なんてことはない。
現在、脱出をしている騎士団本体の護衛が増えた感じになっただけで、作戦そのものには変更はない。
あと、リーゼが連れてきた部隊には高位の魔法使いもそこそこいたので、大変助かった。
「そういえば、お父さんは?」
「……ガンバルド師は魔王のところへ単騎、偵察に行ってしまわれたぞ。俺は止めたんだがな」
まぁ、あの父については仕方がない。むしろ、単騎で動いてもらった方がやりやすいんだろう。
「わかったわ。じゃあ、私たちは私たちの仕事をしましょう」
「そうだな」
その後も色々と忙しかったが、なんとか無事に騎士団本隊の、脱出を手助けすることができた。
北方の駐屯地の、遊軍と合流が出来たのは、結局、元の人数の三分の一の、千名程度ではあったが。
次回は、2/2(金)更新予定です。




