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第四十六話 報告

「そうか、お前も遭遇したか」


「お前も、ということはヒューリも?」


「……あぁ。先週だったかな。街中を巡回中にな。暗がりだったので、はっきりとはわからなかったが、気配は動物のそれじゃなかったな。まぁ、俺の時は運良く、戦闘にはならなかったが」


 翌朝、昨日の遭遇戦をヒューリに話してみたら、そんな答えが帰ってきた。

 昨日の戦いの後、私は官権に協力することなく、あの場から立ち去った。

 調査に協力をする義理はないし、私が絡むとむしろ、話がこじれるだけだと判断をしたのだ。


「王都にまで魔物が出現したって、かなり大事よね」


 通常、王都の周囲には魔術結界がしかれており、その結界を破って、内側に入り込む、というのは、かなり高位の魔物でないと難しい話だ。

 しかし、昨日遭遇したあの魔物はそこまで高位の魔物ではなかったし、どうやって、中に入ったのか、やや疑問が残る。


「まぁ、中に入るには、二つの方法しかないからな。一つは王都の魔術結界を実力で打ち破ること」


「でも、昨日の魔物はそこまで強くなかったし、仮に、そこまで強力な魔物ならば、あるレベル以上の魔法使いならば察知できるわよね。まぁ、魔力を隠すのが得意、という可能性もあるけど」


「だがまぁ、仮に結界が破られるようなことがあれば、まず間違いなく察知できるだろうな。……そうすると、現時点では、中に入った方法としては、もう一つの方法しか考えられない。つまり、誰かが、王都の中で魔物を召喚したんだ」


「重罪よね?」


「そうだな。特例として魔術実験のために魔物を呼び出すことそのものは、事前の許可さえあれば可能だが、呼び出した魔物を王都に解き放った、なんてことになったら、その術者の首一つで済む問題ではなくなるな」


「……そうよね」


 しかし、誰だかは知らないが、とんでもないことをしてくれたものだ。


「ねぇ、ヒューリ。このことは誰かにはもう報告したの?」


 ヒューリのことだから、報告はしたと思うんだが。


「……ん、まぁな」


 ヒューリの言葉はどこか歯切れが悪い。


「何か問題でもあったの?」


「問題、というわけではないんだが。……騎士団が関わる問題ではないから、首を突っ込むな、と親父どのに釘を刺されたよ」


 お父さん、ってキャンベル団長か。


縦割主義(セクショナリズム)での発言? 心が狭いわね」


「いや、それが、どうやらそうでもないみたいなんだ。……じゃあ、それなら俺が憲兵に話してくる、と言ってみたところ、それすらも止められたからな。どうも、親父殿は何かを知っているっぽい」


「……何を隠しているのかしら?」


「わからん。が、あまり良いことのようには思えないな。親父は秩序の権化だ。その親父がこの状況で日和見を決め込むなんて普通じゃありえない」


 私は、なんとなく胸のところがざわざわするのを感じた。

 すごく嫌な感じだ。


「まぁ、親父は首を突っ込むな、といっていたが、もう少し、俺個人として調べてみるわ。ルシフの方でも何か分かったら報告してくれよ」


「うん。わかった」


 そこで、私たちは、一旦この話題を打ちきり、朝ご飯を食べることに集中した。


◆◇◆◇◆◇


「失礼します、ヒューリ隊長! 今、少しよろしいでしょうか」


「ん、どうした?」


 朝食後、執務室にて、午前中の演習の準備をしていたヒューリのもとに、部下の一人が慌てて訪ねてきた。


「少々、報告したいことがありまして……」


 訪ねて来たのは若い騎士だ。

 それでも、ヒューリよりは数歳上だろう。

 だが、その若い騎士は気の毒なくらいに顔色が悪く、小刻みに身体が震えている。

 そんな部下の心情を慮って、ヒューリは若い騎士に椅子を勧め、気付けの蒸留酒を与えた。


 そして、自らも一杯、蒸留酒を仰ぎ、空になったグラスを手元で弄ぶ。


 ヒューリは、今や、大隊を指揮する大隊指揮官だ。

 いわば、管理する立場、五百名もの部下を束ねる立場である。

 そして、先の戦いの結果、騎士団に欠員が生じたため、その再編成にあわせて、若い騎士が大量に入ってきており、全員をまだまだ把握しきれていない。


「すまないが、俺は君には面識がない。名前を名のってもらってもよいかな?」


「はっ。申し訳ありません。私は、スオルド。第三騎士大隊に、先月、西部方面軍から配置がえで、配属されたばかりの少尉であります」


「なるほど。では、スオルド少尉。報告したいこととは何かな?」


 努めて冷静に問いただしてみる。


「はっ! それが、その……昨日、私は、警護のために王宮へと派遣されていたのですが、実は、そこで、とんでもないものを見てしまいまして……当然、現場の指揮官殿にも報告をしたのですが、このことは他言無用である、と言われまして……でも、やはり、直属のヒューリ隊長の耳にはこの話を入れておかないと、と思いたちまして、こうして報告にあがりました……」


 知らず知らず、ヒューリは、喉が渇いてきたのを感じた。


「……わ、わかった。で、少尉は一体全体、何をみたというのかな……」


「こんなこと、信じてもらえないかもしれませんし、王族の方への不敬にとらえられてしまうかもしれませんが……あの、その……ケイメル殿下が、ケイメル殿下が、女中の首もとにかぶり付き、生き血を啜っていたのでございます」


 ヒューリは、あまりの衝撃に、手元に持っていたグラスを地面へと落としてしまった。


 部屋の中に、グラスが砕け散る音が鳴り響いた。


すみません。今回の更新は少し短めです。次回更新は1/22(月)の予定です。

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