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第四十一話 孤独

「本当にあなたたちには世話になったわね、カレン、リーゼル」


 二人との別れの日。

 私は町外れまで、二人を見送りに来た。

 二人とも荷馬車と護衛を雇っており、結構ものものしい雰囲気になっている。


「……別にたいしたことは何もしてないわよ。ま、あんたと一緒に戦えて、こちらも得るところが多かったので、そこは感謝しないとね。……また、会いましょ」


「……」


 リーゼルはつっけんどんに、そっぽを向きながら早口に別れの言葉をいい、カレンは黙って私を抱き締めた。そして、だんだんと顔を近づけてきて……。


「……って、いきなりキスをしようとするなー!」


 私はカレンを勢いよく突き飛ばす。


「……くっ、良い雰囲気だったのでいけると思ったが、なかなかガードが固いな! だが、まだまだ、私はルシフを諦めたわけではないからな。今回は父上に報告をしなければならないので、一旦国本へと戻らねばならないが、また来るからな! 私のこと忘れたら泣くぞ!」


「忘れないわよ! リーゼルもカレンもまたね。手紙書くから! カレン! お父様によろしくね。リーゼル! 陛下に感謝の言葉を」


 二人と熱い抱擁をして別れた。

 この二ヶ月は怒涛の日々だったように思う。

 私には騎士団への赴任の前に、休暇が与えられており、あまり遠くへは行けないが、割と自由に行動ができる権利をもらっている。


 しかし、誰ともつるまずに、一人で行動をするのって久しぶりな気がする。

 なんとなく、寂しい気もするな。

 騎士団のヒューリや、聖堂騎士隊を率いるリングテールはまだ戦場で戦っているみたいだし、ギルドのヘッカーソンも本人は嫌がっていたが、補給部隊で重宝されているらしい。


 そんななか、一人だけ蚊帳の外というのは、あまりうれしくはないが、なんでも、少しは大人しくしていろ、ということらしい。

 そして、こんな機会だからか、地方領主のお茶会に、複数誘われている。

 そういえば、こういった血や埃にまみれていない活動って、久しぶりな気もする。

 しかも、もう領主じゃないから、相手に気兼ねすることもないし。

 そう考えると、悪いことばかりでもない気がしてきた。


 そういうわけで早速、夜に、ご招待された子爵家のパーティーに潜り込んでみた。


 館は木造の古いお屋敷で、入り口から入って直ぐのホールが会場だ。


 会場内では複数の丸テーブルが置かれ、老若男女、様々な上流階級の人たちが、談笑をしている。

 その中で、一人、輪の中心にいる人物が、今回の主催者のメイアール子爵だ。

 私は輪の中にずいと入り挨拶をする。


「ご招待、ありがとうございます。メイアール子爵」


「いえいえ、ご高名な英雄であらされるルシフ伯爵様を私どものパーティーに誘うことができて、感激いたしております」


 そういって、壮年のメイアール子爵が、片膝を床につき、ひざまずきながら、私の手の甲にキスをした。

 ちょっと、キザだなー。


 ……私は先日、伯爵に叙せられた。前回は辺境伯だったので、若干ランクダウンしているような気もするが、まぁ、今回は経営はしなくても良いとのことだ。

 私の領地はケイメル王子の義父、アンチボルト侯爵の隣地らしく、なんとなく因縁めいたものも感じないわけではない。

 あ、そういえば、侯爵に挨拶をしていない。今度、挨拶に伺わないと。


 ……今、私は久しぶりに外行きのドレスを着ている。

 薄水色のドレスで、胸の辺りが、やけに開いている。

 鏡で入念にチェックしてみたが、自分としてはかなり可愛く着こなしていると思う。

 でも、よくよく見ると、微妙に手や足に擦り傷が見つかったので、クリームで隠してみた。

 まぁ、細かいことは気にしないでおこう。


「本日の主賓の一人はルシフ様、あなたでございますから、我が家のようにお寛ぎいただければ、幸いです」


「重ね重ね、ご配慮いたみいります」


 もったいぶらなくても、わかっているから。

 こういった輩は、中央にコネがある貴族になんとか取り入り、顔を売っておくのが仕事だ。

 まぁ、こうやって、顔を付き合わせて覚えてもらわなきゃ、たしかに、十把一絡げに扱われてしまうから、必死と言えば必死だ。


 私はしばらく、子爵や、その他の客人たちと談笑した。しかし、彼らの表情はやや固く感じる。

 昔はこんな感じで接して来ず、むしろ、下心見え見えで一緒にダンスを躍りに来る連中が多かったのに。

 私と同い年くらいの十代後半の子達もちらほらといるが、まったく、私と目を合わせることがない。

 うーん、避けられているなー。


 なので、久しぶりに自分と同い年くらいの年代の子達と、少し話したいなと思い、声をかけてみることにした。


「ごきげんよう。皆様。私、ルシフというものです。少し、お話をしてもよろしいかしら」


「あ、いえ、僕たちは……。その……用事がありますので、失礼いたします!」


 三人ほどで楽しそうに話していた男の子達に声をかけたが、急にキョドりだし、走り去ってしまった。

 そんな、モンスターに出会った村人みたいな対応をとらなくても良いのに。

 ちょっと、ショックではある。


 その後も、少女たちのグループ、男女で談笑するグループ、小さい子供達のグループ、と色々と同年代っぽい者たちに声をかけてはみたものの、皆、私の方を何か、化け物を見るかのような視線を送った後、 どこかへと逃げ去るようにいなくなってしまった。


 ……まぁ、仕方がないか。


 今回の魔物との一件は、騎士団の一員である私が、傭兵隊と協力して、伝説のエルダードラゴンを狩った、ということに公式になっている。


 ある意味、生きる伝説だ。

 しかし、そんな人間離れをした活躍をしてしまうと、普通の人間は崇めるか、忌避するか、二択しか選ばない。


 そして、この辺りの子達はどうやら後者を選んでくれたらしく、まぁ、そんな危険人物とは、仕事でもなければ、接触は避けたいという気持ちなのだろう。

 まぁ、気持ちはわからないでもない。


 なんとなく、徐々に人間離れしてくる勇者様の気持ちって、こんな感じなのかなー、などと思う。


 前は、私の外見だけで近寄ってくるチャラい貴族も多かったが、だんだんと名前が売れてくると、そんな人間も皆無になった。

 今や、私はチヤホヤされる少女でもなく、英雄視される偶像でもなく、それを越えた恐怖の対象になってしまったのだ。


 うん。でも、しかたない。

 これが私が選んだ道なのだから。


 そう考えると、キャンベル公爵が、あまり目立つな、ということも一理あるのかもしれない。

 そう、それは、私の父が密かに一人仕事をしていることと同じ……。


 そこまで考えて気づく。


 あれ、もしかして、私。

 知らず知らずのうちに父と同じ立場に立っているのではないか、と。


 そこに気づくと、私としては仕方がないかな、という気にもなってくる。


 あの親にしてこの子あり。

 血は繋がってはいないが、たしかに、魔人ガンバルドの娘なのかもしれない。

 魔人の娘だから、魔女か。

 それもいいかもしれない。


 人々が、にこやかに談笑しているパーティー片隅で、一人、壁際に立ち、私は苦い葡萄酒を一息に飲み干した。


次回は1/12(金)更新の予定です。

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