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第四十話 名誉回復

「それでは、戦勝を祝して。……かんぱーい!」


「かんぱーい!」


 私の乾杯の発声にリーゼルが合わせてくれる。たった二人だけの戦勝会だ。

 場末の酒場という雰囲気の場所だが、日陰者の私にとっては、こういった場所の方が似合っている気がする。


 あのドラゴンとの死闘が終わってからもう三週間が過ぎた。

 私たちは、あの後、逐次に撤退をしながら、防衛線を後退させていき、つい一週間前、リットリナ王国の騎士団の援軍との合流を果たした。

 そして、今頃は騎士団が反撃を開始している頃合いだろう。


 軍を立て直したあとは、もはや、私たちに仕事はなく、最後のお勤めと

 しての警戒任務も、騎士団合流時に無事に終え、傭兵契約の任期満了とともに、我々の部隊も無事に昨日解散となった。


 リーゼルが手配してくれた銃も、もうリーゼルがどこかへと処分したらしく、リットリナには一挺も残らなかった。こういった動きは素早い。


 そんな、リーゼルだが、なぜか傭兵稼業が終わったにも関わらず、私と未だに行動を共にして、こうやって、一緒に酒場で祝勝会をしてくれている。


「あんたの戦いぶりはなかなか良かったわよ。……私が誉めるなんて、めったにないことなんだから、感謝しなさいね」


 リーゼルがもったいぶって私に言ってくる。


「はいはい。そういえば、カレンがいないようだけど、どこにいったのかしら」


「カレンならさっき、用事があるとかいって、どこかに行ってしまったわよ」


 カレンも私と共に行動してくれている。

 まぁ、お目付け役みたいなもので、当たり前と言えば当たり前だが。

 さて、そろそろ、本来私がいるはずのヘイゲナー王国に戻らないとまずいかもしれない。

 でもまぁ、私がリットリナに戻っていることはすでにキャンベル公爵も知っているはずだから、私を捕まえようと思えば、いつでも捕まえることはできるはずだ。

 今さら急いだって仕方がないか。


「ところで、ルシフ。あんた、これからどうするの? たしか、今、あんた、リットリナだと肩身が狭いんでしょ? だから、カレンのところに身を寄せているのよね? ……もし、あんたがよかったら、うちの国に来てみない? それなりの待遇で遇することができるのだけど」


 そういえば、このリーゼル。カレンの紹介で、傭兵ということで出会ったのだが、銃を仕入れるルートを持っていることと言い、作戦立案能力といい、どう考えてもただの一傭兵ではあるまい。

 胡散臭すぎる。


「リーゼル。あんた、どこの出身よ? ……といってもだいたいわかるけどね。あの銃を一介の傭兵が手にいれることなんてできるわけないし、今回の資金に関してもだいぶあなたのところの陛下にはお世話になったしね」


「……んー、まぁ、口に出して詳しくは言えないかな。でも、割とご近所よね」


 リーゼルは、のほほーん、と言ってきた。

 まぁ、帝国です、なんて表立っては言えないよなー。


 私は香辛料とハーブがよく効いた煮込み豚肉にかぶりつき、かなり甘めの蜂蜜酒(ミード)で、一気に胃の中に流し込む。


「……で、ルシフ、あんたあの後、なんだっけ、ヒューリだったっけ? あいつとは何もなかったの?」


 ニヤニヤとした顔でリーゼルが、私の肩をつついてきた。


「……何もないわよ。単に後方の救護所まで連れていってもらって休んでいただけだし」


「ほんとかなー。実は一線を越えていたりして」


「ないない。私、あのあと直ぐに意識を失っちゃって、気がついたらベッドの上だったわ」


「そして、裸で寝ていた、と」


「んなわけないでしょ!」


 リーゼルはまったくアホなことばかり言う。でも、最初はこんなに打ち解けてはいなかったので、私にもやっと友人と呼べるような女友達ができた気がする。


「おーい、ルシフ。ちょっといいかな」


「あ、カレン、お帰りー」


 どこかへと姿を消していたカレンが手を振りながら戻ってきた。

 カレンにも今回、本当に色々とお世話になった。

 今回の戦いは、人の縁がこれほど大事なんだと気づかされた戦いだったように思う。


「簡単な事後報告だけね。……ルシフ。あなたの後任だった、メディアス辺境伯が軍法会議で絞首刑にされたわ」


 メディアスって、あの私を嵌めた査問委員会にでてたやつか。防衛の責任者だから、トカゲの尻尾切りをさせられたわけね。


「メディアス伯が死に際に、以前、ルシフを貶めるために虚偽の証拠をでっち上げた、と自白したらしいわよ。……というわけで、ルシフは晴れて無罪放免ね」


「その、なんとかって伯爵が罪の意識に苛まれて自白した、というわけではなさそうね」


 リーゼルがつまらなさそうに呟いた。


「それと、今回の戦功は、中央騎士団との緊密な事前作戦が奏効したものである、ということに公式になったらしいわよ。そういうわけで、ルシフ。あなたはこれからは中央騎士団の魔術将校として復帰だって」


 ヒラヒラと、カレンが羊皮紙をぶら下げている。


 ……なに?

 ……なんですか、それ?


「……ど、どういうこと?」


「要するに、今回の作戦はルシフ一人の功績ではなく、騎士団の功績だって言いたいんでしょ。その代わり、あなたへの嫌疑は全て、首を吊らされたあんたの後任が被った、と。しかしあれね。これで一応、あなたは大手をふって、リットリナに戻れることになるのね。あー、つまらない」


 リーゼルが、不機嫌そうにグラスを指で弾いた。


「……私が騎士団に?」


 なんでそうなるの?

 私としてはあまりにも急転直下な動きに、頭がうまく働かない。


「まぁ、できすぎた話には裏があるんだろうけどな」


 やれやれと椅子に座ったカレンが、葡萄酒(ワイン)を口に含みながら、どこか遠い目をしながら呟いた。


◆◇◆◇◆◇


「父上! どういうことですか!」


 怒気をはらんだ顔で、ヒューリが、執務室にて書類を書いている父キャンベルに詰め寄った。


「どういうこと、とは」


 キャンベルは涼しい顔で息子の怒りを受け流す。


「決まっています! ルシフのことです! なんで、ルシフの功績をまた奪ったんですか!」


「ふん。そのことか。なんでかと言われたら、我々にとって得だから、としか答えられんがな」


「だからといって、ルシフの命懸けの貢献を横から奪うような真似は許されません!」


「……いや。これでよいのだ。あやつはこれ以上目立たない方が良い。過去の嫌疑を晴らしてやり、勝手に帰国した件も罪に問わん。それに騎士団の内部で昇進までさせてやった。組織としてはこれ以上の報奨はあるまい?」


「……あなたはひどい人だ」


「よく言われる。まぁ、お前も今後は国を背負って立つ人材だ。清濁あわせて飲むだけの器量を持て。それと、騎士団内でのあれの管理はお前に任せるからな。頼むぞ」


「……は?」


 ヒューリは、頭にいくつもの疑問符を浮かべ、父がニヤリと笑っているのを、ただ呆然と見ることしか出来なかった。


次回は1/10(水)更新の予定です。

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