第三十六話 構え、そして撃て
「右翼、よーく狙って! ……今よ!」
轟音が戦場に響き渡る。
私の号令一下、一斉射撃が行われた。
こちらに向けて、粗末な槍を構えて突撃をしかけてきていた小鬼たちが、胸に弾丸を受け、血しぶきを撒き散らしながら吹き飛んでいく。
しかし、その数が多く、突撃をしてくる兵士の半分も倒れない。
そして、倒された他の兵士の屍を踏み越えて、次々に、前へ前へと進んでくる。
「補助者は次の小銃を射手に! 弾込め担当は次弾装填!」
既に弾込めを終えている銃を、補助者が射手へと手渡し、射手が今まで使っていた銃を回収する。
そして回収した銃を弾込め担当へと手渡し、次の弾を新たに弾込めさせる。
これで、単純な時間辺りの射撃回数を二倍にできた。
本当は三段打ちくらいやりたがったが、残念ながら、防御しないといけない平面がそれなりに広く、横隊を拡げる都合上これが限界だった。
間髪いれずに次の射撃ポイントで、先程の生き残りを仕留める。
これで、三回目の突撃を無事に切り抜けた。
傭兵隊には、槍と弓とで武装させ、打ち漏らした敵を弓で仕留めてもらっている。
現在までに、こちらは、すでに無傷で三百体以上のゴブリンや、オークを仕留めており、このまま順調にいけば、特に問題なく、防御しきれてしまいそうだ。
「やるわね、ルシフ。完勝じゃない!」
「ふふふ。さすが、私の嫁だな。今度、お風呂で背中を流してやろう」
リーゼルと、カレンが指揮の合間に打ち合わせをしに来てくれた。
カレンは聖堂騎士隊との連携を、リーゼルは、傭兵隊との連携を主に担当している。
「今のところは数が多いだけの単なる兵士相手だからね。……騎兵についてもスピードだけなら、こちらに分があるわ。でも、魔法使い相手だと……」
「ある程度まで近づかれると、爆炎魔法とかで、こちらが、一網打尽にされてしまいかねないわね。そうすると、魔法使いが戦線に出てきたら、優先的に仕留めないとダメね」
私が途中まで言いかけた残りをカレンが補足してきた。
目がキラキラと輝いている。
うーん、この人、戦略、戦術が根っから好きな人なんだなー。
「……うん? なにか、聖堂騎士隊から、連絡が来ているな」
カレンが、光ランタン通信による、聖堂騎士隊との連絡を確認しにいった。
しばらくして、カレンが戻ってきたが、その顔色が真っ青だった。
「……こ、後方で防衛網を築いていた、リットリナ騎士団が……全滅した」
「……へ?」
「ドラゴンが強襲してきたらしい。しかも、大型の古来種だ。そいつのせいで、兵士千名が犠牲になった、と」
……マジですか。
築城済みの防衛拠点のはずなので、石の壁で補強され、弓矢や、大型攻城弓で、重武装されているはず。
大砲でも使わねば簡単には破壊できないはずの防衛拠点を、こうもあっさりと、蹂躙されたとは。
「ドラゴンかー。対戦車砲でも用意しないとやばいわよねー」
私はぶつぶつと、独り考えに耽る。
「タイセンシャホーって、新しい魔法かなにかなの?」
目をキラキラさせながら、ずいっと、リーゼルが近づいてくる。
こいつのこの貪欲な知識欲はどこから来るのか。
あと、あんまり、聞き耳をたてないでほしいなー。
「い、いや、単なる独り言よ。気にしないで。で、そのドラゴンは今、どこにいるの、カレン?」
「そこまでの報告はないな。だが、警戒だけは怠れないな。……しかし、安心してくれ、ルシフ。君のことはわたしが命に代えても守るからな」
そういって、カレンが私の腰に手を回してきた。ついでに、おしりを一なでしてきた。
「こんな状況でセクハラするなー!」
私は渾身の右フックをカレンに炸裂させた。
◆◇◆◇◆◇
「ヒューリ隊長! 後方の防衛網と、補給線が全て寸断されました」
部下からの報告に、近衛騎士のヒューリは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべるしかなかった。
「……もはや、戦線を後退させながら、時間を稼ぐことが出来ないな。ここが、最終防衛ラインだ」
毅然とした顔で部下に指示をだしていく。
少しでも長い時間、前線で敵を引き付け、後方の回復を図らねばならない。
そのためには、軽々しく全滅覚悟の突撃はできない。
「ヒューリ殿、撤退の指示はまだですか!」
聖堂騎士隊のリングテールが騎乗したまま、本部を訪ねてきた。
「……リングテール殿。悪い知らせだ。後方の防衛網が、古竜の攻撃を受け、壊滅したとの報告があった」
「エ、エルダードラゴンですか。そんなものに襲われたら、我々としても対処しようがないですな」
リングテールは、一つ身震いしたが、顔には戦慣れした者特有の笑みが浮かんでいた。
もはや、彼らが最後の希望なのだ。
「あぁ、まったくだ。だが、リングテール殿。我々もなにもしないわけにはいくまいよ。なにしろ、我々が最前線の最後の兵士なのだからな」
「ヒューリ殿。心得ておりますとも」
リングテールは力強く頷く。
「……あのー、お忙しいとこ悪いんだけど、そろそろ、うちの傭兵隊の一部から、契約打ちきりを宣告されてきたんですがね。追加の支援金は出せないんですよね?」
「……残念ながら私の権限では」
ヒューリが、副ギルド長のヘッカーソンに、口惜しそうに返答した。
もはや、彼の一存ではどうにもならない状況に陥っている。
「そうですか。申し訳ないんですが、連中、金の切れ目が縁の切れ目の連中なもので、明日には、撤退してしまいますので、そこはご了承くださいね」
「……今までの助力感謝する」
ヒューリの声は消え入りそうだ。
そこに追い討ちのごとく、最悪な報告が入ってきた。
「た、隊長! ド、ドラゴンが上空に現れました!」
「!? ……つ、ついに来たか。よし、近衛騎士団、戦闘準備! リットリナ騎士の誇りと武勇を見せつけるぞ!」
「はっ!」
ヒューリの激励に部下たちが威勢良く返答をしたが、その声は心なしか、悲壮感が漂っていた。
次回更新は、ちょっと時間が空いて、1/2(火)になります。
ご承知おきください。




